慢性腎臓病の薬物療法

慢性腎臓病の薬物療法は進歩しています。また、新たな治療戦略を練るための「ビッグデータ」の活用にも注目が集まっています。


■慢性腎臓病に対する薬物療法

慢性腎臓病の治療では生活習慣の改善が大切ですが、薬物療法が必要になることも少なくありません。 現在、原因に応じて次のような薬が使われています。

▼糖尿病や高血圧が原因の場合
糖尿病の治療薬高血圧症の治療薬が使われます。 血糖値や血圧を適切にコントロールすることで、動脈硬化の進行の抑制を目指します。 糖尿病や高血圧の治療薬にはさまざまな種類があり、それらの中から、患者さんの状態にあったものを選択します。

▼脂質異常症がある場合
”悪玉”のLDLコレステロールや中性脂肪の値が高い場合には、動脈硬化を防ぐために、血液中の脂質を減らす必要があります。 そのために脂質異常症の治療薬を使います。

▼慢性糸球体腎炎が原因の場合
ステロイド薬や免疫抑制薬を使用することがあります。 特に慢性糸球体腎炎のなかで最も多いIgA腎症には、 ステロイド薬と扁桃の摘出手術を組み合わせた治療があり、高い効果が注目されています。 さらに慢性腎臓病が進行すると、体にさまざまな異常が現れてきます(下図参照)。 これらの症状を抑えるための薬も使います。

■従来の薬とは、使いやすさや目的が異なる新薬が登場している

慢性腎臓病の症状を抑える薬として、次のような薬が新しく登場しています。

▼貧血の薬
腎臓は赤血球を作る指令を出すという働きをしています。 慢性腎臓病によってその働きが低下すると、貧血が起こってしまいます。 貧血があっても自覚症状は乏しいのですが、貧血が悪化すると、動悸・息切れ、疲れやすさなどの症状が現れてきます。 腎臓に原因がある貧血の治療の薬はこれまでも存在しましたが、注射薬で使いにくいという問題がありました。 新しく登場した「HIF-PH阻害薬」は、飲み薬で使いやすいのが特徴です。 最近(2021年4月現在)、複数のHIF-PH阻害薬が登場しています。

▼高カリウム血症の薬
腎臓には血液中のカリウム濃度を適切に調節する働きもあるため、慢性腎臓病があると高カリウム血症が起こりやすくなります。 命に関わる危険な不整脈が起こったり、筋力の低下や下痢なども起こりやすくなります。 高カリウム血症の治療薬として、従来はカリウムを吸着して排出させるポリマー性の薬が使われていましたが、 この薬は水分を吸収して膨らむため、服用後にお腹が張ったり便秘になったりするという問題がありました。 2020年に登場した新しい薬は非ポリマー性なので、服用後に膨らむことはありません。 しかも従来の薬に比べ、カリウムだけを ピンポイントで排出させることができます。 また、慢性腎臓病が進行すると体内にリンが溜まりやすくなりますが、それを吸着する薬にも新しいものが登場しています。

▼腎臓の働きの低下を抑える薬
腎臓の働きの低下そのものを抑えることが期待されている薬として「SGLT2阻害薬」と「MR拮抗薬」があります。 それぞれ、糖尿病と高血圧の治療薬として既に使われています。 慢性腎臓病の治療薬としてはまだ承認されていませんが、臨床試験が行われ、効果が確認されています。 また、「GLP-1受容体作動薬」など臨床試験が現在進行中の薬もあります。