ぐるぐる回るめまい

めまいの約8割は、耳が原因で起こるタイプのものです。 このタイプのめまいは、周囲がぐるぐると回転しているように感じるのが特徴(いわば「ぐるぐるめまい」と呼べるようなもの)。 ぐるぐるめまいは病気によって耳の奥(内耳)にある三半規管や、自石器などの器官に異常が生じるために起こります。 これらに異常が起こると、実際には頭を動かしていないのに「頭が動いた」という情報が脳に伝わってしまい、 情報の不一致によって、めまいが現れるようになるのです。 ぐるぐる回るめまいの中で代表的なものが「良性発作性頭位めまい症」です。


●内耳の構造とめまい

めまいは3つのタイプに分類されますが、ぐるぐる回るめまいの多くは内耳の病気によって起こります。

内耳は、耳の鼓膜にある部分です。内耳には、体のバランスを保つのにかかわる「三半規管」「耳石器」「前庭神経」などがあります。 三半規管は、体が回転する動きを感じ取ります。耳石器は、上下や左右の直線的な動きを感じ取り、重力も感じ取っています。 三半規管や耳石器が感じ取った情報は前庭神経を介して脳に伝えられます。 三半規管や耳石器、前庭神経に異常が起こると、体が回転していないのに回転しているように錯覚するため、ぐるぐる回るめまいが現れます。 音を感じ取る蝸牛に障害が及ぶと、難聴や耳鳴り、耳閉感などが起こります。

耳の構造


●内耳が原因の病気は主に3つ

めまいの原因となる主な内耳の病気には、次の3つがあります。

◆良性発作性頭位めまい症

耳が原因のめまいのうち、半数以上の患者さんが悩まされているのが、 良性発作性頭位めまい症です。 耳石器の中にある耳石の一部が剥がれて三半規管に入り込むことで起こります。 良性発作性頭位めまい症では通常ぐるぐるめまいが数秒間から2~3分間続き、 比較的短い時間で治まりますが、その後も繰り返します。難聴などの聴覚症状を伴うことはありません。 この症状は、寝返りで横を向いたときなど、頭をある一定の方向に動かすたびに繰り返し起こります。

【気になる症状があったら耳鼻咽喉科へ】

耳石は大変小さなものです。多くの場合、三半規管に入り込んでも、時間が経つと自然に消えたり、外に出たりするため、1ヶ月以内には症状が治まります。 しかし、めまいの症状によって日常生活に支障が出たり、強い不安感が現れるケースがあります。 高齢者の場合、めまいの症状が起こった際にバランスを崩し、転倒して大きな事故に繋がる恐れもあります。 症状が長引いたり、不安なことがあれば、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

【良性発作性頭位めまい症には体操が有効】

眼振検査(下参照)では良性発作性頭位めまい症と診断されたら、三半規管のどこに耳石が入っているかに合わせて、 頭を動かして耳石を三半規管から出す体操(頭位治療)を行います。 最初のうちは体操中にもめまいが起こりますが、毎日1回続けていると、多くの場合1~2週間で治まります。 体操の方法は、患者さんの状態によって異なります。必ず、医師の指導を受けてから行うようにしましょう。 また、再発した場合にも前と同じ体操で治まるとは限らないので、症状が長引く場合は再度受診するようにしてください。

<眼振検査>
耳が原因のめまいがある人は、眼球が無意識に揺れたり、回転したりする(眼振)。 眼振検査では、患者さんに特殊なゴーグルを付けてもらい、医師が患者さんの頭を動かして眼振が起こるかどうかを確認します。 この検査で、良性発作性頭位めまい症の有無が診断でき、耳石が三半規管のどのあたりに入ってしまったのかもわかります。 眼振が水平・左右の動きを繰り返す場合は「水平半規管型」、上下の動きやぐるぐる回転する動きを繰り返す場合は「後半気管型」と考えられます。

良性発作性頭位めまい症治療のための体操の例


◆メニエール病

めまいを起こす耳の病気はさまざまで、 その一つにメニエール病があります。 メニエール病は、三半規管や蝸牛の異常、具体的には、内耳の中にあるリンパ液が増え、内耳が水膨れになることで起こります。 ぐるぐるめまいのほかに、蝸牛も障害されるので、耳鳴りや耳が詰まった感じがしたり、難聴が起こるのが特徴です。 吐き気や嘔吐、冷や汗、頻脈などを伴うことも多くあります。 これらの症状は、20分から、長ければ数時間程度続き、繰り返し起こります。毎週のように起こることもあります。 症状を繰り返すうちに、難聴が進行し、慢性化することがあるため、 メニエール病が疑われる場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。

【生活習慣の改善で症状を和らげる】

メニエール病が起こる詳しい原因は分かっていませんが、ストレスや疲労が発作の引き金となったり、悪化の原因になることがわかっています。 ストレスや疲労を軽減するために、生活習慣を改善することが大切です。 十分な睡眠をとり、軽い運動でストレスを解消しましょう。 食塩の摂り過ぎにも注意が必要です。体内に水分が溜まりやすくなり、リンパ液も増えやすくなるからです。 水分を摂るときは、塩分を含まない水や麦茶がおススメです。 コーヒーや紅茶、緑茶などのカフェインを多く含む飲み物は、睡眠に影響することがあるので控えましょう。 耳の血流をよくしてめまいを改善する「抗めまい薬」などの薬が使われる場合もあります。 また、めまいが重度の場合は、自力では十分な食事や水分補給をすることが難しくなるため、 入院のうえ、安静にして、点滴で補水する治療が行われることがあります。

【広がる治療の選択肢】

生活習慣の改善や薬物療法でも効果がない場合、鼓膜に孔をあけて薬を注入したり、 耳の後ろを切開してリンパ液を抜く手術が検討されることがあります。 しかし、これらの手術は、めまいが改善する一方で、全身麻酔によって患者さんの体に負担がかかったり、 手術後に聴力が低下する恐れがあるという短所があります。 そのため、近年(2021年)では、手術を検討する前に中耳加圧療法(下参照)が行われるようになりました。 2018年に健康保険が適用され、6~7割の患者さんに効果があるとされています。

<中耳加圧療法>
医療機関から貸し出される専用の機器から、メニエール病の原因となっている側に耳にチューブを通して空気を送り、 鼓膜への圧迫を繰り返す。鼓膜からの刺激が内耳へ伝わり、リンパ液の体積が減少する。 1回3分間、1日に2回行う。これを通常は1年間程度行う。

◆前庭神経炎

前庭神経炎は、 前庭神経の異常が原因で、風邪を引いた後などに起こりやすいとされています。 かなり激しいめまいが、数日間にわたって断続的に起こります。いったん治まれば、激しいめまいを繰り返すことはありませんが、 体がふらつくような感覚が残る場合もあります。聴覚症状は伴いません。

●その他

▼めまいの原因は脳卒中の可能性も
めまいは、脳卒中を発症した場合にも起こることがあるため、 注意が必要です。めまいに加えて、「手足の麻痺」「ろれつが回らない」「物が二重に見える」などの症状が現れた場合、すぐに救急車を呼びましょう。