前庭神経炎
激しいめまいが前触れもなく突然起こり、それが1~3日程度も続く『前庭神経炎』。 命に関わる病気ではありませんが、多くの場合、入院治療が必要になります。
■前庭神経炎のめまい
聞こえの不調がない、回転性のめまいが一度だけ起こる
『前庭神経炎』によるめまいは、何の前触れもなく突然起こります。 回転性の激しいめまいで、これが長く続きます。持続する時間には個人差があり、1日で治まる人もいれば、3日間ほど続く人もいます。 耳鳴り、難聴、耳が詰まった感じなどの症状は現れません。 激しいめまいが起こるのは一度だけで、繰り返しません。ただし、耳の神経は傷ついているため、めまい発作が治まった後も、 身体を動かしたときや歩行時にふらついたり、頭の重い感じが数か月から半年間以上続いたりすることもあります。 命に関わる病気ではないかと心配する人がいますが、実際は命に関わる病気ではありません。 ただし、吐き気が強くて飲食ができなくなるため、多くの場合入院が必要となります。 めまいを起こす病気としては、 良性発作性頭位めまい症や メニエール病ほど多くはありませんが、珍しい病気ではありません。 男女差はほとんどなく、幅広い年代で起こります。
■前庭神経炎の起こる仕組み
平衡感覚を保つための神経が急に障害されて起こる
前庭神経炎は、前庭神経が急に障害されることで発症します。前庭神経は、耳の奥の三半規管や耳石器に分布している感覚神経です。 平衡の情報を脳に伝える役割を果たしているため、この神経の機能が急に障害されると、めまいの発作が起こってしまうのです。
●原因
前庭神経が障害される原因について、はっきりしたことはわかっていません。 ただ、風邪を引いた後や、疲れているときに起こるこが少なくないため、ウィルスの感染が関係しているのではないかと考えられています。 それ以外に、内耳の血流障害が原因になる場合もあるといわれています。
■前庭神経炎の検査
めまいの起こり方や眼球の動きを調べる
前庭神経炎が疑われる場合は、まず問診を行ってから、眼振検査を行います。 また、前庭神経炎では聴覚障害は現れませんから、聴覚に問題がないかどうかを確認するために聴力検査を行います。 併せて、温度刺激検査、前庭誘発筋電位検査、ビデオヘッドインパルステストも行われます。
- ▼温度刺激検査
- 片側の耳に、冷水または温水を注入し、めまいが起こる反応を調べる検査です。 片側の耳に冷水や温水を入れると、通常、その温度刺激によって、めまいが引き起こされます。 ところが内耳に異常があると、めまいが起こらなかったり、通常よりも軽いめまいで済んでしまったりします。 どのような反応が起こるかによって、内耳の異常を調べます。
- ▼前庭誘発筋電位検査
- 音の刺激で誘発される前庭神経の反応(前庭頚反射)を調べる検査です。 検査ではヘッドホンで音を聞きながら、首を横に捻ります。 その時に首に貼った電極が捉える反応を見ますが、これが前庭神経のある内耳の反応と繋がっているため、 前庭神経の機能を確認することができるのです。
- ▼ビデオヘッドインパルステスト
- 頭を動かしたときに、眼球の動きに現れる反射(前庭動眼反射)を調べる検査です。 最近行われるようになった新しい検査で、この検査によって、三半規管のどの部分が障害されているのかを調べられるようになりました。 従来の検査よりも詳しく調べて前庭神経炎の診断ができるようになり、また、回復の経過も確認できるため、治療にも役立っています。
前庭神経炎とよく似ためまいを起こすほかの病気と見分けるため、ここに挙げた以外の検査が行われることもあります。
■前庭神経炎の治療
薬物療法で症状を抑え、リハビリでバランス感覚を取り戻す
前庭神経炎の治療は、めまいが起こっている急性期と、めまいが治まってからの回復期に分けて考えます。 急性期には薬物療法、回復期にはリハビリテーションが行われます。
●急性期の治療
めまいが起こっていると、飲食が困難になるため、入院して点滴治療を受けることになります。 使用する薬は、炎症を抑える作用が強いステロイド薬と、めまいを抑えるための抗めまい薬で、吐き気が強い場合には吐き気止めの薬も使います。 また、前庭神経の機能を向上させるために、血流改善薬やビタミン剤などを使うこともあります。 入院期間は1週間程度のことが多いのですが、個人差があります。 めまいが治まって自力で歩くことができ、飲食ができるようになることが退院の目安です。
●回復期の治療
めまいが治まっても、体のふらつきや不安定感はしばらく続くので、平衡感覚を取り戻すためのリハビリテーションを自宅で行います。 リハビリテーションでは、体のバランスが保てるようにする訓練と、目の動きの安定感を得るための訓練を行います。 少しずつでも毎日行うことが大切です。回復期の半年~1年半は、医師の指示に従い、定期的に受診する必要があります。
■ワレンベルグ症候群
要注意!前庭神経炎と似ためまいが起こる病気
『ワレンベルグ症候群』とは、脳の延髄という部位が障害されることで起こる病気です。 最初に激しいめまいの発作が起こるため、前庭神経炎と診断されてしまうことがあります。 めまい発作の後に、他の症状がいろいろ出てくるのですが、発症直後に現れる症状はめまいだけであるため、診断が難しいのです。 めまいの後に現れる症状は、瞼の下垂(眼瞼下垂)、瞳孔が小さくなる、顔の温痛覚(熱や刺激に対する感覚)の低下、声嗄れ(こえがれ)などです。 また、実は激しいめまいが起こる前に、後頭部にガツンという痛みがあることも多いといわれています。 延髄に血液を送る血管が裂け、脳に血液が届かなくなることで、さまざまな症状が現れてくるのです。 前庭神経炎と診断されたときは、そのあとに前述したような症状が現れてこないか、注意しておきましょう。