腎不全 治療の選択

・慢性腎臓病が進行し、末期腎不全に至ると「透析療法」「腎臓移植」が必要。
・多くは、腎臓の働きを機械などで代替する「血液透析」や「腹膜透析」が行われる。
・自分のライフスタイルや性格などを考慮して、透析療法の方法を選択する。


■腎不全まで進行すると

腎臓の働きは元に戻らないため、代わりとなる治療が必要

慢性腎臓病が進行すると、腎臓が十分な働きを果たせなくなった状態である『腎不全』に至ります。 腎不全がさらに進むと、腎臓の機能が著しく低下した『末期腎不全』に至ります。 腎臓の働きは生きていくうえで欠かせないものですが、腎不全によって失われた腎臓の働きは元には戻せません。 従って、末期心不全と診断された場合は、腎臓の働きの代わりとなる「透析療法」「腎臓移植」が必要です。 現状では、末期心不全の患者数に対して、移植のための腎臓の提供者数が非常に限られています。 そのため、末期腎不全の患者さんの大多数は、透析療法を選択することになります。

◆進行すると現れる症状

腎臓には、毛細血管の塊である「糸球体」があり、腎臓に流れ込む血液を濾過して老廃物などを尿中に排出しています。 腎臓の機能が低下すると、老廃物などが尿中にうまく出ていかなくなり、血液中にたまるようになります。 末期腎不全では、尿自体が出なくなることがあります。腎不全の状態では、不要な老廃物などが体内にどんどん蓄積されていきます。 最初のうちは、症状が現れないことがほとんどで、現れたとしても「むくみ」「貧血」「血圧上昇」などにとどまります。 しかし、eGFRのステージがG4やG5になると、「疲れ」「吐き気」「食欲不振」「息切れ」といった尿毒症の症状が起こってきます。

◆つらい症状が現れる前の治療が大切

腎臓の機能が低下する速さは患者さんによって異なりますが、腎不全を放っておくと、末期腎不全まで進行します。 eGFRのステージがG4近くになると、そこからさらに悪化した場合には透析療法を始めることが勧められるので、 医師から透析療法に関する説明がされますが、自覚症状が現れないことも多いため、尿毒症の症状が出るほど重症化するまで 透析療法を受けない患者さんが多いのが現状です。”透析療法が怖い”という理由で治療を先延ばしにする患者さんもいますが、 透析療法を受け入れなければ命に関わります。尿毒症の症状が現れる前に、透析療法を始めることが望まれます。


●透析療法の方法

機械を介する血液透析と、腹膜を介する腹膜透析がある

透析療法には「血液透析」「腹膜透析」の2つの方法があります。

◆血液透析

最も多くの患者さんが行っている方法で、専門の医療機関に通院し、ベッドに横になった状態で行われます。 血液透析では「ダイアライザー」という機械が腎臓の働きをします。腕の血管から血液をダイアライザーに送り、 その中を通過する間に老廃物などが取り除かれて、浄化された血液が体に戻されます。 1回の透析には、4~5時間かかります。透析中は読書をしたり、テレビを見たりしている患者さんも多いです。 血液透析は週に2~3回行うのが一般的です。 血液透析を始めて間もないころは、老廃物などが取り除かれて、急に体内のバランスがよくなるため、「頭痛」や「めまい」などが起こる場合があります。 こうした症状は、血液透析を何度も行ううちに、次第に起こらなくなります。 血液透析を行っていても、食事療法は重要です。血液透析と並行して、適正エネルギー量の摂取を心がけたり、 栄養分や水分の制限などをしっかり守ることが大切です。

◆腹膜透析

胃や腸などを覆っている「腹膜」を利用して、老廃物や余分な水分を取り除きます。 腹腔に透析液を入れて4~8時間留置しておくと、腹膜を介して老廃物などが透析液中に徐々に溶け出してきます。 老廃物などのたまった透析液は、体の外に出して、新しい透析液と交換します。 透析液の交換にかかる時間は30分程度で、それ以外は通常の日常生活を送ることができます。 腹膜透析は家庭などで患者さん自身が行うので、血液透析のように頻繁に通院する必要はなく、月に1~2回の受診で済みます。 ただし、医療機関に頼らない分、しっかりとした管理が必要です。腹膜透析は、頻繁に通院することが難しい患者さんや 仕事の時間を確保したい患者さんに向いています。ただし、長い間透析を行っていると、腹膜に負担がかかり、硬くなります。 腹膜が硬くなると、濾過機能が低下したり、腸と腸がくっついて「腸閉塞」という重い病気を起こす危険があります。 そのため、医療機関にもよりますが、およそ5年間を目安に腹膜透析から血液透析に移行するのが一般的です。 医師とよく相談して、適切なタイミングで血液透析に切り替えることが重要です。


●透析療法の選択

自分の生活スタイルなどに合った方法を選ぶことが大切

尿毒症の症状がひどくなってから透析療法を開始する場合は、血液透析の方が適していると考えられます。 そうした場合以外は、血液透析と腹膜透析のどちらが自分の生活スタイルや性格などに合っているかをよく考え、選択しましょう。 ”血液透析は通院が大変”という印象を持つ人もいますが、都市部などでは駅前にも血液透析を行う医療機関が増えてきています。 そこを利用すれば、仕事を終えた後などにも通院できるでしょう。
腹膜透析は、自分で透析液を交換でき、透析中も活動できるというメリットがありますが、透析液を交換する場合は 清潔な場所を確保する必要があります。 また、最近は、腹膜透析は血液透析より腎臓の残っている機能を保つように働くといわれています。 そのため、まずは腹膜透析を行い、一定期間後に血液透析に移行する「腹膜ファースト」という考え方もあります。

◆両方を組み合わせたやり方もある

腹膜透析をベースに週1回のみ血液透析を行う「ハイブリッド」という方法も始められてきています。 血液透析の方が余分な水分を除去する力が強いので、腹膜透析では体内の余分な水分を十分取り除くことができなくなった場合に行われます。


●腎臓移植

健康な人の腎臓を移植し、腎臓の機能を改善する

腎臓移植は、自分以外の人から提供された健康な腎臓を移植する治療です。 移植後は健康な人とほぼ同様の生活ができますが、規則正しい生活習慣を守ることが大切です。 特に、喫煙は移植した腎臓の機能に悪影響を及ぼすので、必ず禁煙します。 移植後は、拒絶反応を抑えるために「免疫抑制剤」を飲み続けます。 現在は新しい免疫抑制剤も登場したことで、移植した後に透析療法に戻る患者さんは、5年間で1割程度まで減っています。
提供した人(ドナー)の腎臓は1つになりますが、腎臓の機能が半減するわけではありません。 1つの腎臓を摘出しても、腎臓の機能の低下は30%程度で済み、その後は安定するといわれています。