膠原病

女性に起こりやすい膠原病は、全身のあちこちに炎症が続く病気の総称です。 最近は検査法や治療法が進み、早期に適切な治療を受けることで、症状が治まった状態を維持できるようになってきています。


■膠原病とは?

膠原病は、ある一つの病気を示す名前ではありません。「免疫の異常によって(自己免疫疾患)、全身の結合組織に炎症が起こり(結合組織疾患)、 体の様々な部位に同時にいくつもの症状が現れる」という共通の特徴を持った病気のグループ名です。 膠原病の代表的な病気には、「関節リウマチ」「全身性エリテマトーデス」「シェーグレン症候群」などがあります。 これらの病気にはそれぞれに特徴的な症状がありますが、共通してみられるのが「リウマチ症状」と呼ばれる関節や筋肉の腫れや痛みです。

膠原病は3つの特徴を併せ持つ


◆全身に様々な症状が現れる

膠原病では、全身の結合組織や血管に起こる炎症によって複数の臓器が同時多発的に障害されるため、現れる症状も多岐にわたります。

◆原因は免疫の異常

免疫は、私たちの体に備わている防御システムの一つで、 外から入ってきたウィルスや細菌などの異物を攻撃し、排除する働きをしています。 本来、免疫には「自分」と「自分でないもの」を識別し、自分の体は攻撃しない仕組みが備わっています。 ところが、何らかの原因でこの仕組みが壊れると、免疫の働きに異常が起こり、自分の体を攻撃するようになります。 このように、免疫が異物ではない自分の体の組織をめがけて攻撃する状態を「自己免疫」といい、 自己免疫によって生じる「自己免疫疾患」といいます。 自己免疫疾患には、さまざまな病気がありますが、膠原病は全身の複数の臓器が障害される「臓器非特異的自己免疫疾患」に分類されます。

◆免疫の異常で、自分の体が攻撃される

免疫で中心的な役割を担っているのは、血液中にある「リンパ球」です。 体外から異物(抗原)が侵入すると、リンパ球あその抗原を攻撃するための「抗体」を作ります。 一方、自己免疫疾患の場合は、自分の体の組織を抗原とみなし、それを攻撃するための「自己抗体」が作られます。


膠原病が発症する仕組み





■膠原病に含まれる主な病気

関節リウマチ
複数の関節に同時に炎症が起こり、腫れや痛みが現れます。 起床時の手足のこわばりから始まることが多く、進行すると関節が変形します。膠原病の中ではもっとも患者数が多い病気です。

全身性エリテマトーデス(SLE)
20~40歳代の女性に多く発症します。強い紫外線や妊娠・出産が発症の引き金になりやすく、全身に様々な症状が現れます。 両頬にできる蝶形紅班は特徴的な症状の一つです。

強皮症
皮膚の弾力が失われて硬くなっていく病気です。硬化が内臓にまで及ぶタイプが膠原病に含まれます。 初期に手指の腫れやレイノー現象が現れることが多いです。

▼多発性筋炎/皮膚筋炎
筋肉に炎症が起こり筋力が低下する病気です。上蓋がむくんで赤紫色になったり、皮膚に発疹が見られたりする場合は皮膚筋炎、 それらがない場合は多発性筋炎と診断されます。

▼シェーグレン症候群
涙や唾液の腺組織に炎症が起こり、ドライアイドライマウスの原因になります。 組織と組織を埋める「間質」に炎症が起こり、間質性腎炎や間質性肺炎などを引き起こすこともあります。

▼抗リン脂質抗体症候群
血栓ができやすくなり、あちこちの血管が詰まることで様々な症状が現れます(血栓症)。 20歳代でのの発症が多く、女性の場合は流産や早産などのリスクになります。

▼血管炎症症候群
膠原病のうち血管壁に炎症が起こる病気の総称です。発熱や倦怠感などの全身症状に加えて、病気ごとに特徴的な症状がみられます。 発症しやすい年代や性別はびょきによってこと異なります(下記参照)。

●血管炎症候群

▼高安動脈炎(大動脈炎症候群)
大動脈など太い動脈に炎症が起こります。若い女性に多く、突然、 脳梗塞心筋梗塞など重篤な病気を引き起こすこともあります。

▼巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
こめかみを通る動脈に炎症が起こります。こめかみの周囲の痛みのほか、目がかすむ、顎の痛みなどの症状が現れれます。発症は50歳以上に多いです。

▼結節性多発動脈炎
炎症の起きた血管に瘤ができます。40~60歳代での発症が多いです。全身に様々な症状が同時ではなく、次々に現れます。

▼川崎病
乳幼児に起こる血管炎です。冠動脈に瘤ができると、血栓ができたり血管の内腔が狭くなったりして、心筋梗塞を引き起こすことがあります。

▼多発性血管性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)
細い血管に炎症が起こります。眼痛、中耳炎、鼻水や鼻血、のどの痛みなどから始まり、徐々に肺や腎臓などに障害が広がっていきます。 30~60歳代に多い病気です。

■膠原病の治療

薬で異常な免疫を抑える

現在のところ膠原病を完治する治療法は見つかっていません。そのため、症状が治まった状態である「寛解」を維持することを目指した治療が行われます。 治療の中心は自己免疫を抑えるための薬物療法で、主に次のような薬が使われています。

▼ステロイド薬
ほとんどの膠原病の治療の基本となる薬で、炎症と免疫の働き方の両方を強力に抑える作用があります。 高い効果が得られる一方、さまざまな副作用があるので、最近は、症状が強く出ているときは大量に使い、 症状が落ち着いてきたら、なるべく早く使用量を減らす方法がとられています。 寛解に至った後も、少量を使い続けるのが基本です。

▼免疫抑制薬
ステロイド薬とは異なる仕組みで免疫の働きを抑える薬です。炎症を抑える作用はほとんどありません。 現在はステロイド薬の副作用を軽減するために、免疫抑制薬とステロイド薬を併用する治療が主流です。 なお、関節リウマチの場合は、免疫抑制薬(メトトキレサート)を最初から単独で使うのが標準的な治療になっています。

▼生物学的製剤
生物学的製剤とは、体内のある特定の物質を狙い撃ちする性質を持った薬です。 膠原病の場合は、異常な免疫反応によってつくられた物質や免疫細胞そのものを標的にして、免疫の働きを抑えます。 これまでは主に関節リウマチの治療に使われてきましたが、ここ数年でその他の一部の膠原病にも使用が広がってきています。 新たに生物学的製剤が使えるようになることで、これまでの治療では効果が得られにくいケースにも対応が可能になったり、 ステロイド薬の副作用の軽減に繋がったりすることが期待されています。