入浴健康法『事故を防ぐ安全な入り方』
日本人はお風呂好きといわれます。特に寒い季節には、多くの人が体が温まる入浴を楽しみにしています。 しかし、冬季には入浴中の事故が多く、命に関わることもありますから注意が必要です。
■入浴に潜む危険
気持ちのよい入浴も、入り方を間違えると、脳卒中や心筋梗塞などの病気を招くことがあります。 入浴中の事故によって救急搬送された人数を見ると、夏季には少なく冬季に多いことが わかります。入浴に関連して死亡する人は、全国で年間1万人以上と推計され、 そのほとんどが高齢者であると考えられています。 冬季に入浴中の事故が多いのは、暖房の効いた部屋→寒い脱衣所や浴室→熱い湯といった 「温度差」が大きな原因と考えられます。ほかに、「水圧」にも注意が必要です。 特にお年寄りや高血圧などの病気のある人は、入浴に潜む危険について理解し、 安全な入り方を心掛けましょう。
■温度差で血圧が変動する
周囲の温度が変化すると、血圧は上がったり下がったりします。一般に、冬季の入浴では、 「暖かい部屋から寒い廊下へ出る」「寒い脱衣所で服を脱ぐ」「裸で寒い浴室に入る」 などの場合に、血管が収縮して血圧が上がります。寒いからと急いで熱い風呂に入ると、 さらに、血圧は急上昇します。その後、体が温まってくると、血管が広がり血圧が下がり始めます。 ところが、湯から出て、再び脱衣所の寒い空気にさらされると、再び血圧が上がります。 このように血圧が激しく変動すると、血管に負担がかかり、「脳溢血」「不整脈」「立ちくらみ」 などを起こしやすくなります。そのため、脱衣所を暖房したり浴室を温めるなどの工夫が必要です。
■熱い湯で血圧が上がり、血液粘度が高まる
血圧は、湯の温度が高いと大きく上昇します。入浴前から入浴後にかけて血圧がどう変化するか を38℃、40℃、42℃の湯で調べた実験では、42℃のときに最も上昇が大きく、約20mmHg上がって いることがわかりました。お年寄りの場合は、動脈硬化などの影響でさらに上昇が大きく、 30mmHgほど上がります。そのため、血管に具胆がかかり、脳溢血などを起こしやすくなります。 また、熱い湯に入ると、汗をかいて血液中の水分が減り、濃縮されて血液粘度が高まります。 すると血流が悪くなり血管が詰まりやすくなって、脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなります。 湯の温度は、40℃を超えないぬるめにしましょう。湯に浸かる時間は長くても15分以内とし、 顔にうっすらと汗をかいたら湯から出るようにします。また、心臓がドキドキしてきたら、 すぐに湯から出てください。
■水圧で心臓に負担がかかる
体格にもよりますが、湯に入ると水圧で300~500kgの力が全身にかかります。 水圧で腹部が圧迫されると横隔膜が持ち上げられ、それによって肺が圧迫され、呼吸困難が 生じます。また、皮膚表面の静脈や肝臓などが圧迫されて、大量の血液が心臓に戻されると、 心臓が肥大した状態になり、心臓に負担がかかることになります。 このような水圧の影響で、心臓や呼吸器の病気による症状が悪化する可能性があります。 たっぷりの湯に肩まで浸かるのではなく、「半身浴」にして水圧の影響を避けることが 重要です。
■注意が必要な場合
この他、次のような場合にも注意が必要です。
- ▼飲酒後
- 飲酒直後は血管が広がり血圧が下がります。体内の水分も不足がちになるため、 飲酒直後に入浴すると、脳梗塞などを起こしやすくなります。 浴槽で眠って、溺れることもあります。
- ▼朝
- 朝は血圧を調整する自律神経系の働きが不安定で、入浴による血圧の変動がより 大きくなりやすいといえます。その上、朝は脳梗塞や心筋梗塞などが起こりやすい 時間帯です。
- ▼入浴後
- 入浴した後に、体調が悪くなることもあります。特にお年寄りは、入浴後は保温に 気を付け、30分ほど横になって休むのが理想です。
- ▼降圧薬を服用している場合
- 降圧薬を服用していると、薬の効果と入浴の影響が重なって、血圧が下がりすぎる ことがあります。入浴後に血圧を測定するなどして注意し、血圧が下がりすぎるときは 医師に相談するとよいでしょう。
なお、お年寄りは家族に一声かけてから入浴し、家族は入浴中のお年寄りに声をかけるなどして、 安全に気をつけましょう。
■安全な入浴法
- ▼水分補給
- 入浴の前後にコップ1杯の水を飲み、血液粘度の上昇を防ぐ。
- ▼脱衣所や浴室などを暖める
- 脱衣所を暖房する。浴室の壁に暖かいシャワーをかけてから、シャワーで湯を入れると 浴室が暖まる。入る前に浴槽のふたを開けておくのもよい。
- ▼体を湯に慣らす
- 湯に入る前に、浴槽の湯よりやや低い温度のシャワーを手足からかけ始め、 最後に上半身にかけ、体を徐々に湯に慣らす。浴槽の熱い湯でかけ湯をすると、 急に血圧が上がることがある。
- ▼浴槽への出入りはゆっくりと
- 転倒しないように、浴槽のへりにいったん腰掛け、ゆっくりと片足づつ湯に入る。 出るときも、同じように浴槽のヘリに腰掛けて出る。急に立ち上がって出ると、 水圧の影響がなくなることによって急に血圧が下がり、立ちくらみを起こすことも あるので、姿勢を低くし、ゆっくり出る。
- ▼半身浴
- みぞおちの辺りまで湯に浸かる。肩まで浸かる全身浴より半身浴のほうが、 水圧による心臓への負担が少ない。半身浴だと物足りなく感じる人は、 浴槽から出る前、10秒間ほど肩まで湯に浸かると、満足感を得られる。
- ▼ぬるめの湯
- 熱い湯に入ると血圧が上がるので、湯の温度は40℃を超えないぬるめにする。 お年寄りは熱さを感じにくくなっているので、風呂用の温度計を使って 確認するとよい。
- ▼長くても15分まで
- 湯に入っている時間は、長くても15分までとする。 風呂用の時計を使うと長湯を防ぐことができる。
- ▼ふたを目の前に置いておく
- 湯に浸かっている間、浴槽のふたを目の前に置いておくと、 万一意識を失ったときでも、ふたが体を支え、溺れるのを防ぐことができる。