低体温が招く免疫力低下とアレルギー
冬の低体温が原因で体の免疫力を担う腸の働きが弱まると、 アトピーや花粉症などのアレルギーを招く一因になるといわれています。 低体温が原因の免疫力低下は、腸の乳酸菌を増やすことで改善するとされ、 腸の乳酸菌が増えると、リウマチや花粉症、アトピーも抑えられると考えられています。
■免疫力低下とアレルギー
免疫力の衰えが原因でアレルギーは起こる
空気が乾燥する冬は、風邪やインフルエンザの病原体であるウィルスの活動が最も活発になる時期です。 また、寒い時期は体が低体温になって「免疫力」も低下しがちです。これも、冬に感染症をはじめ、 さまざまな病気を引き起こし、悪化させる原因になっています。 免疫とは、体内に侵入してきた細菌やウィルス、ホコリ、花粉などの異物(抗原)を排除して体を守る仕組みのことで、 その作用する力が免疫力です。
近年、日本人にアトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー病や、リウマチなどの自己免疫疾患が急増しています。 そこで、注目されているのが免疫の働きです。 免疫力が低下すると、風邪などの感染症から癌にいたるまで、さまざまな病気にかかりやすくなります。 体内での免疫の働きを担っているのは「白血球」で、アレルギー病はこの白血球が異物に対して過剰なまでに反応して、 排除しようとすることで起こります。アレルギーの原因となる異物を「アレルゲン(抗原)」といい、 アレルゲンが体内に入ると、白血球はたくさんの「抗体」(抗原に反応して体内にできる物質)を作り、 これに対抗しようとします。実は、これが「免疫グロブリンE(IgE)」というたんぱく質で、 体に悪影響を与えてしまうことがあるのです。 詳しくいうと、白血球がアレルゲンに対して過剰反応し、IgEが大量に作り出されると、それが肥満細胞という 特殊な細胞と結合し、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。 これらの物質が炎症を起こすもとになり、結果としてアレルギーが起こるのです。
では、なぜ、免疫が乱れてしまうのでしょうか。その原因として、最近、特に注目されているのが「腸の衰え」 です。腸は食べ物を消化・吸収する器官ですが、それ以外にも、免疫力を左右する重要な働きを担っていることがわかってきたのです。
●腸と免疫力
腸は全身の免疫を担う最重要器官
腸には、約100種類、100兆個もの腸内細菌が住み着いています。この腸内細菌は、体に有益な働きをする善玉菌と、 体に悪い影響を与える悪玉菌に大別でき、腸内で絶えず勢力争いをしています。 善玉菌が優勢なら腸の働きが活発になって、便の排泄もスムーズになります。 反対に、悪玉菌が優勢なら腸の働きは衰え、便秘や下痢が起こりやすくなります。 それだけではありません。この腸内細菌の勢力争いは、免疫にも深く関わっています。
◆体内に侵入する異物を撃退する腸
腸管(小腸)は、免疫細胞が全身で最も多く集まっている、体内で最大の免疫器官です。 小腸の内側の腸壁には、おびただしい数の絨毛と呼ばれる小さな突起があり、その表面積はテニスコート1面分にも相当します。 この絨毛は、食べ物に含まれている栄養素を吸収しますが、そのさい、食べ物と一緒に細菌やウィルスまで 吸収してしまう可能性があります。そこで、小腸の腸壁の粘膜には、「パイエル板」という 特殊なリンパ節の組織があり、たくさんの免疫細胞が活躍しています。 その数は全身の免疫細胞(免疫を担う白血球を構成する数種類の細胞)の約6~7割がにものぼります。 パイエル板は、外界から異物(抗原)が侵入してきたときに抗原を次々捕獲し、その情報を体内に伝えます。 すると、体内では、「免疫グロブリンE(IgE)」という抗体が作られて、全身に送り出されると同時に、 免疫を担う白血球も活性化されるため、さらなる抗原の侵入に備えるという仕組みになっているのです。 そのため、腸内環境が悪玉菌優勢になって腸の働きが衰えると、免疫細胞の働きも不活発になり、 免疫の乱れを招くのです。 こうした小腸の免疫に関わる働きを「腸管免疫」といいます。
免疫細胞の中でも異物を攻撃する中心的な役割を担っているのが、リンパ球の一種の「ヘルパーT細胞」です。 ヘルパーT細胞には、アレルギーを起こす抗体のIgEを作る働きを抑えるTh1と、作る働きをするTh2の2種類があり、 どちらも小腸の腸壁に密集しています。そして、Th1とTh2の働きは、どちらか一方が活性化すると、 もう一方の働きが弱まるというシーソーのような関係にあります。腸内で悪玉菌が優勢になると、悪玉菌がたんぱく質を 分解したときに生じるアンモニアやインドールといった有害物質が増え、腸に悪影響を与えます。 それを修復するために、腸にはTh2がたくさん動員されます。その結果、IgEが大量に作られるようになり、 アトピーなどのアレルギー病の原因になると考えられています。
●低体温と腸の免疫力低下
低体温も免疫力低下の衰えを招く重大原因
腸を衰えさせる原因にはいろいろ挙げられますが、特に注意したいのが、低体温です。 低体温でお腹が冷えると、お腹周辺の血流が悪化して腸の血流が悪くなり、腸の働きを衰えさせる元凶になります。 具体的には、腸内に住み着いている 腸内細菌のうち、善玉菌が減って悪玉菌が増えるという腸内環境の悪化を招くのです。 悪玉菌が優勢になった腸では、排泄作用が衰えて、有害物質を体内に増やす原因になります。 すると、白血球はそれに対抗するために大量の活性酸素を撒き散らすこともわかっています。 そして、こうして発生した有害物質や活性酸素は、血液を介して全身に運ばれ、細胞の新陳代謝を妨げたり、 細胞を傷つけたりします。さらに、悪玉菌が腸内に優勢になると、免疫の働きを衰えさせて、癌などの生活習慣病や 風邪などの感染症、そしてアトピー性皮膚炎などのアレルギー病も発症させやすくなるのです。
現代人は、体を冷やす飲食物の摂りすぎや薄着・運動不足のせいで、低体温の人が多くなっています。 免疫細胞は、36.5℃を下回る体温では働きが低下することがわかっています。 その結果、免疫が乱れてアレルギー病にもなりやすくなるのです。実際、アレルギー病患者のほとんどは、 お腹が冷えた低体温の状態で、便秘や下痢、冷え性などに悩んでいる人が多いのです。
●衰えた腸を強めるには・・・
乳酸菌が腸を刺激し、免疫力を高める
腸管免疫が活発に働くためには、腸の善玉菌を増やすことが肝心です。 その最良の方法は、善玉菌そのものである乳酸菌を多く含む、ヨーグルトや納豆、漬物などの発酵食品を積極的に 摂ることでしょう。では、乳酸菌は腸内でどのように働くのでしょうか。
乳酸菌が体内に入って腸管に達すると異物と認識され、すぐにパイエル板に取り込まれてしまうと考えられています。 実は、乳酸菌の効果は、菌の細胞壁に含まれている有効成分(多糖類)によって生み出されています。 その有効成分がパイエル板を刺激して、免疫細胞の働きを活性化させることで免疫力が高まるのです。 したがって乳酸菌を大量に摂れば摂るほど、免疫力が高まることになります。 前述したように、アトピーなどのアレルギー病の場合、白血球の一種であるTh2の働きが優位になっていますが、 乳酸菌はこのTh2の働きを抑えて、アトピーのさまざまな不快症状を軽減するように作用するのです。 (ちなみに、フィンランドでの研究で、アレルギー体質の妊婦と生まれてきた子供に乳酸菌を与えたところ、 子供のアトピー発症率が半分以下に抑えられたという報告があり、乳酸菌のアトピーに対する効果は、各国で実証されています)
◆乳酸菌の取り方を工夫するといい
乳酸菌を最も手軽に摂れる食品といえば、ヨーグルトがすぐ思い浮かぶでしょう。 ヨーグルトは、乳酸菌で発酵させたもので、乳酸菌が大量に含まれています。 そもそも免疫力を高める働きが乳酸菌にあると考えられるようになったのは、世界の長寿地域に住む人の多くが、 乳酸菌の豊富なヨーグルトを食べていることがわかったからです。以来、ヨーグルトは長寿食の代表として、 日本でもすっかりおなじみになり、スーパーなどの食品売り場にはヨーグルト製品がたくさん並んでいます。
さて、ひと口に乳酸菌といっても、実に多くの種類やタイプがあり、その効果もいろいろです。 皆さんが乳酸菌の食品を選ぶ際、まず気になるのが、乳酸菌は生きた菌(生菌)のまま摂る方がいいのかどうか、ではないでしょうか。 この点については、乳酸菌は生菌でも熱処理されて死んだ菌(死菌)でも、免疫力を高める効果には差のないことが、 最近の研究でわかっています。そもそも乳酸菌の生菌をとっても、大半は胃の消化液で殺菌されるため、 小腸に届く前に死んでしまいます。 また、乳酸菌の効果は、菌の細胞壁に含まれている有効成分(多糖類)にあり、その有効成分は熱にも強いため、 加熱してもその働きに代わりのないことがわかっています。
いずれにせよ、アレルギー病や癌などの難病を改善するためには、乳酸菌を大量に摂ると有効です。 そのためには、ヨーグルトでも乳酸菌を増やして食べたり、多種多彩な乳酸菌を摂ったり、乳酸菌の死菌の粉末食品を 摂ったりするなどの工夫が必要です。
【関連項目】:『乳酸菌』