嗅覚障害

病気や加齢などが原因で起こる嗅覚障害。 嗅覚の低下を防ぐには、意識してにおいを嗅ぐなど生活習慣の見直しが必要です。


■嗅覚障害とは?

嗅覚は、本能や記憶に働きかけて、においを嗅いだ瞬間に、その匂いの好き嫌いを判断したり、特定の記憶を呼び起こしたりするなど、原始的で本能的な感覚です。 においの元になるのは、空気中を漂う「におい分子」です。 鼻腔(鼻の中の空間)内に入ったにおい分子は、鼻腔の天井に当たる部分にある「嗅細胞」に捕らえられます。 その情報が、大脳の底部の「嗅球」に伝えられ、脳がにおいととして感じます(下図参照)。 嗅覚障害とは、何らかの原因でにおいを正常に感じることができない状態をいいます。

においを感じる仕組み


●嗅覚障害の原因

嗅細胞までにおい分子が届かなかったり、何らかの原因で嗅細胞が変性し脱落したりすると嗅覚が低下し、においを感じにくくなったり、感じなくなったりします。 嗅覚が低下する原因としては、次のようなことが考えられています。

▼鼻の病気
慢性副鼻腔炎アレルギー性鼻炎がある場合、 鼻詰まりが起こって、におい分子が嗅細胞まで届きにくくなります。 慢性副鼻腔炎では、副鼻腔内に鼻茸(はなたけ)と呼ばれる良性のポリープができることがあり、におい分子が嗅細胞に届きにくくなります。 嗅覚低下の原因が鼻の病気である場合は、内服薬や点鼻薬、内視鏡手術などによって治療します。 もともとにおい分子が嗅細胞に届きにくかっただけなので、治療によって、何年もわからなかったにおいが数日でわかるようになることがあります。

▼風邪
風邪の原因となったウィルスが、嗅細胞を障害する場合があります。 嗅細胞が古い細胞から新しい細胞に置き換えられるまでには相当な時間がかかるため、風邪を引いた後、数か月間においを感じにくくなることもあります。

▼加齢
嗅覚の低下は、一般に男性では60歳代から、女性では70歳代から目立つようになります(下図参照)。 しかし、嗅覚の低下は自覚しにくく、ある調査では、加齢によって嗅覚が低下した人のうち、約8割は自覚症状がなかったことがわかっています。 嗅覚の低下に男女差がある理由は、現在のところはっきりとはわかっていませんが、男性のほうが喫煙率が高いことや、 女性は調理や化粧品の使用など日常生活で匂いに接する機会が多いことが関係しているのかもしれません。

▼認知症
「認知症」と嗅覚障害には深い関係があることがわかっており、 認知症を引き起こす脳の病変が、嗅覚に関わる神経細胞にも影響を及ぼすと考えられています。 また、嗅覚が低下すると、将来的に「軽度認知障害」「アルツハイマー病」 を発症する可能性が高くなるという研究報告もあります。

加齢による嗅覚の変化

●嗅覚障害をそのままにしていると

嗅覚障害の患者さんを対象に行ったアンケート調査によると、においがわからないと、「食品の腐敗臭に気付かない」「ガス漏れに気付かない」 などのリスクがあることがわかっています。 また、煙の臭いを感知できなくなると、「鍋を焦がしてしまう」こともあり、「火災が起こっているのに気付くのが遅れる」などの危険な事例もあります。 さらに、嗅覚と味覚は密接に関係しているため、においがわからないと、味を感じにくくなり、食事が美味しくなくなることがあります。 そうなると、食欲不振から栄養不足になったり、味付けを濃くしてしまうために塩分や糖分を摂り過ぎて、 高血圧動脈硬化脳卒中などに繋がることもあります。 嗅覚が低下し、味を感じにくくなると、食に対する関心が低下することもあります。 ある調査では、そのことがスポーツや散歩、近所の人との会話などの活動性の低下を招き、筋肉量が減少して運動機能が低下する「サルコペニア」 に陥りやすくなることがわかりました。 最近の研究によると、運動機能が低下していない60歳以上の高齢者の場合、嗅覚が低下していた人の割合は6割弱でした。 それに対して、サルコペニアのある人では約9割、サルコペニアの前段階である「前サルコペニア」のある人では8割近くに、 嗅覚の低下が見られました。


■味覚障害の治療

嗅覚トレーニング

嗅覚の低下を予防するのに効果があると考えられているのが、意識してにおいを嗅ぐ「嗅覚トレーニング」です。 嗅覚トレーニングは、嗅細胞の再生を促すと考えられています。 ドイツでは、レモン、ユーカリ、バラ、丁子(クローブ)のにおいがするエキスを瓶に詰め、それを朝晩の1日2回、 それぞれ10秒程度意識して嗅ぐという、嗅覚障害の治療が行われています。 自分でできる嗅覚トレーニングとしては、食材や料理などのにおいを何となく嗅ぐのではなく、何のにおいなのかを意識して嗅ぐことが重要です。 例えば、「調理をするときにニンニクのにおいを嗅ぐ」「カレーはにおいを嗅いでから食べる」「コーヒーは飲むときににおいを楽しむ」 「お風呂に浸かるときに入浴剤のにおいを楽しむ」など、日常生活のなかでにおいを意識して嗅ぐようにするとよいでしょう。


■最後に

嗅覚の低下を予防したり、改善したりするために、「鼻の病気がある場合は治療する」 「喫煙している場合は禁煙する」 「週に3回以上は汗をかくほどの運動をする」「意識してにおいを嗅ぐ習慣を身に付ける」ことに取り組みましょう。