前立腺肥大症の治療

前立腺肥大症はそれ自体が命を脅かす病気ではないので、治療は患者さんの自覚症状を重視し、 I-ISSなどによる重症度の判定を基本に、日常生活での差し障りや患者の希望などに応じて薬物療法や手術療法などが行われます。

■前立腺肥大症の治療

重症度によって薬物療法や手術療法などが行われる

前立腺肥大は良性の腫瘍です。がんのように他の臓器に転移したり、周囲の組織に広がることはありません。 したがって、治療の目的は、「夜中にトイレに起きることなく、十分に休息がとれる」 「トイレのことを気にせずに活動できる」など、前立腺肥大による尿トラブルを改善して、ふだんの生活の質を高めることにあります。
前立腺肥大症の治療法は、「薬物療法」「手術療法」「低侵襲治療」の3つに大きく分けられ、 国際前立腺症状スコアや尿の勢いなどを総合的に診て、重症度にあわせた治療が行われます。 ただし、前立腺の肥大があっても、症状が軽い場合には、特別な治療を行なわず、「経過観察」をすることもあります。


■軽症の場合

前立腺肥大症は、必ずしも治療が必要な病気というわけではありません。 前立腺肥大症と診断されても、経過観察となるケースがあります。 治療が必要かどうかは、前立腺の大きさではなく「排尿障害の程度」「日常生活にどの程度支障をきたしているか」 などで判断されます。経過観察となるのは、排尿障害があっても、問題なく日常生活を送れる程度に 症状が維持されている場合です。経過観察の場合、積極的な治療は行わずに、半年に1回は受診して、 症状をチェックするようにします。日常生活に注意して、症状を悪化させないことが大切です。


●日常生活の工夫

前立腺肥大症のある人は

  • 刺激の強い食べ物を避ける
  • お酒を飲みすぎない
  • 長時間座った姿勢をとらない

ことが勧められています。これらは前立腺のうっ血を促し、一時的に排尿障害を悪化させると考えられているからです。 ただ、このような工夫で、前立腺が小さくなるわけではありません。症状が加齢に伴って進行することが多く、 日常生活に支障を来たし始めたら「薬物療法」などの治療を受けることが勧められます。 排尿障害が悪化したら、医師に相談してください。


■軽症~中等症の場合

軽症でも症状が進んでいる場合や、中等症の場合に、「薬物療法」が行われます。 薬物療法は最も広く行なわれている治療法で、主に次のようなものが使われます。

▼α遮断薬(機能的閉塞を軽減する)
薬物療法で最初に使われることの多い薬です。尿のトラブルには、前立腺などの筋肉が過剰に緊張・収縮し、 尿道が圧迫されることも関係します。α遮断薬は前立腺や尿道の筋肉の緊張を緩和して、 尿道への圧迫を抑え尿の通りを改善します。。かつては「血圧が下がる」「起立性低血圧・めまい」 という副作用がありましたが、最近ではこの副作用は軽くなっています。 服用を中止すると再び排尿障害が現れる可能性があるため、基本的に服用し続けます。

▼抗男性ホルモン薬(機械的閉塞を軽減する)
前立腺の肥大には、男性ホルモンが関係していると考えられています。 抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンが前立腺に働かないようにして前立腺を小さくし、尿の通りをよくします。 なお、効果が現れるまでに数週間かかります。また、「PSA(前立腺特異抗原)」 の値を下げる作用があり、前立腺癌の発見が遅れてしまう可能性があるので、使用には注意を要します。 さらに、副作用として「性機能障害」を伴うため、3~4ヶ月間使用していったん中止し、 症状が悪化してきたら再び使用する方法がとられることがあります。

▼植物製剤、アミノ酸製剤、漢方薬、抗コリン薬など(症状の改善を図る)
前立腺のうっ血やむくみをなどの症状を抑える効果が期待できます。副作用が少ないのも特徴です。

【関連項目】:『前立腺肥大症の薬物療法』


■中等症~重症の場合

排尿障害などの程度が重い場合、あるいは薬物療法を行っても十分な効果が見られなければ、 「手術療法」などの治療が行われます。 標準的な手術法は「経尿道的前立腺切除術」(TUP-R)という内視鏡を使った手術ですが、 前立腺の肥大が著しい場合などには「開腹手術」が行なわれることもあります。 また、「レーザー治療」「高温度療法」などの「低侵襲治療」もあります。

▼TUR-P(経尿道的前立腺切除術)
尿道から「切除鏡」と呼ばれる内視鏡を挿入して、前立腺の一部を切り取る手術です。 切除鏡の先端からループ上の電気メスを出し、高周波電流で前立腺を少しづつ削ります。 削った組織は膀胱内に落とし、最後にまとめて吸引します。 前立腺肥大症の手術のほとんどが、この方法で行なわれています。 従来の「開腹手術」に比べて、体への負担が少ないのが特徴です。 TUR-Pの対象は、大きさ(容積)が100ml前後までの前立腺です。 それ以上になると、2回に分けたり、開腹手術が行なわれる場合もあります。 合併症として、射精した精液が膀胱に逆流する「逆行性射精」や「尿失禁」「血尿」があります。 手術は1時間程度。日帰りで行なう医療機関もありますが、一般的には3~7日間入院します。

▼レーザー治療
尿道から治療器具を挿入し、レーザーを照射して、前立腺を切除したり蒸散させます。 出血量がTURPより少なく、体への負担がTURPよりも軽い治療法で、お年寄りや心臓病がある人、 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人も受けることができます。 入院期間も一般的にTURPより短くて済みます。 合併症として、逆行性射精、尿失禁、血尿が起こることがあります。
前立腺肥大症の治療に使われるレーザーのなかで、最近注目されているのが 「ホルミウムヤグレーザー」で「HoLEP」と「HoLAP」の2つの方法があります。

【HoLEP】
尿道に内視鏡を挿入して、レーザー光線を照射する「レーザーファイバー」を送り込みます。 レーザーファイバーを前立腺の内腺と外腺の境目に入れて剥離させ、内腺の部分をくりぬきます。 切除した前立腺はいったん膀胱内に落とし、内視鏡を使って取り出します。 入院期間は3~4日程度です。100mlまでの前立腺が対象ですが、一部ではより大きな前立腺に対しても 行なわれています。

【HoLAP】
尿道にレーザーファイバーを送り込み、尿道に面した前立腺にレーザーを当てます。 すると、雪を熱湯で溶かすように、前立腺の組織が蒸散して、尿道が広がります。 入院期間は3~4日程度です。なお、組織を蒸散させるのに少し時間がかかるため、 40~50ml程度までの前立腺が対象となります。

▼温熱・高温度療法
尿道や直腸に装置を挿入して、超音波やマイクロ波などを用いて前立腺を高温で熱し、 組織を壊死させたり、縮小させる治療法です。

治療後、射精した精液が膀胱に逆流する「逆行性射精」が起こる場合があります。 ただし、膀胱に逆流した精液は、尿とともに流れ出るので特に心配はありません。 射精の感覚も残ります。また、手術のときに尿道括約筋が傷ついて、「尿失禁」が起こることもあります。 いずれの手術方法でも起こる可能性がありますが、HoLEPの治療後にやや多いようです。

以上の治療が難しい場合に行われるのが、「尿道ステント留置」「尿道カテーテル留置」です。

▼尿道ステント留置
筒状になった金属製の「ステント」を前立腺の尿道部分に入れておき、 尿の通り道を確保します。

▼尿道カテーテル留置
尿道に「カテーテル」という細い管を通しておき、いつでも尿が出せる状態にします。