慢性腎臓病の進行を遅らせる
・慢性腎臓病を放っておくと、脳や心臓など全身の病気にもつながる。
・尿酸値の上昇や尿毒症など、病状に応じた薬物療法が行われる。
・食事療法では、カリウムやたんぱく質などの摂取制限を行うことが多い。
■慢性腎臓病が進行すると
むくみや吐き気、息切れなどの症状が現れてくる
慢性腎臓病の重症度は、血清クレアチニンの値を基に算出した「糸球体濾過量(eGFR)」と「尿たんぱく」 の2つの要素から判定されます。慢性腎臓病は、かなり進行しないと自覚症状が現れません。 5段階に分類されるeGFRのステージ別に見ると、糸球体濾過量が十分保たれているステージG1とステージG2の場合は、 自覚症状はほとんどありません。ステージG3になると、「むくみ」「貧血」「血圧上昇」などの症状が見られる場合があります。 ステージG4、ステージG5に進み、透析療法や腎臓移植が必要な「末期腎不全」に至ると、むくみなどのほかに 「疲れ」「吐き気」「食欲不振」「息切れ」といった尿毒症の症状も出てくるので、生活の質が著しく低下します。 ただし、実際には、末期腎不全に至る直前の状態になっても、自覚症状のない患者さんが少なくありません。 そのため、慢性腎臓病が進んでいることに気付かず、適切な時機に治療を受けられない場合も多く、 それによりほかの病気のリスクも高くなってきます。
◆放っておくと起こる危険
腎臓には、「老廃物の濾過と排出」「体液量とイオンバランスの調整」「ホルモンの分泌」という、大きく分けて3つの働きがあります。 これらの腎臓の機能が低下すると、体全体に異常が生じ、さまざまな全身の病気が起こってきます。 慢性腎臓病は高血圧を悪化させ、動脈硬化を進行させることによって、「脳卒中」「心筋梗塞」「心不全」といった脳や 心臓の病気を引き起こします。そのほか、慢性腎臓病と関係して起こる「酸化ストレス」や、慢性腎臓病に特有の 「尿毒素」の蓄積なども、脳や心臓に悪影響を及ぼすと考えられています。また、骨がもろくなり、 「骨・関節障害」を起こすこともあります。 こうした病気はステージG3の段階から起こりやすくなってきます。それを防ぐためには、慢性腎臓病の進行を抑えることが必要です。 慢性腎臓病は、糖尿病などの生活習慣病が原因になる場合が多いので、進行を抑えるにはそれらの病気に対する薬物療法や、 生活習慣の改善が必要です。ただし、慢性腎臓病が軽度の場合と、中等度や高度に進行した場合ではその内容が異なります。
●進行した場合の治療法①
カリウムやたんぱく質などを状況に応じて制限する
生活習慣病の原因に糖尿病や高血圧などがある場合には、それぞれの病気に対する治療が行われます。 中等度から高度の場合は、それに加えて、病状の変化に応じた治療もおこなわれます。 例えば、腎臓の機能が低下して、老廃物の一種である「尿酸」が尿中に排出されなくなり、尿酸値が上がってきた場合は、 「尿酸値降下薬」を用いて尿酸の生成を抑えたり、排出を促します。 前述の尿毒症の症状が現れてきた場合は、「尿毒症治療薬」で尿毒素を排出させます。 また、血液中のカリウムの濃度が高い場合は、「高カリウム血症治療薬」、リンの濃度が高い場合は、 「高リン血症治療薬」でそれぞれの排出を促します。
●進行した場合の治療法②
カリウムやたんぱく質などを状況に応じて制限する
生活習慣の改善では、食事は適正なエネルギー量を守って摂取し、塩分については1日6g未満に抑えるようにします。 また、必要に応じて水分、カリウム、タンパク質などの制限を行います。
- ▼カリウム制限
- カリウムが排出されなくなると、血液中のカリウムの濃度が上がり、「不整脈」や「突然死」を起こす危険があります。 その場合は、カリウムを多く含む野菜の摂取量を減らしたり、調理の際、野菜を水にさらす、茹でこぼすなどの工夫をして カリウムを流します。
- ▼たんぱく質制限
- たんぱく質を摂り過ぎると、腎臓に負担がかかるほか、たんぱく質の多い食品はリンも多く含んでいます。 リンを摂り過ぎると骨がもろくなるので、患者さんによってはたんぱく質の制限が必要です。
◆適度な運動も大切
以前は、運動は腎臓に負担がかかるので、慢性腎臓病がある人は行わない方がよいといわれてきました。 しかし最近では、腎臓の機能がかなり低下している場合でも、体力を維持するために運動をした方がよいと考えられています。 どんな運動を行うとよいかは人によって異なるため、担当医と相談しましょう。
●悪循環を防ぐために
治療の継続のほかにも、日常生活での注意が必要
一般的には、いったん失われた腎臓の働きを元に戻すことは難しいといわれています。
腎臓に一部で機能が低下すると、正常な部分がより働くことで腎臓の機能を保とうとします。
その結果、正常な部分が疲弊して、さらに腎臓の機能が低下する、という悪循環に陥ります。
腎臓の機能を長く維持していくためには、薬物療法や生活習慣の改善と併せて、次のようなことにも注意してください。
◆日常生活では市販薬などに要注意
市販の「風邪薬」「抗菌薬」「解熱鎮痛剤」などを用いる場合は、必ず担当医に相談してください。
解熱鎮痛薬は腎臓の血流を低下させて、腎臓の機能を低下させますし、風邪薬には通常、解熱鎮痛薬が配合されています。
抗菌薬にも、腎臓の血流を低下させるものがあるので注意が必要です。
そのほか、「サプリメント」を用いる場合も担当医に相談しましょう。
また、慢性腎臓病以外の病気で他の医療機関を受診した場合は、慢性腎臓病があることを担当医に伝えてください。
◆将来に向けた準備も大切
慢性腎臓病は適切な治療によって進行を遅らせることができますが、進行している場合には、末期腎不全に至る場合もあります。 末期腎不全になると透析療法や腎臓移植による治療が必要になるので、事前にこれらについて知っておくことが望まれます。