低体温と免疫力低下

私たちの健康は、私たち自身に備わる免疫力によって守られており、 低体温などによる免疫力の低下は、あらゆる病気になる可能性が高まることを意味します。


■「低体温」とは?

平熱36.5℃未満の低体温の人が急増している

日本人の平均体温(平熱)は36.5℃といわれており、これを下回る体温を「低体温」といいますが、 最近では老若男女を問わず、36℃に満たない低体温の人が増えているようです。 体温は測る時間帯によって多少変動し、明け方が一番低く、昼過ぎから夕方にかけて最も高くなります。 そこで平熱を調べるためには、その中間に当たる午前10時に計るのが基準です。 そのときの体温が36.5℃未満の場合には低体温であるとみなされます。 私たちの体には、もともと体温の調節機能が備わっていて、外気温の変化に関係なく一定の体温を保っています。 ところが最近では、この体温調節機能がうまく働かなくなり、低体温に陥る人が急増しているのです。 例えば、ある婦人科病院の調査によれば、女性の2人に1人が冷え性を自覚し、体温も36.5℃を下回っていました。 また、東京都内のある小学校では、全生徒の1割が35℃台の平熱だったと報告しています。


●低体温になる原因

自律神経の乱れが低体温を招く

では、何故体温の調節機能が乱れてしまうのでしょうか。
結論を先に述べると、低体温の原因には、血流の悪化自律神経の働きの低下が関係しています。 私たちの体は、冷たさを感じると体温を維持しようとして血管を収縮させ、体から熱が逃げるのを防ぎます。 反対に、体が温まると血管を拡張させて熱を体の外に逃がし、体温を調節するのです。 このような反応は、自律神経の交感神経(体を活発に働かせる神経)と副交感神経(体を安静にする神経) の働きによって行われています。体が冷えを感じると交感神経が優位に働き、血管を収縮させます。 そして、体温が高くなると副交感神経が優位に働き、血管を拡張させて体の緊張も緩めます。 ところが、何らかの原因によって自律神経の働きに乱れが生じると、交感神経の優位な状態が続きやすくなります。 その結果、血管は収縮したままになり、血流が滞って体温も低くなってしまうのです。 こうして血流が悪くなると、体内の新陳代謝も衰えて、尿や汗、便として排出されるはずの水分が体内にたまるようになり、 低体温を余計に悪化させます。

自律神経が乱れる原因の一つに「ストレス」があります。 現代人は、常に強いストレス下にいることが大きな要因になっている場合が少なくありません。 ストレスは血管を収縮させるため、循環血液量が少なくなり、血液によって運ばれる熱エネルギーが減少して、 低体温になるのです。 また、体脂肪の付き過ぎも低体温を招くと考えられています。脂肪には保温効果はありますが、 一度冷えると温まりにくい性質を持っているのです。また、脂肪はエネルギーをほとんど生産しません。

【関連項目】:『ストレスと低体温』


●低体温と免疫力

低体温は免疫力を低下させる

では、低体温の状態が続くと、どのような影響が体に及ぶのでしょうか。
特に低体温の影響を受けやすいのが「免疫力」です。体の免疫力をつかさどるのは、白血球の一種である 「顆粒球」「リンパ球」という免疫細胞です。これらの免疫細胞は37~38℃の体温で活発に働き、 免疫細胞は細菌やウィルスなど外敵の侵入を防ぎ、体内の敵を撃退して健康な状態を保つように働いています。 しかし、体温が低下すると、免疫細胞のバランスや数が乱れ、活動が鈍くなり、免疫機能が十分に働かなくなります。 したがって、低体温(36.5℃未満)の人は免疫力が弱く、風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。 こうした感染症にかかると、白血球の親玉ともいうべき「マクロファージ」が脳の視床下部にある体温調節中枢 に指示して体温を上げ、病気を治そうとするのです。体温が1℃上昇すると、免疫力は5~6倍に高まるという 研究報告もあります。なお、低体温が招く免疫の乱れは、花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー病とも 深く関わっていると考えられています。

また、低体温は基礎代謝(安静時に行われるエネルギー消費の仕組み)も低下させます。 その結果、脂肪や糖をうまく燃焼できなくなることから、糖尿病や脂質異常症、メタボリックシンドロームも 招くことになるのです。また、低体温で血流が悪くなると、血管や筋肉の新陳代謝が衰えて、肩こり・腰痛・膝痛 といった関節痛に悩まされやすくなります。高齢者の場合は、脳への血流が滞ると酸素や栄養も行き届かないため、 認知症(ボケ)の恐れも高まるでしょう。女性では、下半身が冷えて卵巣や子宮の働きも衰えるので、 月経異常や子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人病を引き起こす原因になります。

さらに、免疫力が衰えると、当然、癌細胞も増殖しやすくなります。 癌細胞は実は毎日、私たちの体の中で作られているのですが、それでも癌を発症しないのは、 免疫細胞が癌細胞を破壊しているためです。実際、癌細胞は35℃の体温のときに活発に増殖することが 明らかになっています。体の中で、癌になりやすい場所を考えてみるとわかりやすいのではないでしょうか。 心臓に癌ができるという話は聞きませんが、それは心臓は常に温度が高い臓器だからだと考えられ、 これに対して、肺は呼吸の空気で冷やされて温度が低くなるので癌が発症しやすいと考えられます。

このように、低体温はあらゆる病気を招く万病の元といえ、体温は常に免疫細胞が活動しやすい温度に保たれている 必要があるのです。


●低体温になりやすい人

赤ら顔や長引く風邪、歯茎の黒ずみ、汗かきな人、手足が温かい人は要注意

低体温になりやすい人といえば、痩せていて顔が青白く、手足の冷えに悩んでいるようなタイプを思い浮かべるのでは ないでしょうか。確かに、そのような人に低体温が多いのは事実です。しかし、それとは反対に、太っていて血色よく、 手足が温かい人も意外に低体温を招きやすいのです。こうした人は、自分の低体温に気づきにくく、 さらに冷えを悪化させることになるのでやっかいです。そこでまず下記のチェエク表で、自分が陰性体質か陽性体質かを 調べてみてください。東洋医学では、体に冷えを溜め込みやすいタイプを陰性体質、体温が高いタイプを陽性体質といいます。


低体温を招きやすいかどうかがわかるチェックテスト
  点数
身長 低い 中程度 長身  
肉付き 固太り どちらともいえない やわらかい  
姿勢 背筋がまっすぐ どちらともいえない 猫背  
顔つき 丸顔 どちらともいえない 面長  
髪の毛 うすい(ハゲ) 年齢相応 多い(年を取ると白髪)  
太くて短い どちらともいえない 細くて長い  
細くて一重 二重で細いか一重で大きい 大きくて二重  
肌の色 赤みが強い どちらともいえない 色白か青白い  
太くて張りがある どちらともいえない 小さくてかすれる  
話し方 速くて攻撃的 どちらともいえない ゆっくりで穏やか  
行動 速くて力強い どちらともいえない ゆっくりで弱弱しい  
性格 積極的で自信満々 どちらともいえない 消極的で自信がない  
体温 36.6℃以上 36.5℃ 36.5℃未満  
脈拍 速い 中程度 弱い  
血圧 高め 正常範囲内 低め  
食欲 大いにある 普通 あまりない  
大便 太くて硬い 普通 軟便か細くて便秘気味  
尿 濃い 黄色 薄くて透明に近い  
尿の回数 1日5~6回 ほぼ7回 4回以下か8回以上  
各設問でA(1点)、B(0点)、C(-1点)から当てはまるものを選び、右の空欄に点数を書く。 合計して4点以上なら「陽性体質」、-3~3点なら「間性体質(ちょうどいい体質)」、 -4点以下なら「陰性体質」となり、低体温を招きやすい。 (合計)


チェックの結果、陰性体質となった人は低体温を招きやすいといえます。ただし、陽性体質と判定された人も 油断できません。なぜなら、先に述べたように低体温を招きやすい意外なタイプがあるからです。

▼太っている人
太っている人は皮下脂肪が厚く、冷たい外気から身を守られていますが、脂肪はいったん冷えると 温まりににくいという性質もあります。そのため、冷えた状態を長引かせることが多く、低体温も招きやすいのです。

▼赤ら顔の人
血色のいい人は体温の高い場合が多いのですが、顔色が異常に赤い人は別です。 これは、血流が悪いために下半身も冷たく、体熱は頭部など体の上方に集中し、のぼせた状態になっているからです。 体温が高いために赤ら顔になるのか、それとも血流の悪化のせいなのかを見分けるには、 唇や歯茎の色を見てみましょう。紫色に近い場合は、血流が悪くなっている証拠です。

▼汗かきの人
暑くもないのに、体を少し動かしただけで汗をたくさんかく人は、体内に余分水分がたまっている恐れがあります。 そうした人は体に冷えをためて低体温になりがちです。

▼便秘がちの人
便秘の人は、栄養の吸収と老廃物の排泄がうまく行われていません。つまり、体の新陳代謝が衰えているので 低体温になりやすく、 しかも低体温になると腸の働きがさらに低下し、便秘も悪化するという悪循環に陥ります。

▼手足の先が温かい人
手足がいつも温かい人の中には、体内の熱が体の末端の手足から逃げやすい人がいます。 体温の高さは、手足の体温ではなく、体の深部が温かいかどうかで判断されます。 そこで、手足がいつも温かい人はお腹を触ってみてください。もし、お腹が冷えているようなら、冷えが進んでいる証拠です。

●低体温を招く生活習慣

低体温を招きやすい生活習慣は次のようなものです。

▼運動不足
最近、低体温の人が増えている原因の一つに、汗をかかない生活をする人が増えてきたことがあげられます。 汗には、老廃物を排出するという働きと共に、体温を調節する働きもあるのです。 したがって、汗をかかない運動不足の生活を続けていると、体温の調節機能が低下して低体温を招きます。 また、体を動かさないでいると筋肉が衰えて体熱を十分に作り出せなくなります。

▼薄着や冷房の悪影響
最近では、夏の暑い時期でも低体温の人が目立ちます。この背景には、冷房の普及や薄着の習慣が深く影響しています。 現代社会では、自宅だけでなく職場、店舗、乗り物までクーラーが効いていて、体の冷えに拍車をかけています。 しかも、最近の若い女性は冬も含めて1年を通じて薄着の傾向にあります。 これは、わざわざ冷えにさらしているようなもので、低体温を引き起こす深刻な原因になっています。

▼過剰なストレス
ストレスが続くと交感神経が緊張し、体をリラックスさせる作用のある副交感神経が働きにくくなります。 そのため、交感神経が優位に働くことから血管は収縮したままになり、体温は低くなってしまいます。
【関連項目】:『ストレスと低体温』



▼シャワー中心の入浴法
入浴のときに湯船にゆっくり浸かると、全身の血流がよくなり、臓器や細胞の新陳代謝も活発になります。 しかし、最近ではシャワーだけで入浴をすます人が多いようですが、こうした習慣も低体温を招く一因になります。

▼体を冷やす食生活
現代人は、アイスクリームや生野菜サラダなど体を冷やす食べ物を過剰に摂っています。 また、食べ過ぎや偏食、水分の摂り過ぎなども全身の血流を悪くし、体を冷やします。

以上のような生活習慣が思い当たる人は、できる部分から悪い要因を一つづつ改善していくことが大切です。


●低体温が招く病気


●低体温を改善して免疫力を高める

免疫力も基礎代謝も大幅に向上する

体温が35℃台になると、血流や新陳代謝も悪くなるため、内臓の不調や関節痛の悪化、疲労の蓄積といった不快症状に 悩まされやすくなり、外見上も肌荒れ・シミ・シワなどが目立ってきます。 こうした体の不調が長年続き、その原因として低体温が思い当たる人は、体温を1℃アップさせて36.5℃以上の平熱を 目指すことが大切です。もともと体の器官や内臓、細胞組織は、36.5℃以上の環境で最も活発に働きます。 したがって、体温が1℃上がれば、さまざまな病気や不快症状も改善に向かうはずです。 ある研究では、体温が1℃上昇すると、免疫力は5~6倍、基礎代謝は約12%向上し、酵素の働きも大幅に活性化すると 報告されています。 中でも免疫力は、体温の上昇によって大きな影響が現れます。体の免疫力を担う白血球は、体温が高いほど活発に働く という特徴があります。つまり、体温を上げることで免疫力が高まり、感染症やアレルギー、癌などの予防・改善効果 も高まるのです。

低体温が治ると、自律神経の働きも正常になります。 自律神経は、交感神経と副交感神経の働きを切り替えることで血管を収縮・拡張させていますが、 低体温の人は交感神経が優位に働くので血管は収縮しやすくなり、血流も滞りがちになるのです。 そこで、後述する低体温の解消法を試してみてください。自律神経が正常に働くようになり、血流もよくなって 体温がアップするはずです。 さらに、平熱が上がれば基礎代謝も大幅に高まります。私たちは体を安静にしているときでも、呼吸や心臓の拍動などで 常にエネルギーを消費しています。これを基礎代謝といい、1日のエネルギー消費量の実に7割を占めています。 体温が1℃上がれば、エネルギーの生産工場である細胞内のミトコンドリアの働きも活性化します。 すると、糖や脂肪の燃焼が促されるので、肥満の予防にも役立つでしょう。 このように、体温を1℃上げるだけで、さまざまな病気や不快症状を改善に導きことができるのです。