更年期からの女性とコレステロールの関係
女性の場合、更年期前は「女性ホルモン」の働きにより、「脂質異常症」になりにくいという特徴があります。 女性ホルモンは「LDLコレステロール値」を下げ、「HDLコレステロール値」を上げる作用があるのです。 しかし、一般に、『女性の総コレステロール値』は、閉経前後から急上昇します。 それに伴い、脂質の値が大きく変化し、閉経前は低かった「心筋梗塞」や「脳梗塞」などの、冠動脈疾患の危険性が高くなるので、注意が必要です。 ”コレステロール値は高くない”という女性も、50歳を過ぎたら注意しておく必要があります。 性別・年代別の血液中の総コレステロールの平均値では、30~40歳代では男性のほうが高くなっていますが、 50歳代になると女性の総コレステロール値が急上昇して男性を追い抜き、その後も上がり続けます。
■更年期女性のコレステロール
女性ホルモンの分泌低下により、脂質の値が変化する
「コレステロール」は、細胞膜やホルモンなどの材料となる、体にとって大切なものです。
しかし、血液中のコレステロールが多すぎると、動脈硬化が促進され、
「冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)」
や「脳梗塞」などの重篤な病気を引き起こしやすくなります。
その冠動脈疾患の危険因子の1つに、「加齢」があります。
年齢が高くなるにつれて、冠動脈疾患は起こりやすくなります。
冠動脈疾患の大きな危険因子の1つである「脂質異常症」が、これらの年齢から増えてくるためです。
男性は45歳ごろ、女性は55歳ごろから冠動脈疾患に対する注意が特に必要となります。
男女で年齢に差があるのは、脂質の代謝に「女性ホルモン」が深く関わっているからです。
一般に、女性の血液中の「総コレステロール値」は、閉経を境に大きく上昇します。
●女性ホルモンとコレステロール
「エストロゲン」に動脈硬化を抑制する働きがある
閉経前後に総コレステロール値が大きく上昇する
こうした脂質の変化には、主に女性ホルモンが関係しています。
女性ホルモンは2種類に大別されますが、コレステロールと関係しているのは主に
「エストロゲン」です。
エストロゲンは「月経」や「妊娠」など、女性としての体の働きに作用するだけでなく、体内でいろいろな働きをしています。
コレステロールは食べ物からも体内に入りますが、体内のコレステロールの約2/3は、主に肝臓で合成されています。
エストロゲンは、この肝臓でのコレステロールの合成を抑えるように働きます。
また、全身にコレステロールを運ぶ、いわゆる”悪玉”の「LDL」を肝臓へ積極的に取り込んで、
血液中のLDLコレステロール値を下げる働きもあります。
さらに、”善玉”の「HDL」が肝臓に取り込まれるのを抑えたり、HDLの産生を促したりして、
HDLコレステロール値を上げることも知られています。
こうしたエストロゲンの働きによって、閉経前の女性は、血液中の総コレステロール値が低く抑えられ、
そのため全体として、更年期前の女性では「動脈硬化」が抑制され、 冠動脈疾患が起こりにくいのです。
また、エストロゲンには、直接動脈硬化を防ぐ効果もあります。
動脈硬化には、LDLの酸化が深く関係していますが、エストロゲンはこのLDLの酸化を防ぎます。
また、動脈硬化は、血管壁に傷がつくことから始まりますが、エストロゲンには血管壁を保護して、傷つきにくくする作用もあります。
このように、女性はエストロゲンの働きによって守られていますが、エストロゲンの分泌が極端に低下する更年期以降は、脂質の値が大きく変化します。
閉経前から女性ホルモンの分泌は減り始め、エストロゲンの働きも弱くなってきます。
その結果、総コレステロール値が高くなり、動脈硬化も進みやすくなります。
更年期からの脂質の値には、十分に注意する必要があります。
●更年期とは?
女性の更年期とは、閉経の前後5年間ずつ、合計で約10年間を指します。 閉経を迎える年齢の平均が50歳程度なので、だいたい45~55歳くらいが更年期に当たります。 この時期に、「女性ホルモン」の分泌量は大きく低下します。 女性ホルモンのバランスの乱れにより、「ほてり」「のぼせ」「冷え」「発汗」などの、 いわゆる「更年期障害」の多様な症状が現れることもあります。 また、更年期以降は、骨がもろくなる「骨粗鬆症」 も起こりやすくなります。
女性の場合、更年期を迎えるころから脂質の値が大きく変化します。 具体的には、「LDLコレステロール値」は上がり、「HDLコレステロール値」は下がります。 LDLコレステロール値は、50歳代で男性を上回り、それ以降ずっと男性よりも女性の方が高い状態が続きます。 HDLコレステロール値は、男性より低くなるというわけではありませんが、男性との差が縮まります。 このほか、「中性脂肪値」は更年期から急上昇し、80歳代になると男性を上回ります。
これらの変化は、冠動脈疾患の発症の危険因子が増えることを意味します。 実際に更年期以降は、女性の冠動脈疾患の発症が増えています。 それでも女性では、冠動脈疾患を起こしやすくなる年齢が、男性より10年ほど遅くなります。 これは、長い間女性ホルモンに守られていた”貯金”があるためと考えられます。
●動脈硬化に関わるエストロゲンの働き
- ▼LDLコレステロール値を下げる
- ・LDLを作る酵素の活性を抑える
- ・LDL受容体を増やす
- リポたんぱくの1つである「IDL」を代謝してLDLを作り出す「肝性トリグリセリド(中性脂肪)リパーゼ」の働きを抑制したり、 血液中のLDLを細胞内に取り込む「LDL受容体」を増やしたりする。
- ▼HDLコレステロール値を上げる
- ・HDLを構成する「アポたんぱくA-1」の合成を亢進させる
- ・HDLの大型化を促す
- ・肝臓へのHDLの取り込みを低下させる
- アポたんぱくA-1を増やし、その結果HDLが増える。肝性トリグリセリドリパーゼの働きが抑制されることで、 HDLが大型化する。その一方で、肝臓へのHDLの取り込みは低下する。
- ▼動脈硬化を抑制する
- ・LDLの酸化を抑制する
- ・内臓脂肪の蓄積を抑制する
- ・血管内皮の機能を改善する
- HDLが酸化して、「酸化LDL」になるのを防いだり、 メタボリックシンドロームを引き起こす「内臓脂肪」 が溜まるのを抑制する。また、動脈硬化抑制に働く内皮の機能を改善する。
- ▼その他の働き
- ・骨粗鬆症を抑制する
- ・皮膚の老化を抑制する
- ・アルツハイマー病を抑制する
- 脂質への働きの他、骨折の原因となる骨粗鬆症を抑制したり、皮膚の老化を抑える働きもある。 アルツハイマー病を抑制する働きがあるともいわれている。
■その他
【女性は若いうちは脂質を気にしなくていいの?】
現在の日本では、更年期前の女性には、脂質異常症や冠動脈疾患はあまりみられません。
しかしここ数十年、食生活の欧米化や運動不足などの影響か、更年期前の女性の平均総コレステロール値は上昇傾向にあり、
いずれ女性の脂質異常症や冠動脈疾患の発症年齢が早まってくることも考えられます。
近年、20~40歳代の女性の喫煙率が上昇傾向にありますが、女性にとっての喫煙は、男性の場合よりも強力な冠動脈疾患の危険因子なので、これも気になるところです。
”まだ若いから”と安心せず、食事や運動などに気を付け、早くからよい生活習慣を身につけておいてください。
また、健康診断を毎年きちんと受け、脂質の値などを確認しておくとよいでしょう。
更年期前であるにもかかわらず脂質異常症と診断された場合、まず、他の病気によって脂質の値が高くなっていないかどうかを調べる必要があります。
特に、「甲状腺」の機能のチェックが大切です。甲状腺ホルモンの分泌が低下しているとコレステロール値が高くなるのです。
病気が原因でないことがはっきりしたら、食事や運動などの生活習慣の改善を行います。
冠動脈疾患の危険性が極めて低い更年期前の女性に薬物療法を行う必要は、ほとんどの場合ありません。
ただし、「家族性高コレステロール血症」が原因でコレステロール値が高い場合や、
すでに冠動脈疾患を起こした経験があったりする場合は、更年期前の女性でも薬物療法が検討されます。