慢性腎臓病の透析療法
「慢性腎臓病」が徐々に進行し、腎臓の機能が果たせなくなる「末期腎不全」になると、命に関わるさまざまな病気が出てきます。 その場合は、低下した腎臓の機能を人工的に補う「血液透析」や「腹膜透析」などの透析療法を行なう必要が出てきます。
■透析療法とは?
腎機能を人工的に補う方法。「血液透析」や「腹膜透析」がある
慢性腎臓病が進行し、腎機能が10%程度に低下すると、「末期腎不全」の状態になり、 腎臓は本来の機能がほとんど果たせなくなります。この時期には、老廃物が排泄できずに体内にたまり、 「心不全」などの命に関わるさまざまな症状が起こるようになります。 そのため、極端に低下した腎機能を補うための治療が必要になります。
方法としては、人工的に血液を濾過する「血液透析」や、「腹膜透析」「腎移植」などがあります。 このうち腎移植は、日本ではまだ提供者が少なく、かなり限られた場合にしか行なわれていないのが現状です。 したがって、多くの場合、医療機関で受ける血液透析と、自宅や職場などにおいて自分で行なう腹膜透析の2つが 治療法として選択されることになります。
日本では、透析療法を受けている人は増加しており、2005年の時点で、約258,000人に及んでいます。 患者によって異なりますが、一般には腎機能が10%以下になると、血液透析あるいは腹膜透析の対象になります。
●血液透析
血液を濾過する機器で体内の血液をきれいにする
血液透析を開始するに当たっては、血液の取り出し口である「シャント」をつくるため、
片腕の皮膚の下の静脈と動脈をつなぎあわせる手術を行ないます。血液透析では、まずシャントから血液を体外に取り出して、
人工的に血液を濾過する機器「ダイアライザー」に通します。
そこで老廃物や余分な水分を「透析液」にこし出し、きれいになった血液を体内に戻します。
週2~3回医療機関に通い、1回約4~5時間かけて行なわれます。血液透析は現在最もよく行なわれている透析療法です。
そのため、血液透析を行なえる医療機関は全国に多数あり、多くの人は自宅や勤務先近くの医療機関を選択しています。
昼間は仕事を行い、夕方から血液透析を行なう「夜間透析」が可能な医療機関もあります。
◆日常生活での注意点
食事面では、「たんぱく質や塩分、カリウム」などの制限が血液透析を受ける以前より厳しくなります。 血液透析を始めると尿量が少なくなり、水分バランスなどが崩れやすくなるからです。 しかし、栄養制限に気をつけていれば、外食も可能です。 体力低下を防ぐためにも、体力に見合った運動は行った方が良いとされています。 透析と透析の合間を利用したレジャーや、旅先で透析を受けることができれば、旅行も可能になります。 運動や旅行の際は、必ず担当医に相談しましょう。
●腹腔透析
「腹膜」を利用して1日24時間、透析を行なう
胃や腸など腹部にある臓器は、毛細血管が張り巡らされた「腹腔」に包まれています。 腹腔透析では、この腹膜を利用して、1日24時間、血液を濾過します。
腹腔透析ではまず、おなかに「カテーテル(細い管)」を取り付け、カテーテルを通して
腹膜に囲まれた腹腔内に透析液を注入します。腹膜の毛細血管から血液中の老廃物や余分な水分は透析液に濾しだされ、
老廃物などがたまった透析液はカテーテルを通して排出し、代わりに新しい透析液を入れます。
この透析の入れ替えを「バッグ交換」といいます。
バッグ交換は、1日に4回行うのが基本です。1回にかかる時間は30分ほどです。
仕事をしている人であれば、出勤前に1回、昼休みに1回、夕方帰宅してから1回、寝る前に1回というように、
定期的にバッグ交換を行なうのが一般的です。
最近では、「自動腹膜透析」という方法も登場しました。
「自動腹膜灌流装置(サイクラー)」と呼ばれる機器を持ちいて、夜間睡眠中に、自動的に透析液を交換する方法です。
◆腹膜透析のメリットと注意点
腹膜透析のメリットは、自宅や出先で治療ができ、通院は月に1~2回で済むという簡便さにあります。
また、24時間老廃物などを濾過しているので、体液の状態の変動が少なく、体調も安定します。
食事や水分制限が血液透析よりも穏やかで、尿量が保てるため、腎機能が長持ちします。
メリットが多い反面、注意点もあります。「腹膜炎」などの感染症を起こす可能性があり、
日常的にカテーテルのケアは欠かせません。カテーテルが取り付けてあるため、入浴や水泳時に不便なこともあります。
また、腹腔透析では腹膜に本来は受けることのない負担がかかります。
そのため、腹腔透析を行なっても、一般的には約5~6年を目安に血液透析に移行する必要があります。
しかし、はじめは腹腔透析を行なってできるだけ腎機能を保ち、その後、血液透析に移行するのが良いと考えられています。
2005年時点の、透析患者数約258,000人のうち腹膜透析を受けているのは約1万人、そのうち自動腹膜透析を受けているのは
約4,000人です。血液透析が普及している日本では、送れて登場した腹膜透析の普及が難しいのが現状です。
●透析と上手に付き合っていくためには
透析の時間を有効に使うなどして前向きに治療を受けよう
慢性腎不全での透析療法の場合、健康保険の「高額療養費制度」が適用され、患者の自己負担額の上限は
月額2万円(2007.6月現在)と決まっています。一度治療を開始すれば、何十年も付き合うことになるため、
透析療法とは上手に付き合っていきましょう。医療機関は、自宅や職場に近いなど、通いやすさで選ぶことをお勧めします。
また、透析の時間には読書をしたり、音楽を聴くなど、時間を有効に活用する工夫も大切です。
家族など、周りにいる人は、患者の状況や病状を患者と一緒に担当医から聞くなどして、サポートすることも大切です。