おたふくかぜ

幼児や小学校低学年の子供がかかることの多いおたふくかぜは、さまざまな合併症を起こす可能性があります。 おたふくかぜにかからないようにするには、予防接種を受けることが大切です。




■おたふくかぜとは?

ムンプスウィルスの感染で、頬や顎の下のあたりが腫れる

おたふくかぜの患者数が多かったのは、近年では2010年と2016年でした。 おたふくかぜにかかるのは、幼児から小学校低学年くらいまでの子供が多くなっています。 おたふくかぜは、”子供の時にかかった方が軽く済む”などといわれることがありますが、これは間違いです。 子供がかかった場合でも、合併症によって後遺症を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。


●おたふくかぜの原因

おたふくかぜは、正式には流行性耳下腺炎といい、ムンプスウィルスの感染で起こります。 感染すると、平均18日前後の潜伏期間を経て発症します。 ただし、ムンプスウィルスに感染しても30~40%程度は、症状が起こらない不顕性感染であるとされています。 特に0歳児や低年齢でおたふくかぜにかかった場合、不顕性感染であることも多いと考えられています。 そのため、自分が以前おたふくかぜにかかったかどうかを正確に把握するのは難しいのです。 ムンプスウィルスは、症状が現れる6日ほど前から唾液中に排出されるといわれています。 そのため、知らないうちに人に移してしまうことがあり、保育所や幼稚園、学校などで流行することがあります。

ムンプスウィルスの主な感染経路は、飛沫感染接触感染です。

▼飛沫感染
感染している人の咳やくしゃみ、会話などでウィルスを含んだ飛沫が飛び、周囲にいる人が鼻や口から吸いこんで感染します。

▼接触感染
感染している人とキスをしたり、ムンプスウィルスが付着した手やドアノブ、手すりなどに触れた手で、口や鼻、目に触ったりすることなどで感染します。

●おたふくかぜの症状

おたふくかぜの代表的な症状は、片側または両側の頬や顎の下の辺りが腫れることです。 体内に侵入したムンプスウィルスは、鼻や喉の気管の粘膜、首などのリンパ節で増殖した後、血液の流れに乗って全身に広がります。 ムンプスウィルスが感染しやすい部位の1つが、唾液を分泌する唾液腺です。 唾液腺には、耳の下にある耳下腺、顎の下にある顎下腺、舌の裏側にある舌下腺があります。 唾液腺ではムンプスウィルスを排除しようとする免疫機能が働き、炎症が起こります。 その結果、唾液腺や、唾液腺のある顔の周りが腫れ、痛みが生じたり、発熱したりします。 そのほか、頭痛、倦怠感、食欲低下、筋肉痛、首の痛みなど、風邪と似た症状が現れることがあります。
現時点では、ムンプスウィルスに対する効果的な治療法がないため、医療機関では、点滴で脱水症状を防いだり、 解熱薬や鎮痛薬を使って症状を和らげる対症療法を行います。 口を開けたり、咀嚼したりすると頬や顎などが痛むので、食事は刺激が少なく、のど越しがよいものを摂り、唾液の分泌を促す酸っぱい食べ物などは避けましょう。 また、こまめに水分補給をして、脱水を予防することが大切です。


■おたふくかぜの合併症

ムンプスウィルスは、髄膜や内耳、精巣、卵巣、膵臓などにも感染しやすいため、次のような合併症を起こすことがあります。 合併症を起こす頻度は、比較的高いものから稀なものまでさまざまです。

▼無菌性髄膜炎
代表的な合併症です。脳と髄膜を包む髄膜にムンプスウィルスが感染して炎症を起こし、高熱や嘔吐、頭痛などの症状が続きます。 症状は通常1~2週間ほどで治まります。

▼脳炎
ムンプスウィルスが脳に感染すると、高熱や頭痛、痙攣、意識障害などの重い症状を来すことがあります。 合併症としては稀ですが、重い後遺症を引き起こすこともあります。

▼感音性難聴
「ムンプス難聴」とも呼ばれる合併症です。ムンプスウィルスが内耳の蝸牛に感染して障害を引き起こし、聴力に支障を来します。 日本の小児科医らの調査によると、おたふく風邪を発症した人の約1000人に1人が、感音性難聴になっていたという調査もあります。 学童期(特に小学校低学年)に最も多く起こり、次いで子育て世代に多いことがわかっています。

▼精巣炎
思春期以降に男性がおたふくかぜにかかると、精巣で炎症が起こることがあります。 不妊症の原因となることは稀ですが、睾丸委縮を伴って精子数が少なくなることがあると考えられています。

▼卵巣炎
女性では、卵巣に炎症が起こることがあるとされています。

▼膵炎
膵臓に炎症が起こります。みぞおちから臍の上あたりに痛みが起こることがあります。 吐き気や嘔吐、おなかが張るなどの症状を伴うこともあります。

■おたふくかぜの予防

おたふくかぜワクチンは2回接種が基本となる

●抗体検査

一度おたふくかぜにかかると、多くの場合、抗体ができますが、まれに再感染が起こることもあります。 おたふくかぜにかかったかどうかわからない場合は、血液を採取してムンプスウィルスに対する抗体の有無を調べる抗体検査を、 内科や小児科などで受けるとよいでしょう。小児科では、お子さんと一緒に親も抗体検査を受けることができます。 おたふくかぜに対する免疫の有無を調べる場合は、通常、感度の高いEIA法が用いられます。 なお抗体があるかどうかを調べる目的で抗体検査を行う場合は、健康保険が適用されません。


●おたふくかぜワクチンの接種

おたふくかぜを予防するには、おたふくかぜワクチンの接種を受けることが勧められます。 おたふくかぜワクチンの接種については、先進国では定期接種となっていますが、日本では、接種を受けるかどうかを自分で判断する「任意接種」になっています。 おたふくかぜワクチンは2回接種がお勧めで、1歳以降に接種を受けることができます。 日本小児科学会では、1歳で1回目の接種、小学校入学前1年間(5~6歳)に2回目の接種を受けることを推奨しています。 おたふくかぜワクチンは、ムンプスウィルスの毒性を弱めた生ワクチンです。 そのため、副反応として、稀に唾液腺の腫れや無菌性髄膜炎、極めて稀に脳膜炎などが起こることがあります。 ただし、おたふくかぜに自然感染して起こる症状や合併症より、おたふくかぜワクチンの接種で起こる副反応の頻度が低いことがわかっています。 大人も子供も、おたふくかぜワクチンには副反応があるからと接種を避けるのではなく、メリットとデメリットを正しく理解して、接種を検討することが大切です。 おたふくかぜワクチンの費用は、1回につき4000~6000円程度です(2018/5月)。自治体によっては費用の助成を行っているところもあります。 おたふくかぜワクチンは、内科や小児科などで接種を受けることができます。 医療機関では、常におたふくかぜワクチンを置いているとは限らないので、事前に問い合わせるとよいでしょう。

自然感染とおたふくかぜワクチンによる症状・疾患の頻度