耳鳴り・難聴・めまい①
日本語は聞き取りが容易なため、聴力の衰えにきわめて鈍感で、難聴の早期発見が困難であり、耳鳴り・難聴・めまいを放置しやすく要注意です。
■聴覚や平衡感覚の衰えに冬は特に要注意
冬になると、「キーンという異音が絶えず聞こえる」「テレビの音が聞き取りにくい」「目の前がグルグル回る」
などの不快症状を訴える患者さんが多くなります。ただでさえ、現代社会を生きる私たち日本人の耳は、危機的な状況に陥っています。
労働者や主婦、学生の多くが、大きなストレスを抱えながら毎日を慌ただしく暮らしています。
過労や睡眠不足に悩まされている人も少なくありません。
さらに、乱れた生活習慣により肥満・高血糖・高脂血症・高血圧・動脈硬化などの生活習慣病が蔓延していることも問題です。
これらのストレスや過労、乱れた生活習慣が、耳の健康を害する大きな原因となります。
そして、そこに寒さや冷えによる血液やリンパ液の流れの停滞が加わることが、耳鳴り・難聴・めまいが冬に多発する要因と
考えられるのです。こうした耳の不調を放置していると、耳鳴りやめまいが重症化・難治化したり、聴力が低下したりする
ことにもなりかねません。耳鳴り・難聴・めまいも、他の病気と同じように、早期発見・早期治療が大原則です。
聴力や平衡感覚の異常を感じたら、直ちに耳鼻咽喉科を受診すべきでしょう。
●加齢性難聴は高音から聞こえにくくなる
とはいえ、日本人は耳の異常に気付きにくく耳の不調を悪化させやすい傾向があります。 特に聴力の低下には、とても鈍感です。なぜなら、私たちが普段話している日本語は、他の言語に比べて、 聞き取るのが容易だからです。日本語は必ずといっていいほど音に母音が入ります。 母音は周波数が1000ヘルツ前後の低音で、子音は約2000~3000ヘルツの高音です。 日本語は子音だらけの外国語より周波数がずっと低いのです。 問題なのは、私たちの耳が加齢とともに4000~8000ヘルツの高音部から聞こえづらくなることです。 つまり、子音をだんだん聞き取りにくくなるのです。その点、日本語は母音が多いので聞き取りやすいという利点がある反面、 難聴が始まっても不便を感じにくく、難聴の発生に気付きにくい、という欠点があるのです。 これが、耳の病気の発見を遅らせる一因といえます。
●生活習慣の改善と早期治療が肝心
そもそも、私たちの聴覚は、きわめて繊細な仕組みの上に成り立っています。 人間の耳は、音を集める「外耳」、鼓膜や耳小骨によって空気の振動を伝えて増幅させる「中耳」、 蝸牛という器官で音の空気振動を液体振動として感知し電気信号に変換する「内耳」の三つに分かれています。 そして、内耳で生じた電気信号が、蝸牛神経を介して脳幹→大脳の聴覚野に達して初めて、音を聞くことができるのです。 また、内耳には、平衡感覚を担う重要な器官も備わっています。それが、三半規管と耳石器から成る前庭です。 前庭で生じた電気信号が前庭神経を介して脳幹から小脳へと伝わるので、私たちはフラフラせずに立ち歩くことができるのです。
こうして聴覚や平衡感覚を生み出す経路は極めて繊細で、これらのどこかに少しの異常が生じただけでも、耳鳴り・難聴・めまいが
生じてしまいます。しかも、聴覚や平衡感覚を狂わす原因は多岐にわたっています。
原因が耳にあるのか、脳にあるのか判然とせず、専門医でさえ診断が非常に難しいものです。
とはいえ、多くの場合、耳鳴り・難聴・めまいの発症に、生活習慣が深く関わっていることは確かです。
耳の健康を損なう危険因子として特に問題なのは、喫煙・有機溶剤・カフェイン・騒音・低血圧・アレルギー・睡眠不足・
便秘・メタボなどです。
これらの危険因子を取り除くだけでも、1割くらいの患者さんは耳鳴り・難聴・めまいをコントロールできます。
さらに、薬物療法やステロイド鼓室内注入法などの適切な治療を速やかに受ければ、6割くらいの人が症状を軽減でき、
慢性的な難聴でも残された聴力を最大限に引き出すことができます。
耳鳴り・難聴・めまいを克服するうえで大切なことは「一に生活習慣の改善、二に自己節制、三、四がなくて五に薬」 といわれます。医師や薬に頼りきりになるのではなく、患者さん自身が最善の努力をする心構えを持つことが肝心です。