高齢者とコレステロールの関係

「加齢」自体が「動脈硬化」を促進するため、高齢者は「冠動脈疾患」「脳梗塞」を発症しやすいといえます。 65~74歳の人では、総コレステロール値が高くなるほど、冠動脈疾患の発症率も高くなります。 また、脳梗塞は「寝たきり」の主な要因であり、コレステロール値の管理は、寝たきり予防のためにも重要です。


■高齢者とコレステロール

年齢を重ねるほど、冠動脈疾患を起こしやすくなる

高齢者」という場合、医療に関しては65歳以上の人を指します。 その後、75歳を1つの区切りとして、65~74歳と、75歳以上では、加齢による体の変化などから、治療などに関する考え方も多少変わってきます。 この「加齢」は、冠動脈疾患の大きな危険因子です。医学の世界では”人は血管と共に老いる”と言いますが、 加齢とともに「動脈硬化」は進みます。それだけに高齢者は、仮にほかの危険因子がなくても、 冠動脈疾患の大きなリスクを持っていることになるのです。
65歳以上の人でも、65歳未満の人と同じように、「総コレステロール値」が上ると冠動脈疾患の発症率が上昇します。 例えば、ハワイに住む日系アメリカ人を対象とした調査では、65~74歳の人たちも、若い人たちと同じように、 総コレステロール値が高ければ高いほど冠動脈疾患の発症リスクが上昇するという結果が出ています。 日本で行われたある調査では、65~70歳の人は、65歳未満の人に比べて、「LDLコレステロール値」が”少し高い” 程度の段階から冠動脈疾患を起こしやすいことがわかりました。 これは、高齢者の冠動脈疾患の予防のためには、LDLコレステロール値を下げることがより重要だということを示しています。
高齢者の「高コレステロール血症」の治療については、薬の使用の是非など、これまでさまざまな意見がありました。 しかしこれらの研究から、現在では”少なくとも74歳以下の人では、必要に応じて薬を用いてコントロールすることが、 冠動脈疾患の予防のためには重要”と考えられています。 ただ、75歳以上の人の治療については、現在はまだ議論が続いている段階です。 75歳以上になると、他のさまざまな要因が健康状態に影響して、客観的な調査自体が難しくなるためです。 しかし、社会の高齢化が進む中で、75歳以上の人の治療についての科学的な根拠が求められており、 今後の研究の進展が期待されています。


■コレステロールの管理

脳梗塞を防ぎ、寝たきり予防につながる

動脈硬化が原因となる病気の1つに 「脳梗塞」があります。 高齢者の場合、冠動脈疾患もさることながら、この脳梗塞が大きな問題になります。 脳梗塞を発症すると、一命を取り留めても「寝たきり」になる可能性が高いためです。 実際、寝たきりの原因で最も多いのが 「脳血管疾患(脳卒中)」です。 脳血管疾患には、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」も含まれますが、 最も多いのは、血管が詰まる脳梗塞です。 現在、脳梗塞の中でも「アテローム」による「アテローム血栓性脳梗塞」が増えています。 脳梗塞を起こすと、さまざまな後遺症が残ることが多く、寝たきりや「要介護」になることが少なくありません。 患者さん自身がつらい思いをするのはもちろん、家族などの介護の負担という面からも、脳梗塞の予防はとても重要です。

●コレステロール値は高いほうが長生き?

”コレステロール値は高いほうが長生きする”と聞いたことがあるかもしれません。 確かに、現時点でコレステロール値に異常があっても、元気で過ごしている高齢者は少なくありません。 しかし、だからといって”コレステロール値が高いから元気”と単純にはいえません。 現在の高齢者が若かったころは、現在のように豊かではありませんでした。 食事もつつましく、自家用車も少なく、誰もがよく歩き、体を動かしていました。 そして戦後、高度経済成長を経て食生活が豊かになり、また自家用車の普及などを受けて、体を動かす必要が少なくなりました。 日本人の平均総コレステロール値は、戦後上昇し、現在では欧米と同等になっています。 コレステロール値がが髙くても元気な高齢者は、若い頃には値が高くなかったものの、 社会が豊かになるにつれて徐々に値が高くなってきたと考える方が自然ではないでしょうか。 動脈硬化は、時間をかけて進行します。コレステロール値が高く、血管がコレステロールにさらされている期間が長いほど、 動脈硬化は進行します。現在の高齢者には、今コレステロール値が高くても、そのような期間が短いために、 冠動脈疾患などを起こさずに元気で過ごしている人も多いのだと考えられます


■動脈硬化の進行の予防

生活習慣の改善や禁煙、生活習慣病の予防・治療を行う

冠動脈疾患と脳梗塞のどちらも、動脈硬化が発症に強く関係しています。 したがって、 食生活の改善運動不足の解消禁煙生活習慣病の予防や治療などを行って、 動脈硬化の進行を抑制することを心掛けます。 そのためには、動脈硬化を促進する重要な危険因子である「脂質異常症」をきちんと治療することが大切です。 また、特に気を付けたいのが「糖尿病」です。 糖尿病は動脈硬化の進行を早め、冠動脈疾患の発症率を大きく引き上げます。 この傾向は、特に女性で強く見られます。脂質と併せ、血糖も十分にコントロールすることが重要です。