癌治療に『高濃度ビタミンC点滴療法』

大量の「ビタミンC」を点滴することによって、 癌細胞を副作用なく殺す画期的な新療法が登場し、米国で注目されています。 ビタミンC点滴療法はほぼ全部位の癌に有効で、痛みが和らぎ、進行癌でも改善例が多いようです。


■ビタミンCが癌細胞だけを死滅させる

米国の権威ある雑誌に論文が発表された

2005年9月に、米国でビタミンCのイメージをがらりと変える画期的な研究論文が発表されました。 論文が掲載されたのは『米国科学アカデミー紀要』という機関紙で、『サイエンス』誌、『ネイチャー』誌と並ぶ、 権威ある科学総合雑誌です。そのタイトルは、「アスコルビン酸(ビタミンC)は選択的に癌細胞を殺す」というもので、 「ビタミンCは正常な細胞に影響を与えず癌細胞だけを殺し、副作用がない理想的な抗癌剤である」という 驚くべき内容でした。この論文を発表したのは、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立癌研究所(NCI)、 米国食品医薬局(FDA)、アイオワ大学フリーラジカル・放射線研究部門に所属する8名のドクターや科学者で、 代表はマーク・レバイン博士です。

論文の根拠となった実験は、人間にビタミンCを静脈から点滴したときと同じ状態を、試験管内で再現して行われました。 普通、人間のビタミンCの血中濃度は0.1ミリモル程度です(ミリモルとは、ビタミンCの血中濃度を示す単位)。 高濃度のビタミンCを点滴すると、0.3~20ミリモルまで上昇します。このとき重要なのは、ビタミンCを点滴で 血液中に送り込むということです。ビタミンCを口からどんなに多く摂取しても、血液中のビタミンCの濃度は0.22ミリモルを超えることはありません。

第一の実験では、ビタミンCが正常細胞に害を与えず、癌細胞だけを殺すかどうかについて検証されました。 具体的には9種類の癌細胞と4種類の正常細胞をビタミンCの入った試験管内に1時間さらし、 24時間後にどうなるかを観察しました。その結果、5ミリモル以下のビタミンC濃度で、9種類の癌細胞のうち 5種類が50%死滅し、正常細胞には全く影響がなかったのです。影響のなかった4種類の癌細胞のうち、3種類の癌細胞は、 その増殖が99%抑えられました。

第二の実験では、ビタミンCの癌の細胞死に与える影響が、より詳しく検証されました。 人間のリンパ腫細胞(癌細胞)を、0.1~5ミリモルの間の8段階のビタミンC濃度の中にそれぞれ1時間さらしたところ、 濃度が2ミリモル以上になると100%死滅することが確認されました。つまり、ビタミンCの濃度が高くなればなるほど、 癌細胞の死滅率も上昇することがわかったのです。


●高濃度ビタミンC点滴療法の登場

副作用がほとんどない画期的な癌治療法

では、ビタミンCによって癌細胞が死ぬのは、なぜでしょうか。
この点についても、実験を重ねることで解明されています。高濃度のビタミンCが点滴で血液中に入ると、 ビタミンCが血管の外の細胞にしみ出します。すると、癌細胞はビタミンCを栄養と勘違いして細胞内に取り込もうとする のですが、この過程で、ビタミンCが酸化され、活性酸素の一種である「過酸化水素」を発生させます。 この過酸化水素が、癌細胞を殺すのです。 なお、正常細胞の周囲では、ビタミンCが過酸化水素を発生させても、細胞内の「カタラーゼ」と呼ばれる 特殊な酵素によって除去されます。こうした仕組みから、ビタミンCは正常細胞には害を与えることなく 過酸化水素を発生させ、癌細胞を殺すことができるのです。

莫大な費用をかけて開発された新薬ではなく、誰でも気軽に摂取できるビタミンCで癌細胞を殺すことができるという内容は 大きな反響を呼び、米国ではテレビや新聞などのメディアでも取り上げられました。 そして、現在、癌患者に対して高濃度のビタミンCを点滴する新しい治療法が急速に広がっています。 この治療法は、「高濃度ビタミンC点滴療法」と呼ばれ、副作用がほとんどない画期的な癌治療法として、 今、絶大な注目を集めています。


●高濃度ビタミンC点滴療法の進め方

50~60gのビタミンCを点滴

米国カンザス州にある人間機能改善センターでは、すでに14年以上も前から、高濃度ビタミンC点滴療法 (以下、ビタミンC点滴療法)が行われてきました。ここは、ビタミンC点滴療法の基本的な治療のやり方を 世界で始めて確立した医療機関で、治療実施延べ人数は、最近では年間3000件近くに上ります。 そして、2006年より日本の一部の病医院でもこの治療法を導入するようになったのです。

ビタミンC点滴療法では、最初はビタミンC15gが入った点滴から始めます。 その後、ビタミンCが患者に与える影響を観察して血中濃度を何度も慎重に測定しながら徐々に点滴に含まれる ビタミンCを増やしていき、最終的には50~60gまで増やしていきます(1回の点滴には、約2時間かかる)。 点滴の回数は、最初の6ヶ月は週に2回、次の6ヶ月は週1回、2年目は月2回、それ以降は月に1回の頻度で 行うことが一般的です。ちなみにビタミンC10gは、レモン500個分に相当する量です。 この治療法がいかに多くのビタミンCを使用するかが理解できるでしょう。 人間機能改善センターにおける癌治療の成果は、患者の60~70%に何らかの効果が得られています。 しかも、ビタミンC点滴療法の副作用については、ほとんど報告されていません。


●高濃度ビタミンC点滴療法の治療効果

抗癌剤との併用で効果がアップ

実際にビタミンC点滴療法を受けると、癌の痛みが和らぐ、食欲がわく、体力が回復する、腫瘍が縮小するといった 効果が得られ、癌患者のQOL(生活の質)を高めるのに大いに役立ちます。 これまでに、ビタミンC点滴療法で効果があったと報告されている癌の種類は、乳癌、前立腺癌、肺癌、悪性リンパ腫、 肝臓癌、大腸癌、膵臓癌、卵巣癌、膀胱癌、腎臓癌、子宮癌、食道癌、胃癌、多発性骨髄腫で、 ほとんどの癌に有効といえます。米国ではビタミンC点滴療法の効果について、さらに研究が進められており、 糖尿病やC型肝炎、インフルエンザやエイズなどの感染症にも有効性が認められています。

とはいえ、ビタミンC点滴療法は、あらゆる癌を消してしまう魔法のような治療ではありません。 癌の三大治療法である手術・抗癌剤・放射線の治療に変わるものではないことを留意しておいてください。 癌患者にとって手術や抗癌剤治療の方が適していると思われる場合には、そちらの治療法が優先されます。 なお、ビタミンC点滴療法は、特に抗癌剤治療と併用すると、一段と大きな効果を発揮します。 抗癌剤は、関節の痛みや吐き気などのつらい副作用があるのですが、ビタミンC点滴療法を行うと、 その強い副作用が弱まって抗癌剤の効果の高まるケースが大変多いのです。 実際、抗癌剤と併用することによって、進行癌でも改善した例がたくさんあります。


●高濃度ビタミンC点滴療法の現状

現在(2008.4)、高濃度ビタミンC点滴療法を受ける場合、健康保険が適用されません。 そのため1回に点滴で2~3万円の費用がかかり、このほかにも、検査やサプリメントなどで料金がかかります。 効果の有無を判断するため週1、2回の点滴を3ヶ月続けることが勧められており、1ヶ月で25~30万円かかることになります。 1ヶ所の病院で癌治療を受ける場合、抗癌剤治療のような保険の適用される治療法と保険の適用されない治療法を 同時に受けることはできません。同時に受けた場合、保険の効く治療法も保険の適用外になってしまいます。 こうした事情から、抗癌剤治療を受ける病院と、ビタミンC点滴療法を受けるクリニックの2ヶ所に同時に通う人が大勢います。

◆ビタミンC点滴療法が受けられない人もいる

なお、ビタミンC点滴療法が受けられない人もいます。例えば、腎臓病があって透析を受けている人は、 この治療法を受けることはできません。また、ビタミンC溶液にはナトリウム(塩分)が多いため、 心不全や腹水のある人などにも適しません。さらに、抗癌剤の治療によって免疫系がすでに破壊されている人は、 ビタミンC点滴療法を行っても効果が得られないので、適用外となります。 こうしたことから、ビタミンC点滴療法を望む人は、事前に医師とよく相談することが大切です。

◆高血糖と誤認される恐れがあり要注意

米国では、ビタミンC点滴療法を何らかの形で癌治療に導入している医師は1万人以上います。 この数は、およそ1つの町に1人以上、ビタミンC点滴療法を行う医師がいることになります。 日本でビタミンC点滴療法を行うクリニックは、約2年前にはほぼゼロでしたが、現在では70施設以上になっています。 ビタミンC点滴療法は、正しく行えば副作用はほとんどありませんが、正しく実施されなければ、 重篤な事態を招く可能性があります。 一例を挙げれば、低血糖を起こすことが懸念されます。ビタミンCはブドウ糖と構造が似ているため、 血液中のビタミンC濃度が高いと、血糖値の検査のときに高血糖と誤って診断されることがあります。 そこで、インスリンなどの治療を行うと、血糖値が下がりすぎて低血糖を引き起こし命取りの事態になる恐れがあるのです。