骨粗鬆症の予防・対策に
『骨を強くする運動』

適度な運動には、骨量を増やしたり、筋力を強化する効果があります。 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」でも、骨粗鬆症対策として薬物療法のほかに、運動による治療が勧められています。 骨は”衝撃”を与えることで作られます。骨細胞は衝撃を感知するセンサーの役割をしており、 衝撃を感知すると、骨を作るのを抑えるスクレロスチンという物質の分泌量を減らすとともに、「骨を作ろう」というメッセージを発して、 骨を作る骨芽細胞の数を増やすのです。 つまり、日常的に運動をして骨に刺激を与えると、骨芽細胞の働きが高まって骨が強くなったり、骨を支える筋肉が強化されたりするのです。 骨に衝撃が与えられないと、体が骨を作ろうとしないため、この状態で骨粗鬆症の薬を使っても、効果を十分に引き出すことができません。 強い骨を作るには、運動が不可欠なのです。 運動は骨に適度な負荷をかけるものがよく、骨を作る運動の例として、バレーボール、バスケットボール、縄跳び、ジョギングなどが挙げられます。 激しい運動をするのが難しい場合は、ウォーキングがお勧めです。 のんびり歩くのではなく姿勢をまっすぐにして歩幅を広くし、リズミカルに歩くようにします。 膝痛や腰痛がある人は、ウォーキングによって痛みが悪化することがあるので、1分間の「片足立ち」を行うとよいでしょう。 階段の上り下りや散歩の時間を増やすだけでも、骨にはよい効果があります。 ただし、足元がふらついたり、バランスを崩しやすくなっている人、最近1年間に転倒したことがある人は注意が必要です。 まずは安全な運動で足腰を鍛えることからことから始めましょう。筋肉が付いてきたら、他の運動にも挑戦してください。


●運動のポイント「骨に”縦方向の刺激”を加えるような運動を行う」

運動の目的は主に2つあります。1つ目は、骨折に特に注意が必要な部位に関係する「背筋」と「下半身」を中心に鍛え、骨密度と筋力を高めることです。 2つ目は、転倒を防ぐために、「バランス感覚」を鍛えることです。 骨を丈夫にするためには、骨に十分な刺激を与えることが必要です。 特に下半身の骨を強くするのに有効なのが、骨に縦方向の刺激を加えることです。 そのために勧められる運動は「ウォーキング」です。 ポイントは、のんびり歩くのではなく、姿勢をまっすぐに伸ばし、歩幅を広くしてリズミカルに歩くことです。 高齢者では、例えば階段の上り下りや散歩の時間を増やすだけでもよいでしょう。 筋肉を動かすと骨にも適当な刺激が加わるため、基本的にはどのような運動でも骨によい効果があります。


■骨粗鬆症と運動

段階的に負荷を強めたり、回数を増やす

骨粗鬆症の予防や治療の一環としては、「骨量を増やす運動」「転倒を予防する運動」が勧められます。 ここでは、「骨に刺激を与える運動」「筋力を強化する運動」「バランス機能を改善する運動」のなかから、 負荷が軽く、運動になれていない中高年の人も行ないやすいものを紹介します。 段階的に負荷を強めたり、回数を増やすなど、徐々に運動に慣れていくようにしましょう。 なお、次の人には、運動は勧められません。

  • ▼重症高血圧の人(収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上)
  • ▼心肺機能に異常がある人
  • ▼骨折したり、発熱している人

また、現在、どこかに痛みがあったり、何らかの治療を受けている人は、担当医に相談してから運動を行なって ください。
(ここでは、図解を示していませんが「きょうの健康 2007.5月号」に写真つきで図解が載っています。 正確な運動方法を知りたい方はは、そちらの本をお買い求めください)

【関連項目】:『運動不足解消・生活習慣病予防に「ウォーキング」』


●骨量を増やす運動

運動によって、骨が刺激を受けると、骨を作る働きが活発になり、骨量が増加します。 ここでは、骨量を増やす運動の中から3種類を紹介します。いずれも、かかとや足裏が床に着いたときに、 骨に刺激が加わります。負荷は、第1段階から第3段階まで、段階的に強まります。 1つの運動を1ヶ月半継続したら、次の段階の運動へ進んでください。

▼かかと落とし(第1段階:最初の1ヵ月半)
両足のかかとを上げ、同時に床に落とす。かかとが床についたとき、 脚の骨や背骨に刺激が伝わるのを意識する。体重と同程度の負荷が体に加わることになる。
◇1日に連続して50回程度行なう。1ヶ月はほど継続してから、第2段階へ進む。
①両足を肩幅に開いて立ち、いすの背につかまり、両足のかかとを上げる。
②”トン”と踏みならすように、両足のかかとを落とす。

▼踏み台昇降(第2段階:1ヵ月半から)
階段や踏み台を利用して、20cm程度の段差を上ったり下りたりする。 体重の1.3倍の負荷がかかる。
◇1日に「右足から上って右足から下りる」を50回程度。 「左足から上って左足から下りる」を50回程度行なう。 1日左右合計100回を、1ヵ月半程度継続して、第3段階へ進む。
①段の上に、まず右足を乗せ、次に左足を乗せる。
②”トン”と踏み鳴らすように、右足を元の位置に下ろし、次に左足を下ろす。

▼膝を伸ばして下りる踏み台昇降(第3段階:3ヵ月後から)
第2段階の踏み台昇降と同じように段差を上り、膝を伸ばしたまま下りる。 膝を伸ばして下りると、負荷は体重の約1.5倍と、第2段階より大きくなる。
◇「右足から上って右足から下りる」を50回程度、「左足から上って、左足から下りる」を50回程度行なう。 1日左右合計100回を1ヵ月半程度継続する。
①段の上に、まず右足を乗せ、次に左足を乗せる。
②膝を伸ばしたまま、”トン”と踏み鳴らすように、右足を元の位置に下ろし、次に左足を下ろす。

●転倒を予防する運動・筋力の強化

下肢の筋力を強化して転倒を予防します。特に、ふくらはぎ、太腿の前面、お尻の筋肉を鍛えると、 「立つ」「座る」「歩く」「階段を上り下りする」などの動作が安定するようになります。 ここでは、それぞれの筋力を強化する運動を1種類づつ紹介します。 10会を1セットとし、1ヶ月ごとにセット数(回数)を増やします。

▼かかと上げ
ふくらはぎの筋力を強化する運動。ふくらはぎの筋肉に負荷がかかるのを感じながら、 ゆっくりとかかとを上げ、ゆっくりと下げる。
①両足を肩幅に開いて立ち、いすの背につかまる。
②「1・2・3・4」とゆっくり数えながら軽く両足のかかとを上げ 「1・2・3・4」でゆっくり下ろす。

▼1/4スクワット
太腿の前面の筋力を強化する運動。両膝を軽く曲げ、伸ばす。 膝は、立ったときのお尻の位置と床との距離の1/4程度までお尻を下げるように、 座面の高いいすに腰掛けるようなイメージで曲げる。深く曲げると膝を痛めやすいので注意する。
①両足を肩幅に開いて立ち、いすの背につかまる。
②「1・2・3・4」とゆっくり数えながら、軽く両膝を曲げ、 「1・2・3・4」でゆっくり膝を伸ばす。

▼足の後ろ上げ
お尻の筋力を強化する運動。上体を前に傾けた姿勢で、左右の足を、交互に後ろに上げる。 背中と上げた足が一直線になるようにする。上げた足は、体の外側に開かないように、 なるべくまっすぐ後ろへ上げる。
①いすからやや離れて立つ。いすの背につかまり、上体を約45度前に傾ける。
②「1・2・3・4」とゆっくり数えながら左足を後ろに上げ、 「1・2・3・4」でゆっくり下げる。次に右足を同様に上げ下げする。

●転倒を予防する運動・バランス機能の改善

何かにつまづいても、うまくバランスをとって体勢を立て直すことができれば、転倒を防ぐことができます。 ここでは、比較的速い動きで重心を移動させ、バランスをとる能力を鍛える運動を紹介します。 現在の自分のバランス能力に合わせ、動く速さや動きの大きさを調節し、転ばないように気をつけて行ないましょう。 回数などに特に決まりはありません。できる範囲で行なってください。

▼前後に踏み出す運動
片足を軸足にして動かさないようにし、反対側の足を前や後ろに踏み出す。 踏み出すときに、重心が移動するのを意識する。軸足を替えて同時に行なう。
①右足を1歩前に踏み出す。
②軸足(左足)の位置を動かさずに、右足を後ろへ移動させる。


▼横に踏み出す運動
卓球の再度ステップなどのように、横に足を踏み出して移動する。 左足を踏み出して左に移動したら、次に右足を踏み出して右へ移動する。
①足をそろえて立つ
②左足を左へ踏み出す
③右足を左足にそろえる
④左足を左へ踏み出す
⑤右足を左足にそろえる
●踏み出す足を右に替え、同様に右へ移動する

●その他

運動教室などへの参加

最近は、高齢者を対象にした運動教室が自治体などによっても開催されています。 専門家の指導を受けると、自分に適したより効果的な運動を行なうことができます。 また、一緒に運動する仲間がいると、楽しく運動を継続できることもあります。 このような教室などを利用して運動することも1つの方法です。

◆屋内でできる安全な運動もある

体がふらついたり、足元が安定しないような場合は、ウォーキング中に転倒して骨折する危険性があります。 そのため、転びやすい人や、骨粗鬆症がある程度進んでいる人の場合は、屋内でできる安全な運動を行いましょう。 骨粗鬆症対策の運動は安全に行うことが大切です。無理な運動は避けましょう。

【関連項目】:『運動不足解消』