耳が衰えると
加齢とともに聴力が低下する 『加齢性難聴』は、 誰にでも起こる可能性があります。気付いたら早めに医療機関を受診しましょう。
■加齢性難聴の原因
耳の老化は50歳代から始まります。特別な原因がなく、加齢とともに耳の聞こえが低下することで起こる難聴が、加齢性難聴です。 一般に加齢性難聴は、65歳を過ぎると急激に増加します。 60歳代前半では5~10人に1人、60歳代後半では約3人に1人、75歳以上になると約7割の人に加齢性難聴があると推計されています。
耳は、外耳、中耳、内耳に分かれています。外耳から入った音は、中耳の入り口にある鼓膜を振動させます。 その振動は、鼓膜の内側にある耳小骨で増幅され、内耳にある蝸牛という渦巻き状の器官に伝わります。 増幅された振動は、蝸牛の中にある、細かい毛が並ぶ有毛細胞で電気信号に変換され、聴神経を介して脳に伝わり、音として認識されます。 加齢とともに有毛細胞が徐々に壊れて減少することが、加齢性難聴の原因となります。 有毛細胞は、一度壊れると、再生しないと考えられています。
■加齢性難聴に気付くには
加齢とともに、高い音を感知する有毛細胞から壊れ始めていきます。 そのため、高い音から聞こえにくくなり、例えば、電子機器の「ピッピッピッ」という音に気付きにくくなります。 また、テレビの音や相手の話し声が聞きづらくなったり、自分の話す声が大きくなったりするのも、加齢性難聴のサインです(下表参照)。 加齢性難聴は徐々に進行するため、このようなサインを自覚しづらく、周囲から指摘されて気付くことが少なくありません。 加齢性難聴はの初期症状として起こりやすいのが「耳鳴り」です。 これは有毛細胞が壊れると、異常な音の信号が脳に伝わり、それを耳鳴りとして感じやすくなるためです。
●加齢性難聴が起こりやすい人
加齢性難聴は、加齢とともに誰にでも起こる可能性がありますが、特に次のような条件で起こりやすいといわれています。
- ▼大きな音を伴う仕事や生活環境
- 工事現場や工場など、大きな音を伴う場所で長年仕事をしている人は、加齢性難聴を発症するリスクが高いとされています。 また、イヤホンやヘッドホンを使って大音量で音楽を長時間聴いている人、絶えず騒音のある環境で生活している人も注意が必要です。
- ▼生活習慣病や喫煙
- 糖尿病、 高血圧、 脂質異常症などの生活習慣病のある人や、 喫煙している人は、加齢性難聴が起こりやすいことがわかっています。 これは、生活習慣病や喫煙によって動脈硬化が起こり、 血流が悪化して有毛細胞への栄養や酸素の供給が低下し、有毛細胞が壊れやすくなる為だと考えられています。
■加齢性難聴の対処法
加齢性難聴に対する根本的な治療法はありませんが、「補聴器」を使ったり、 補聴器を使っても効果が不十分な場合は、手術で「人工内耳」を埋め込むことで、低下した聴力を補うことができます。 また、最近では「聞き取り訓練」というリハビリテーションを行うことがあります。
- ▼補聴器
- 補聴器には、大きく分けて耳掛け方、耳穴型、ポケット型の3つのタイプがあります。 補聴器を使用すると、人の話し声が聞き取りやすくなり、家族や周りとのコミュニケーションが改善します。 そうすると、聞こえに自信が持てるようになり、外出する機会が増えることが期待できます。 また、聞こえが改善することで、認知機能が維持され、 認知症の予防に繋がりやすくなると考えられています。 補聴器を使い始めると、人の声やテレビの音など聞き取りたい音以外に、周囲の雑音なども聞こえてしまい、不快感を覚えて、やめてしまう人が少なくありません。 補聴器を長く使い続けるためには、毎日使って、使用時間を徐々に増やしていくようにします。 また、補聴器の使い始めは、聞こえてくる音をやや小さめに設定するとよいでしょう。 さらに、補聴器が自分に合うようになるまで、こまめに調整してもらうことが大切です。
- ▼人工内耳
- 難聴が進行して、補聴器を使っても聞き取りが困難な場合は、人工内耳を埋め込む手術が検討されます。 手術では、受診コイルを耳の内部に埋め込み、受診コイルについている電極を蝸牛に挿入し、側頭部に送信コイルを装着します。 耳に装着したマイクが捉えた音は、送信コイルから受診コイルに送られ、電極から聴神経を介して脳に伝わり、音として聞こえるようになります。 なお、人工内耳の手術には、健康保険が適用されます。
- ▼聞き取り訓練
- 補聴器を装着した状態で、言語聴覚士が言った言葉を患者さんが聞き取って、即座に同じ言葉を繰り返します。 これを行うことで短期記憶も鍛えられます。また、早く話すように試みることで、脳の活性化を図ります。
■その他
- ▼難聴のある人は認知症や転倒のリスクがある
- 加齢性難聴をそのままにしていると、脳への刺激が徐々に低下し、「認知症」を発症するリスクが高くなることがわかっています。 難聴のない人が認知症を発症するリスクに比べ、軽度難聴のある人では約2倍、 高度難聴のある人では約5倍、リスクがあると報告されています(ランセット国際委員会2017年国際アルツハイマー病協会会議にて発表)。 また、転倒のリスクも約3倍高くなると報告されています(2001-2004年 米国全国健康栄養調査)。
- ▼耳垢栓塞による難聴の悪化に注意
- 耳垢が溜まって耳の穴が塞がってしまう 「耳垢栓塞」が起こると、音が聞こえにくくなります。 加齢性難聴のある人に耳垢栓塞が起こると、難聴が悪化する恐れがあります。 耳垢塞栓が起こった場合は、耳鼻咽喉科で適切に対処することが大切です。 耳垢を除去した後、点耳薬の「耳垢除去剤」を使用して、耳垢が溜まらないように処置を行うことがあります。
- ▼加齢性難聴と間違いやすい難聴
- ある遺伝子の変異が原因となって40歳代未満という若い世代から難聴が起こることがあります。 これを「若年発症型両側性感音難聴」といい、加齢性難聴が起こる年齢になると、ある程度進行した難聴になります。 加齢性難聴が起こるような年齢ではないのに、同年代の人とと比べて聞こえが悪いと感じたら、医療機関を受診することが勧められます。