DKD(糖尿病性腎臓病)

糖尿病が原因で起こるDKD糖尿病性腎臓病)』。 以前は知られていなかった”新しいタイプ”にも注意が必要です。


■糖尿病が原因で起こる腎臓病に新たなタイプが

糖尿病があると、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が続き、全身の血管にダメージを与えます。 腎臓は、糸球体という細い血管が集まった組織が、左右合計で約200万個もある臓器のため、糖尿病による影響を受けやすいのです。 糖尿病が原因で起こる腎臓病は、従来は「糖尿病性腎症」と呼ばれており、 病気の特徴として、アルブミン尿があることが前提とされていました。 ところが最近では、糖尿病が起こる腎臓病の中に、”アルブミン尿がないタイプ”ものがみられ、しかもその割合が増加していることがわかってきました。 このことを受けて、日本腎臓学会と日本糖尿病学会は連名で、アルブミン尿の出るタイプ、出ないタイプの両方を含めて、 糖尿病が原因で起こる腎臓病全体のことをDKD(糖尿病性腎臓病)と捉えることを発表したのです。 DKDは、透析治療の原因となる腎臓病の約4割を占めており、毎年新たに1万6000人以上のDKDの患者さんが、透析治療を始めています。 以前から知られているアルブミン尿がるタイプのDKDでは、糖尿病によって糸球体が徐々に壊れることで、 糸球体から漏れ出たアルブミンが尿中に出るようになります(アルブミン尿タイプ)。 一方、新しいタイプのDKDは、動脈硬化と関係が深いと考えられていて、 腎臓全体の機能が低下しますが、糸球体が壊れていないため、アルブミンは尿中に漏れ出ません(動脈硬化タイプ)。 現在は、この”動脈硬化タイプ”のDKDが多くなってきていると考えられています。 糖尿病がある人は、アルブミン尿がなくても腎臓病を発症している可能性があるということを、ぜひ知っておいてください。

◆早期発見のための検査

DKDは、適切な治療が行われないと、腎機能が急激に低下してしまうため、早期発見が大変重要です。 糖尿病のある人は、アルブミン尿を調べる尿検査と、eGFRを調べる血液検査を数か月おきに受けるようにしましょう。 尿検査の結果、アルブミン尿が「+(陽性)」の場合は、アルブミン尿タイプのDKDが疑われます。 血液検査の結果、腎機能の状態を表すeGRFの値が「60未満」の場合は、たとえアルブミン尿がなくても、必ずDKDを疑って詳しい検査を受けるようにしてください。

<<アルブミン尿とは?>>

アルブミンは、血液中に含まれるたんぱく質の一種です。本来は糸球体で濾過されないため、尿中に出てくることはありません。 尿中に漏れ出て排出される場合を「アルブミン尿」といいます。


DKD原因別2つのタイプ


■DKDの治療の基本は、血糖や血圧などを管理すること

DKDがあっても、しっかりと治療を行えば、腎機能の低下を緩やかにすることができます。 糖尿病や、すでにDKDがある場合、血糖、血圧、コレステロール、中性脂肪などの値や体重をしっかりコントロールすることが大切です(下図参照)。 そのためには、 適度な運動減塩などの食生活の改善禁煙などの生活習慣の見直しが欠かせません。

◆DKDの薬物療法

生活習慣の見直しと併せて、薬による治療も行われます。 薬物療法では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬) などのレニン・アンジオテンシン系阻害薬が第一選択薬とされています。 これらの薬には、血圧を下げる作用だけでなく、腎臓を保護する働きもあります。 ただし、動脈硬化タイプのDKDの場合は、これらの薬によって糸球体にかかる圧力が下がり過ぎると、急性腎臓障害などが起こることがあります。 そのため、eGFRの変化を定期的にチェックし、急激な低下があれば、他の降圧薬に替えたりして対処します。 また、高齢の患者さんの場合は、血糖値や血圧が下がり過ぎると、かえって危険なことがあります。 このこともあり、血糖や血圧の目標値は通常よりも緩くなっているのです。 特に、75歳以上の人では、血圧が下がり過ぎると、起立性低血圧による立ち眩みや、脱水による急性腎障害のリスクが高くなります。 毎日家庭で血圧を測って記録し、受診したときにその結果を医師に伝えることが大切です。

<<eGFRとは?>>
腎機能の状態を表す数値です。腎機能が低下すると老廃物が体に溜まります。 この老廃物の1つがクレアチニンで、eGFRは血液中のクレアチニン値などを基に算出されます。 2018年から、特定健診でも、必要に応じて血清クレアチニン値が調べられるようになりました。


【動脈硬化によるDKDが増えているのはなぜ?】
”動脈硬化タイプ”のDKDが増えている理由は、まだはっきりとわかっていませんが、次のようなことが推測されています。 動脈硬化は加齢によって進行します。社会の高齢化に伴い、患者さんの平均寿命が延びたことで、動脈硬化タイプのDKDが増えていると考えられます。 また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの治療が進歩し、血糖値や血圧、LDLコレステロール値などのコントロールが全体的に改善してきています。 そのため、糸球体が壊れずに保たれる傾向にあり、アルブミン尿タイプのDKDが減って、相対的に動脈硬化タイプのDKDが増えていることも考えられます。

【新しい治療の可能性】
最近の大規模臨床試験で、「レニン・アンジオテンシン系阻害薬」と糖尿病の治療薬である「SGLT2阻害薬」の併用療法によって、 腎臓の急激な低下を抑える効果が示されています。また、現在、酸化ストレスを抑えてDKDの発症や進行を防ぐ薬の研究・開発も進められています。


DKD治療の目標値