手と指が痛む・痺れる『手根管症候群』

手指の痺れには、さまざまな原因が考えられます。手指だけではなく、例えば体の片側全体にも痺れがある場合は、脳卒中の可能性があります。 直ちに医療機関を受診してください。首を左右に傾けた時に手指の痺れが強くなる場合は、首の骨が変形している可能性があります。 こうした特徴に当てはまらず、手指だけに痺れや痛みがある場合は、手や肘などに原因があることが考えられます。 その中でも患者さんが多いのが『手根管症候群』です。 手根管症候群には、手指、特に親指から薬指にかけて痺れが起こりますが、小指には起こらないという特徴があります。

手指の痺れを引き起こす「手根管症候群」はそのままにしておくと手指を動かしにくくなり、日常生活に支障が出てくる場合があります。 また、手の痺れを放っておくと、手術をしても回復にくくなる恐れがあります。 手根管症候群は、手に痺れを起こす代表的な病気で、保存療法で改善することもあるので、早めの受診が大切です。 ここでは、『手根管症候群』を早めに発見する方法や治療法を解説します。


■手根管症候群とは?

手首の神経が圧迫され、手に痺れを起こす病気

『手根管症候群』は、手の親指から薬指にかけて、痺れや痛みを感じる病気です。 少し前までは、専門医以外にはあまり知られていませんでしたが、最近は知られるようになってきており、すぐに診断される人が増えてきました。 手根管とは、手のひらの手首に近い部分にある、人体や骨に囲まれた空間です。 この手根管の中を、「正中神経」が通っています。正中神経は、親指、人差し指、中指、薬指の感覚や運動に関わり、これらの指の先まで伸びています。 手根管症候群では、何らかの原因で、この正中神経が圧迫されることにより痺れなどの症状が現れます。


●手根管症候群の主な症状

手指の痺れのほか、痛みや動かしづらさがある

手根管症候群には、次のような特徴的な症状があります。

  • ▼初期には人差し指と中指に痺れやさし指、あるいは中指と薬指から始まる人もいる。
  • ▼夜間や明け方に強い痛みや痺れで目を覚ます。
  • ▼手を振ると楽になる。

手根管症候群では、手指の痺れのほかに、手指の感覚が鈍くなる、手指が痛む、動かしづらいなどの症状も現れます。 そのため、小さいものを手指でつまみ上げたり、服のボタンをかけたりするなどの作業がしづらくなります。 明け方に、痺れが痛みが起こるのも典型的な症状です。また、夜間に、痺れや痛みがつらくて眠れないという人もいます。 朝は誰でも手が多少はむくみます。そのむくみによって、手根管症候群のある人は余計に正中神経が圧迫されるため、症状が強くなると考えられています。 明け方や夜間の痺れや痛みは、手を振ると改善することが多いです。これは、手を振ることにより、むくみが改善されてよくなるからと考えられています。 病気が進行すると、、圧迫され続けた神経が傷み、親指から薬指までの、3本の指に痺れが起こります。 さらに進行すると、痺れや痛みの感覚が弱まり、よくなったと錯覚する場合もあります。 しかし、放っておくと、筋肉まで達する神経が障害され、親指の付け根の膨らみ(母指球筋)が衰えて、細かいものが掴めなくなってしまうこともあります。 衰えて痩せた筋肉は手術をしても、元に戻らないことがあります。そうならないためにも早めに気づいて受診することが大切です。 手指の痺れが気になる人は、セルフチェックをしましょう。 手根管症候群は、女性に起こりやすく、特に更年期以降に多く見られます。 ホルモンバランスの乱れによるむくみが関係していると考えられます。 また、手首の骨折などのけがや 関節リウマチなどによって手首に変形がある人、 糖尿病のある人も注意が必要です。


●手根管症候群の原因

手のひらの付け根には、骨と靱帯に囲まれた手根管という”トンネル”があり、この中を複数の腱や正中神経などが通っています。 親指から薬指の半分までの感覚は正中神経が司り、薬指の半分と小指に関しては尺骨神経が司っています。 手根管内の腱の周りにある滑膜が腫れると、正中神経を圧迫してしまい、手根管症候群が起こります。 なぜ滑膜が腫れるのかは今のところ解明されていません。「手首を骨折した」「仕事やスポーツで手を使い過ぎた」などのはっきりした原因で発症するほか、 原因不明の場合も多く、これは特発性手根管症候群と呼ばれます。 正中神経は薬指の親指側半分までを司るため、痺れは親指から薬指の半分までに起き、薬指の小指側と小指には全く起きないのが手根管症候群の大きな特徴です。 初めは漠然と薬指全体が痺れるように感じることもありますが、病状が進んでくると、自分で薬指の親指側と小指側を触ったときに、 親指側の感覚が鈍いことがわかります。 手根管症候群の痺れは、指の手のひら側だけに起こります。もし指の甲側が痺れる場合には別の病気の可能性があり、 例えば、脳、脊髄、末梢神経などの病気が疑われる場合があります。比較的多いのが、首での神経の圧迫が原因で起こる頚椎症性神経根症です。


●手根管症候群が起こりやすい人

患者さんの多くは、妊娠・出産期や、更年期、閉経を迎えた女性です。女性ホルモンの乱れによる手のむくみが関係していると考えられています。 そのほか、手首の骨折などのけが、仕事やスポーツ、家事での手の使い過ぎなど、手根管を圧迫するような動作が多い場合にも起こりやすいことが知られています。 また、関節リウマチがあったり、透析療法を受けている人も発症しやすいとされています。

●手根管症候群の早期発見のために

自分でできるチェック法に、ファーレンテスト(手関節屈曲テスト)があります。 手根管症候群を起こしている場合、手首を曲げると、手根管の内圧が上がり、正中神経がさらに強く靱帯に押し付けられて圧迫されるため、痺れや痛みを強く感じます。 ただしファーレンテストで発見できないケースもあるので、このチェック法はあくまで目安です。 日常生活で手の痺れや痛みを感じたり、気になる症状がある場合には、医療機関を受診することが勧められます。

●手根管症候群の診断

医療機関では、まず問診やファーレンテストなどを行い、手根管症候群が疑われた場合には、手首のエックス線写真や神経電動速度検査などで 神経の状態や機能を調べます。また、腫瘍が原因で手根管症候群が起きている疑いがある場合は、MRI(磁気共鳴画像)検査や超音波検査などを行います。


■手根管症候群の治療

●治療①

薬物療法や装具によって症状を軽減する

重度と診断された場合以外は、まず薬物療法や装具による治療が行われます。 軽度の場合、痺れの原因の多くは正中神経の炎症です。 正中神経そのものは傷んでいないので、多くは炎症を抑える薬や装具を使うことで治まります。

▼薬物療法
薬物療法では、消炎鎮痛薬の飲み薬や神経を回復させる可能性があるビタミンB12の飲み薬が使われます。 これらで症状が改善されない場合、手根管の内部に、ステロイド薬を注射して炎症を抑えることもあります。

▼装具
装具は、手首をまっすぐに固定することで、痺れや痛みを軽減するものです。 痺れや痛みは明け方や夜間に強く出るので、寝ている間装着します。

●治療②

症状が改善しない場合や重度の場合は手術が行われる

手術で多く行われているのは、靱帯を切開する手術です。靱帯を切り離すことで、正中神経への圧迫を取り除くことができます。 靱帯を切開しても、後遺症が起こることはほとんどありません。また、靱帯はやがて修復しますが、手根骨症候群が発症することは稀です。 手術時間は30分程度です。手術後数か月間は手のひらに痛みを感じることがありますが、その期間を過ぎれば痛みは治まります ただし、手根骨症候群が発症してから長い時間を経過している、また親指の筋肉が痩せてからの期間が長い場合は、 手術をしても日常生活での支障が改善しにくい傾向があります。 手の痺れが起こったら、できるだけ早く受診することが大切です。 遅くとも、物がつまみにくくなったら、すぐに治療を受けてください。


■日常生活での注意点

手を使い過ぎないように心がける

日常生活では、手を酷使しないことが大切です。書き物やパソコンなど、何か作業をしていて、痺れが強く現れる場合は、 作業時間1時間につき少なくと10分は休憩するなど、手をいたわるようにしてください。