特発性大腿骨頭壊死症

骨の一部が血流障害のために死んでしまう骨壊死。 骨壊死は、症状が現れるまでに時間がかかり、気付きにくいのが特徴です。 ここでは、大腿骨で起こる、特発性大腿骨頭壊死症について説明します。


骨壊死とは?

骨には血管が通っていて、その血管を流れる血液から酸素や栄養を受け取っています。 骨壊死とは、血液の流れが悪くなり、酸素や栄養が行き渡らなくなって、骨の一部が死んだ状態のことです。 原因としては、捻挫や脱臼などの外傷によって血流が遮断されたり、全身性エリテマトーデスなどの病気によって血管がダメージを受けたりすることなどが挙げられます。 ダイビングなどで潜水したときに血液中に生じた気泡が骨の血管内に詰まることがあり、これも壊死に繋がるとされています(潜函病)。 ただし、骨壊死の多くは、原因がはっきりとはわからないものです(特発性)。

◆特発性大腿骨頭壊死症

骨壊死が最も多く起こるのが、股関節を構成している大腿骨の先端にある大腿骨頭という部分です。 大腿骨頭以外では、膝の大腿骨や肩の上腕骨頭にも起こることがあります。 大腿骨に壊死が起こるのを、大腿骨頭壊死症といい、その多くを占めているのが特発性大腿骨頭壊死症です。 日本での発症数は、1年間に2000~3000人と推計されています。 全体としては、女性よりも男性にやや多い傾向にあり、男性では40歳代、女性では30歳代が発症のピークとされています。 その発症の理由や仕組みなどは、ほとんどわかっていません。 ただし、お酒の飲み過ぎやステロイドの使用に関連して起こることが多いとされており、広い意味での「特発性(原因不明)」とされています。


■特発性大腿骨頭壊死症の進行

壊死した骨頭が潰れた時に初めて痛みが現れる

特発性大腿骨頭壊死症の多くは、両脚の大腿骨頭に起こります。特発性大腿骨頭壊死症は、初期の段階では、自覚症状はほとんどありません。 骨壊死した範囲が徐々に広がると、体重がかかることで、骨頭の部分が潰れます(圧潰)。その段階で初めて痛みが現れるようになります。 痛みが現れ始めた時には、歩行や階段の上り下りの際に股関節に痛みや違和感を覚える程度ですが、痛みは徐々に強くなります。 さらに進行すると、大腿骨頭や股関節の変形が進み、足を引きずって歩くようになったり、やがて歩行困難に至る場合もあります。 大腿骨頭に壊死が起こってから痛みが現れるまでの期間は、骨壊死の範囲や日常生活での活動量などが関係しているため、個人差があります。 一般的には、数ヵ月から数年かかるとされています。 股関節に痛みが現れるという点では、高齢者に多い変形性股関節症と似ていますが、特発性大腿骨頭壊死症は、30~40歳代の比較的若い人に起こりやすいのが特徴です。 また、変形性股関節症は痛みが徐々に現れますが、特発性大腿骨頭壊死症では急に痛みを感じるようになります。


特発性大腿骨頭壊死症の進行


■特発性大腿骨頭壊死症の診断

エックス線やMRIなどの画像検査で診断される

特発性大腿骨頭壊死症は、エックス線、MRI(磁気共鳴画像)、骨シンチグラムなどの画像検査によって診断されます。 大腿骨頭の壊死した部分が潰れて変形している場合は、エックス線検査で診断できます。 骨壊死した部分が潰れていない早期の段階では、MRIや骨シンチグラムによる検査が有効です。 MRIで撮影すると、特発性大腿骨頭壊死症が起こっている場合は、大腿骨頭に黒いバンド状の像が写ります。 骨壊死だけに見られる特徴的な境界線像で、この黒いバンドよりも上の部位に、骨壊死が起こっています。


特発性大腿骨頭壊死症の画像検査


■特発性大腿骨頭壊死症の治療

まず保存療法を行い、進行した場合は手術を行う

治療には、保存療法手術があります。

●保存療法

日常生活の中で股関節にかかる負担を軽減するようにします。 例えば、歩くときには、松葉杖を使うと股関節への負担が軽くなります。 また、階段の上り下りをしたり、坂道を歩くと、股関節にかかる負担が増大するため、できるだけ階段を避けて、平坦な道を歩くようにします。 長距離を歩くことも禁物です。重いものは普段から持たないようにし、肥満がある場合は体重を減らします。 また、椅子やベッドを使用する様式の生活に切り替えると、股関節への負担が少なくなり、痛みの軽減に役立ちます。 お風呂で体を温めることも、血流がよくなるため痛みの軽減に有効です。 ただし、腫れていたり、熱っぽい感じがあるときは、症状が悪化する恐れがあるため、シャワー程度で済ませましょう。 股関節を柔らかくし、血液の循環を促すストレッチを医師の指導の下で行う場合もあります(下図参照)。 ストレッチは痛みが現れない範囲で行います。行っていて痛みが現れた場合は、中止してください。 また、痛みを軽減するために、鎮痛薬が使われることもあります。


関節を柔らかくするストレッチ


●手術

保存療法を一定の期間行っても骨壊死の進行を抑えられない場合や、すでに骨壊死がかなり進行している場合は、手術が検討されます。 特発性大腿骨頭壊死症の手術には、大きく分けて骨切り術人工関節置換術の2つの方法があります。

▼骨切り術
大腿骨頭の一部を切り、骨壊死した部分を、股関節の体重のかかりにくい位置に移す手術です。 骨壊死の範囲が比較的狭い場合に行われ、自分の股関節を残すことができます。 大腿骨頭回転骨切り術が多く行われます。 大腿骨頭回転骨切り術は、大腿骨頭を回転させて、壊死していない部分に体重がかかるようにします。 手術後は、基本的に翌日からリハビリを開始します。 開始時には股関節にはまだ体重をかけられませんが、筋力の低下を防いだり、関節を動かせる範囲を広げるために早期から行われます。 6週間程度の入院が必要で、手術後も痛みやむくみが半年から1年ほど残ることがあります

▼人工関節置換術
大腿骨頭の壊死の範囲が大きい場合などに行われます。人工関節置換術には、人工骨頭置換術人工股関節置換術があります。 人工骨頭置換術は、大腿骨頭の部分だけを人工骨頭に替える手術で、大腿骨頭がはまる骨盤側の軟骨が傷んでいなければ可能です。 骨盤側の軟骨が傷んでいる場合は、股関節全体を人工股関節に替える人工股関節置換術が行われます。 手術後は、骨切り術と同様に、翌日からリハビリを開始します。 人工骨頭や人工股関節にしても、体を動かすことに支障はなく、しゃがむことも可能です。 どちらの手術も、手術後3~4週間の入院が必要です。骨切り術より入院期間は短くて済みます。 人工関節は、手術後に問題が出てきた場合は、新しいものに交換する際手術が必要になります。 人工関節置換術の手術後は、脱臼と感染症に気を付けましょう。 「体育座り」「横座り」「高いステップをする」「足を組む」といった股関節を深く曲げる動作は、脱臼しやすくなるので避けてください。 足元の物を拾うなど、とっさに脱臼しやすい動作をしてしまうこともあるため、注意が必要です。 感染症対策では、まず、手術した部位に傷を作らないように気を付けることが大切です。 さらに、全身を清潔に保つように心がけ、虫歯や水虫の治療なども行ってください。

特発性大腿骨頭壊死症の手術