川崎病

乳幼児に起こる、原因不明の病気

川崎病は、1歳前後の乳幼児に多く見られ、 全身の血管に炎症が起こる病気で、高熱や目の充血、発疹などのさまざまな症状が現れます。 50年ほど前に小児科医の川崎富作氏が発見したことから、この病名が付けられました。 乳幼児の約70人に1人の割合で発症し、4歳以下、特に1歳前後の子供に多く起こります。 患者数は年々増え続けており、1970年には800人ほどだったのが2018年には1万7364人と、過去最多になりました。 川崎病がなぜ起こるのか、原因は明らかになっていません。 何らかの「感染」がきっかけとなって、免疫の働きに異常が起こり、 血管の炎症などが起こると考えられています。重い合併症を防ぐためには、早期治療が大切です。


■特徴的な6つの症状

高熱
38℃以上の高熱が数日間続きます。

目の充血
両方の目の”白目”の部分が、血管が浮き出るように赤くなるのが特徴です。

唇の充血・出血・いちご舌
唇が乾燥して充血し、症状が重い場合は唇が切れて出血することがあります。 舌はイチゴのようにブツブツと赤くなります。

発疹
大きさや形の異なる赤いまだら状の発疹が現れますが、軽度の発疹のこともあります。

▼手足の変化
手足が赤く腫れ、熱が下がると、指先と爪の境目から皮膚が剥がれていきます。

首のリンパ節の腫れ
耳の後ろから首にかけて腫れ上がり、触ると硬く感じます。 基本的に片側だけに起こります。

症状として最初にみられるのが高熱で、その後数日で、他の症状が現れます。 高熱はすべての患者さんにみられる症状で、目の充血や唇・舌の症状、発疹、手足の症状は約90%の患者さんに現れます。 首のリンパ節の腫れは約70%の患者さんにみられます。これらのうち5つ以上の症状が現れた場合、川崎病と診断されます。 子供はしばしば発熱することがありますが、その場合、川崎病の可能性も考えて、全身をよく観察し、気になる症状があれば早めに受診してください。 発疹などの症状は、時間が経つと消えることがあるので、携帯電話に付いているカメラなどで記録しておき、医師に見せるとよいでしょう。


■怖いのは心臓の血管にできる瘤

●狭心症・心筋梗塞に繋がることも

川崎病で特に注意が必要なのは、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈という血管にできる「冠動脈瘤」という合併症です。 血管の炎症が続くと、冠動脈の組織が変化して、瘤のように膨らんでしまうことがあります(冠動脈瘤)。 すると血流が滞り、血栓ができやすくなります。その血栓によって冠動脈が狭くなって血流が不足すると 「狭心症」が、血栓が冠動脈に詰まって血流が途絶えると 「心筋梗塞」が起こります。

◆早期治療で発症率は低下する

炎症によって血管が膨らむ前の早い段階に適切な治療をすることで、冠動脈瘤の発症率は低下することがわかっています。 しかし、早期に適切な治療が行われなかった場合、2~3割の患者さんに冠動脈瘤が現れるといわれています。 冠動脈瘤があるかどうかは、心臓に超音波を当てて画像にする「心エコー検査」で調べます(下図参照)。

心エコー検査の画像


■冠動脈瘤を防ぐ治療

冠動脈瘤を防ぐためには、川崎病の発症後、遅くとも7日以内に治療を始めることが重要です。

●免疫グロブリンとアスピリンを併用する

治療の基本は、免疫グロブリンとアスピリンの併用です。免疫グロブリンは、点滴用の血液製剤で、全身の炎症を抑える効果があります。 アスピリンは飲み薬で、血管の炎症を抑えたり、熱を下げたり、血栓ができるのを防ぎます。 免疫グロブリンとアスピリンがよく効いた場合は、数日以内に熱が下がり、他の症状も治まります。 その結果、冠動脈瘤の発生も防ぐことができます。 一方で、この治療法で効果の見られないケースが、15~20%あるといわれています。


●症状が改善しない場合の治療

症状が改善しない場合や血液検査などで改善しないと予測される場合は、さらにステロイド薬の併用が検討されることがあります。 それによって、冠動脈瘤の発生が減少するという報告もあります。 また、10日以内に炎症を抑えるため、さまざまな新しい治療法が開発されています。 炎症を起こすTNF-αという物質の働きを抑えることで症状を改善する「抗TNF-α薬の点滴注射」、 患者さんの血漿に含まれる原因物質を透析治療のような装置で取り除く「血漿交換療法」などがあります。 また、「免疫抑制薬」が使用されることなどもあります。症状の現れ方や血液検査の結果などによって、治療法が選ばれます。 これらの治療で熱が下がり、冠動脈瘤を防ぐことができた場合も、予防のためにアスピリンの服用を2~3ヵ月間続けます。 その後は、半年から1年に1回、定期的な検査を5年ほど受ける必要があります。


■冠動脈瘤ができた場合の治療

冠動脈瘤ができた場合は、狭心症や心筋梗塞の発症を防ぐために、血栓ができるのを予防するアスピリンを飲み続けます。 また、アスピリン以外の抗血小板薬や、抗凝固薬のワルファリンを併用することもあります。 冠動脈瘤は、年齢とともに血管壁の内側が厚くなり、瘤がなくなることもあります。 一方、厚くなり過ぎて冠動脈が狭くなったり、血栓で詰まったりする場合は、心臓カテーテル治療やバイパス手術が行われることもあります。 いずれも、定期的に検査を受け続けることが大切です。