IgA腎症
早期には症状が現れず、進行すると透析治療が必要になることも多い『IgA腎症』。 早期発見のためには「尿検査」が必要です。
■透析治療の大きなきっかけとなるIgA腎症
日本には、腎臓病がある人が1330万人いると推定されています(2020/3月現在)。 腎臓病が進行すると腎不全になり、やがて透析治療が必要になることがあります。 現在、透析治療を受けている患者さんは約34万人います(2020/3月現在)。 その大きな原因となるのが「IgA腎症」という病気です。 IgAとは、細菌やウィルスなどから体を守る免疫物質の一種です。 そのIgAが、血液中で塊を作って腎臓の糸球体に付着し、腎臓に炎症を起こすのがIgA腎症です。 IgA腎症は、糖尿病や高血圧などの何らかの病気が原因とならないのが特徴とされています。 原因がはっきりとわかっておらず、特に重症の場合は完治に繋がる治療法がないことから、指定難病に認定されています。 20~30歳代に多く見られますが、子供も含めてどの年代にも起こります。 喉にある「扁桃」の免疫の異常がIgA腎症に関係しているというのが、原因についての有力な説です。 扁桃炎などで口の中に住み着いている細菌などが活発になり、それをきっかけにIgAに異変が起こって、腎症を発症すると考えられています。 また、遺伝的な要因も関わっていると考えられており、IgA腎症の約10%は、家族性のものとされています。
<<IgA腎症が起こる仕組み>>
IgAは、喉などの粘膜の表面で活躍する免疫物質で、風邪のウィルスなどが侵入してくると、結合して無力化する働きがあります。 そのIgAが、血液中で塊を作り、腎臓の糸球体に付着すると、腎臓に炎症が起こります。 それにより腎臓の細い血管が破れると、血液が尿中に漏れて「血尿」が出ます。 炎症が進行すると、体に必要なたんぱくが尿中に漏れ出して、「たんぱく尿」が現れます。
■尿検査を受けることで、早期発見することができる
IgA腎症の多くは、自覚症状がありません。しかし初期には、肉眼ではわからないほど微量の血尿が出ます。 進行すると、たんぱく尿が出るようになりますが、この段階まで至るとかなり進行していて、完治させることは難しくなります。 そのため、IgA腎症は早期発見することがとても重要です。その鍵となるのが「尿検査」です。 尿検査の項目のうち、「尿潜血」では血尿を調べ、「尿たんぱく」では尿に含まれるたんぱく質をチェックします。 尿潜血が陽性だったり、尿たんぱくが「±」あるいは「+」以上の場合は、IgA腎症を含めた腎臓病が疑われます。 医療機関を受診し、より詳しい検査を受けてください。特に、たんぱく尿が出ている場合は、必ず受診しましょう。 尿検査は、40~74歳の人を対象にした特定健診や、小・中学校の健康診断で行われており、日本では、IgA腎症の約70%が、尿検査で見つかっています。 特に、小・中学生は、その多くが尿検査で早期発見されて治療を始めています。 IgA腎症は、定期的に尿検査を受けていれば早期発見できる病気なのです。 肉眼でわかる血尿で見つかることもあります。 風邪などの感染によって一時的に腎機能が悪化すると”醤油のような色”の血尿が出て、自分で気付けることがあります。 また、高血圧を発症したことがきっかけで検査を受けて、 IgA腎症が発見されることも少なくありません。 腎臓病が進行すると、体内の水分や塩分をうまく調節できなくなり、血圧が上がりやすくなるからです。
◆確定診断
医療機関を受診すると、再度、尿検査が行われます。 そこでも血尿やたんぱく尿があった場合は、細い針で腎臓の組織の一部を採って顕微鏡で調べる「腎生検」が行われます。 その結果によって、腎臓病があるかどうかや、腎臓病がある場合は、IgA腎症などのタイプが確定診断されます。 また、血尿がある場合は、泌尿器系の癌が原因で起こっている可能性もあるので、尿をさらに詳しく調べるなどして、癌の有無を確認することも必要です。
■早期の場合、治療によって完治することもある
IgA腎症の一部の患者さんでは、腎機能の低下がみられず、自然に症状が治まることがあります。 たんぱく尿の量が少なく、血圧が低く抑えられている場合は、腎機能が維持されやすいと考えられ、経過観察となることがあります。 しかし、尿たんぱくや血圧の数値がよくないなど、腎機能の低下が進行しやすい状態の場合は、進行度に応じた治療が行われます。 早期の場合、免疫の働きを抑える治療が中心です。 「副腎皮質ステロイド薬を8ヵ月間飲み続ける治療」「扁桃を摘出する手術(扁桃摘出術)」「扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用」などが行われます。 扁桃摘出術の目的は、扁桃に歯周病菌などが感染してIgAが増え、 腎機能の低下が進行しやすくなるのを防ぐことです。 扁桃を摘出することによる影響はほとんどありませんが、まれに味覚障害や術後に多量の出血が起こることがあります。 しかし、IgA腎症が進行するリスクに比べて効果が大きく、早期あればそれだけで完治することもあります。 IgA腎症に高血圧を合併している場合は、 ACE阻害薬や ARB などの降圧薬を服用します。 これらの薬は、血圧を下げるだけでなく、たんぱく質を減らす効果もあります。 また、腎臓以外の臓器の炎症や癌があると腎機能の低下が早まるので、これらの病気がある場合は、その治療をしっかり行ってください。
【扁桃とは?】
扁桃は、喉の奥の両側や舌の奥にある免疫にかかわる組織で、細菌やウィルスが気管や肺に侵入するのを防いでいます。
一般には扁桃腺とも呼ばれます。
【扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用】
ステロイドパルス療法とは、「副腎皮質ステロイド薬の点滴注射と飲み薬」を使う治療です。
扁桃摘出術と、このステロイドパルス療法の併用は、現在は早期のIgA腎症の治療の主流になりつつあります。
<<腎機能に影響を与えやすい薬>>
CT検査などの画像検査で異常を鮮明に写し出すために使われる「造影剤」、腰痛や膝痛などの痛み止めや解熱薬などに含まれていることが多い 「NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)」、肺炎や膀胱炎など細菌による感染症と診断された場合に使われる「抗菌薬」などが、 腎機能に影響を与えやすいとされています。
●生活習慣の改善も欠かさない
高血圧の有無に関わらず、「減塩」は重要です。特に、腎機能が低下している場合は、1日に摂る食塩の量を6g未満にします。 高血圧がなく、腎機能が保たれている人でも、過度の食塩摂取がある場合は、高血圧予防のために食生活を見直します (⇒【血液量過剰タイプ高血圧】)。 また、肥満や喫煙は、 腎機能の低下やたんぱく尿を悪化させることに繋がります。 肥満解消や 禁煙に努めましょう。 進行したIgA腎症であったり、扁桃摘出術を受けても完治しない場合は、透析治療の開始を遅らせることが治療の目的となります。 現在は、IgA腎症そのものを治療する方法はないため、生活習慣の改善を継続します。 腎臓には薬の成分を排泄する働きもあるため、腎機能が低下すると、薬の効果が出過ぎることで、副作用が現れやすくなります。 市販薬も含めて、持病などで使用している薬については、すべて担当医に伝えるようにしてください。