メニエール病

回転性の激しいめまいが起こるメニエール病。 何度も発作を繰り返していると、低音の難聴を引き起こし、耳の聞こえが悪くなることもあります。中年女性は要注意です。 そのままにせず早めに受診し、適切な治療を受けましょう。 メニエール病と診断された場合は、めまいを予防するための治療が中心に行われます。 最初に取り組むのが生活習慣の改善、そして薬物療法です。


■メニエール病

蝸牛の中にあるリンパ液が増えると、脳が平衡感覚を認識できなくなる

耳の役割は音を聞くだけではありません。平衡感覚を保つことも、耳の重要な働きです。 人間の耳は外耳・中耳・内耳の3つの部位に分かれています。 最も脳に近い位置にある内耳は、かたつむりのような形をした「蝸牛」と、耳石器や三半規管などの「前庭迷路」から構成されています。 内耳の働きのうち、音を感じる働きは蝸牛が担当し、平衡感覚については前庭迷路が受け持っています。 蝸牛と三半規管にはリンパ液と呼ばれる液体が蓄えられています。 リンパ液は細胞から排出された水分や老廃物を運ぶ透明な液体ですが、平衡感覚を司っている三半規管に含まれるリンパ液には、もう一つの重要な役割があります。 三半規管の半分はリンパ液で満たされています。 体が傾くことでリンパ液の流れが変わると、脳は体の動きの変化を感じ取って、バランスを取るように全身に指令を出すのです。

一方、蝸牛の中も音を電気信号に変えるためにリンパ液で満たされています。 ところが何らかの原因によってリンパ液が増えて、内耳がむくんでしまうことがあります。 「内リンパ水腫」と呼ばれる蝸牛の水膨れは、同じ内耳の器官である三半規管にも影響を与えます。 蝸牛で増えたリンパ液が三半規管に流れ込むと器官内の内圧が高くなり、脳が平衡感覚を正しく認識できなくなってしまうのです。 脳が混乱して体の傾きを正しく認識できなくなると、「平衡感覚を失った」状態になります。 内耳のむくみによって平衡感覚が失われるこの症状は、発見者であるフランスの医師プロスパー・メニエールの名を取って、 「メニエール病」と呼ばれています。 一般にメニエール病は40代以降の女性に多く見られる病気ですが、最近では若年層や中高年の男性の患者さんも増えてきています。 内耳のむくみによって平衡感覚が失われると、「回転性めまい」が起こるようになりますが、回転性のめまいとは、 頭の中が揺れるという程度のものではなく、文字通り目の前がぐるぐると回転するほどの症状です。 メニエール病に伴う回転性のめまいは、寝返りを打ったときに起こることもありますが、何のきっかけもなく起こる場合もあります。 いずれにしても、突然襲ってくることが特徴です。 メニエール病によるめまいは30分程度で治まる人もいれば、数時間も続く人がいるなど、個人差があります。 次の日はケロッとしていて、めまいやふらつきなどが全くないのが特徴です。 メニエール病は生命に危険を及ぼす病気ではありませんが、めまいに伴って吐き気や頭痛、肩こりなどの症状が出ることがあります。 もし翌日にふらつきが残っていたりする場合は、メニエール病ではないこともあります。

耳の構造


■メニエール病の検査

聴力や平衡機能の状態、眼球の動きを調べる

初めてめまいの発作が起き、それが20~30分間も続く場合は、すぐに耳鼻咽喉科を受診する必要があります。 めまいは脳などに原因があって起こり、緊急の対応が必要な場合もあるからです。動けない場合は救急車を呼びます。 めまいで受診した場合、まず問診が行われます。どのような検査を行うかは、問診で得た情報から判断されます。 問診では、「めまいのタイプ(グルグル回る、フワフワする、立ち眩みのように目の前が暗くなるなど)」「初めてなのか、繰り返しているのか」 「めまいが起こるきっかけ(動いた瞬間、大きな音など)はあったか」「めまいに伴う他の症状(頭痛・耳鳴りなど)」はあるか」 「治療中の病気や服用中の薬」などが尋ねられます。メニエール病が疑われる場合には、次のような検査が行われます。

▼聴力検査
耳の異常を調べる場合に必ず行う検査です。メニエール病では、特に低い音が聞き取りにくくなります。

▼平衡機能検査
立ったり歩いたりして、体のバランスの偏りや、傾いた姿勢を元に戻そうとするときの動きから平衡機能の状態を調べる体平衡機能検査と 眼球の動きを調べる眼振検査があります。 眼振検査では、虫眼鏡のような特殊なレンズの付いた眼鏡(フレッツェル眼鏡)を使って眼球の動きを確認します。 赤外線カメラを使うこともあります。
通常、体が回転しているときは、眼球が回転方向とは逆に動き、視線のブレを補正しています。眼球は体の動きに合わせて動くのです。 しかし、めまいが起こっているときには、体の動きを感じる”センサー”に誤作動が起き、身体は回転していないのに眼球が揺れるように動きます(眼振)。 また、眼球が左右のどちらに揺れているかで、どちらの耳に原因があるかがわかります。 例えば、眼球が左側に揺れているときには、右耳に障害が起こっていることが多いのです。

▼MRI検査
内リンパが溜まった状態を写し出します。最近行われるようになった検査で、メニエール病をより確実に診断できるようになりました。 また、脳の病気の有無も確認できます。

耳の検査


■メニエール病の治療

基本は生活習慣の改善と症状改善のための薬物療法

メニエール病は慢性の病気です。完治させることは困難ですが、高血圧や糖尿病などと同じように、きちんとコントロールすることにより、 めまいやめまいに伴う不快な症状を抑えて、日常生活に支障を来さないようにすることはできます。 そのために次のような治療が行われます。


●生活習慣の改善

メニエール病の発症にはストレス疲労が深く関係しているので、生活習慣を改善することが大切です。 生活習慣の改善として大切なのは、不摂生をやめて体をいたわり、ストレスを発散することです。具体的には、過労や睡眠不足を避けます。 無理はせず、自分ができないと思う仕事までやろうとしないことです。人付き合いも我慢し過ぎないようにします。 十分な睡眠をとって疲れを溜めないようにします。 生活に取り入れたいのが軽い運動です。 軽い運動で気分転換やストレス解消を図ることも大切です。 体を動かすことによって適度に疲労し、心地よい眠りが得られるようになり、新陳代謝もよくなります。 食事では塩分の摂りすぎに注意します。塩分の摂取量が多いと、体内の塩分濃度を調節するために体内に水分が溜まりやすくなるからです。 ただし、適度な水分補給を心がけます。水分を控えると、かえって水分が排出されにくくなるため、塩分を含まない水や麦茶などが勧められます。 カフェインを含むコーヒーや紅茶、緑茶などは控えたほうがよいでしょう。 また、自分が楽しめる趣味を持つのもよいでしょう。


●薬物療法

メニエール病の急性期には、強いめまいを抑えるために重曹水の点滴が行われます。 重曹水には、血液循環を良くしてめまいを抑える効果があります。 吐き気や嘔吐がある場合は、それを抑える制吐薬が使われます。 内耳の働きを調整してめまいを和らげる抗めまい薬が用いられることもあります。 メニエール病が慢性化した場合は、内耳の血液循環をよくする内耳循環改善薬が用いられます。 また、利尿薬で尿の量を増やして水分の排泄を促し、内耳の”水膨れ”を改善します。 長引くめまいに不安がある場合は、不安を和らげる抗不安薬が使われます。 めまい発作が激しいときや、聴力が急激に低下したときなどには、ステロイド薬を使って免疫の働きに作用したり、炎症を抑えたりします。 場合によっては、五苓散、苓桂朮甘湯、柴苓湯などの漢方薬が処方されます。メニエール病への効果が科学的に証明されています。

メニエール病ではこれらの薬を患者さんの状態に合わせて使い分けていきます。 重曹水は点滴薬ですが、制吐薬、抗めまい薬、抗不安薬、内耳循環改善薬、利尿薬は飲み薬です。 利尿薬を服用していると血圧が下がることがあるので、降圧薬を飲んでいる場合はそのことを必ず耳鼻咽喉科の医師に伝えます。


●中耳加圧療法

生活習慣の改善や薬物療法で症状が改善されない、治りにくいメニエール病に対して行われる治療です。 1回の治療は3分間ほどで、患者さんが自分で行います。 治りにくいメニエール病が対象ですが、60~70%の人に効果があることがわかっています。

中耳加圧療法


●効果が十分でないときは

手術や薬液の注入によって”水ぶくれ”やめまいを改善する

生活習慣の改善と薬物療法を継続して行えば、メニエール病の多くは2~3年でよくなります。 中耳加圧療法を行っても発作を繰り返す場合や、聴力が急激に低下している場合には、手術が検討されます 主に行われるのは、鼓室内薬物注入術内リンパ嚢開放術です。

◆内リンパ嚢開放術

内リンパ液が増えると、内リンパ嚢という組織に溜まるようになります。 内リンパ開放術は、内リンパを吸収する働きを持つ内リンパ嚢を切開して、中に溜まってい溜まった内リンパを排出させて症状を軽くする手術です。 手術は、耳の後ろを数cmほど切開して行われます。 全身麻酔で行われることや内リンパ嚢が脳のすぐ近くにあることなどを考慮し、1~2週間入院します。 内耳の機能が保たれ、難聴が起こるリスクが低い手術ですが、切開した部分が塞がって再発し、再び手術が必要になることがあります。

◆鼓室内薬液注入法

鼓膜に注射針を刺して孔を開け、、「アミノ配糖体」という抗菌薬の一種であるゲンタマイシンという抗菌薬を、中耳内の鼓室という空間に注入します。 ゲンタマイシンが内耳の三半規管に浸透して、その働きを抑えることでめまいを感じにくくします。 三半規管の感度だけを少し鈍くする治療ですが、ゲンタマイシンが蝸牛に浸透した場合は、蝸牛の働きが抑えられ、耳の聞こえに影響することがあります。 手術後に聴力が低下することがあるため、メニエール病が両耳に起こっている場合は、通常は行われません。

◆できるだけ早い治療が大切

メニエール病は、発症後2~3年以内に改善することが多い病気ですが、それよりも長引く場合もあります。 できるだけ早く改善させるためには、早期から治療を開始することが大切です。 そうすることで病気が治りやすくなりますが、遅れると、難聴が進行して元に戻りにくくなります。 一方、メニエール病が長く続いている場合でも、何らかのきっかけであるある日突然よくなるケースもあるため、 あきらめずに治療を続けていくことが大切です。


●早期の治療

メニエール病は早期の治療で慢性化を防ぐことができ、耳鳴りや難聴の前触れには注意

先ほど、「メニエール病に伴う回転性のめまいは突然起こる」と述べましたが、めまいが起こる前触れとして耳の閉塞感や耳鳴り、 難聴が起こっていることが少なくありません。それらの症状を放置しておくと、めまいだけでなく耳鳴りや難聴が慢性化する ことがあります。ちなみに、メニエール病に伴う回転性のめまいが起こったら、とにかく安静にしてめまいが落ち着くのを 待つしかありません。医療機関から抗めまい薬などを処方されている場合は、正しく服用することで症状の安定が見られます。 めまいが落ち着いた後は、早めに医療機関にかかりましょう。メニエール病の初期は、めまいが起こる活動期と、 症状が落ち着く時期が繰り返されます。症状が慢性化していない早期のうちに治療を受ければ、メニエール病の慢性化は 防ぐことができ、治すことも十分に可能です。早期治療を怠って慢性的に症状が起こるようになると、めまいや耳鳴り、 難聴に一生悩まされることになりかねません。「メニエール病は治らない」と言われることもありますが、 これはメニエール病を治療できる機関がまだ少ないからです。めまい外来を始め、専門医による適切な治療を受ければ、 メニエール病は十分治せる病気です。