骨髄炎・化膿性脊椎炎

骨髄炎は、骨髄が細菌感染する病気で、痛みや発熱などを伴います。 なかでも最近は、背骨の骨髄に起こる化膿性脊椎炎が、社会の高齢化に伴って増加傾向にあります。


■骨髄炎とは?

骨髄が細菌に感染して炎症が起こる

骨の内部には、骨髄という柔らかい組織があります。骨髄には、赤血球や白血球、血小板を作る造血幹細胞があります。 その骨髄に細菌が感染し、炎症を起こす病気が骨髄炎です。

●感染経路

骨髄に細菌が感染する経路は、ほとんどが血液を介してです。 扁桃炎や中耳炎、尿路感染症など、体のほかの部位に感染巣があると、その細菌が血液に乗って骨髄に運ばれ、その細菌が骨髄に感染して、 骨髄炎が引き起こされるのです。 以前は、骨折などの外傷や手術などによって、細菌が直接骨髄に感染するケースがありましたが、最近はめったに見られなくなっています。 骨髄炎を引き起こす細菌の種類はさまざまです。原因として最も多いのが、黄色ブドウ球菌という身の回りにあるごくありふれた細菌です。


●子供に多い骨髄炎

骨髄炎は10歳前後の子供に多く、大腿骨や脛骨、上腕骨などに起こります。 子供の場合、自分で症状を訴えることが難しいため、骨髄炎が悪化してしまうことがあります。 また、骨髄炎が慢性化すると、骨の成長に影響を及ぼすことがあるため、注意が必要です。 例えば風邪や怪我の後に「いつも不機嫌そうにしている」「胸や太もも、脛が赤く腫れている、熱を持っている」などの症状がないかを気を付けましょう。 小さな子供の場合は、「泣く」ことが、重要なサインとなることがあるので、親や家族が気付いてあげることが大切です。 症状が比較的軽い場合は抗菌薬で治療し、抗菌薬が効かない場合は、手術を検討します。 ただし、近年、子供の骨髄炎は減少しています。その一方で、増えているのが「化膿性脊椎炎」です。 化膿性脊椎炎は、骨髄炎の一種で、細菌が背骨の骨髄に感染して炎症が起こる病気です。 高齢者に多く、発症数は近年増加してきています。


化膿性脊椎炎


■化膿性脊椎炎の症状

背中や腰の強い痛みや発熱などがある

骨髄炎では、細菌が感染した部位に痛みや熱感、腫れが現れます。 化膿性脊椎炎の場合は炎症によって背骨の椎体などが破壊されるため、多くは背中や腰にかなり痛い痛みが起こります。 また、発熱することもあります。背骨に起こるほかの病気の多くは、背中や腰などは痛みますが、発熱することはあまりありません。 背中や腰の痛みに加えて、38℃程度の発熱を伴う場合は、化膿性脊椎炎を起こしていることが考えられます。 化膿性脊椎炎は、放置していると進行していきます。進行すると、背骨の周りに膿が溜まり、神経を圧迫して、足に麻痺が起こることがあります。 背中や腰の強い痛みに38℃程度の発熱を伴う場合は、早目に医療機関を受診してください。


●化膿性脊椎炎が起こりやすい人

化膿性脊椎炎は、免疫の働きが低下すると起こりやすくなります。 例えば、糖尿のある人慢性腎臓病が進んで透析療法を受けている人は、 免疫の働きが低下しているため、化膿性脊椎炎を発症するリスクが高くなります。 薬が、免疫の働きに影響を及ぼすこともあります。代表的な薬が免疫抑制薬です。 免疫反応を抑え込むため、免疫の働きが低下して細菌感染を起こしやすくなります。 抗癌剤による治療を長く続けていたり、 ステロイドを使っている場合にも、免疫の働きが低下することがあります。 ただし、これらの薬の使用が必ずしも化膿性脊椎炎の発症に繋がるわけではありません。自己判断で使用を中止するのはやめましょう。 糖尿病や慢性腎臓病に限らず、重い持病のある人も、体力が落ちて免疫の働きが低下している可能性があります。 免疫の働きは、一般に加齢とともに低下していくため、重い持病がある高齢者は特に注意が必要です。 社会の高齢化が進み、糖尿病や慢性腎臓病のある人が増えていることからも、化膿性脊椎炎は今後ますます増加する可能性が考えられます。


■化膿性脊椎炎の検査

エックス線やMRIなどの画像検査で診断する

化膿性脊椎炎は、血液検査、エックス線やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査で診断できます。 画像検査では、椎体が破壊されている程度や、椎間板と神経の状態などもわかります。 また、脊椎に起こる腫瘍との鑑別も重要になります。 化膿性脊椎炎による敗血症が疑われる場合は、血液培養検査を行い、血液中に細菌がいるかどうかを調べます。 また、患部の組織を採り、細菌の種類を特定する検査も行われます。


■化膿性脊椎炎の治療

基本は薬物療法。麻痺などがあれば手術が行われる

治療の中心は、薬物療法で、必要に応じて手術も行われます。

●薬物療法

殺菌作用や、細菌の増殖を抑える作用の抗菌薬による治療が行われます。 治療開始前の検査で、化膿性脊椎炎の原因となっている細菌の種類を特定できている場合は、その細菌に対して効果のある抗菌薬が選択されます。 様々な種類の細菌に効く抗菌薬が使われます。 抗菌薬の効果を確認するために、血液検査が行われ、赤血球沈降速度(赤沈)やC反応性たんぱく(CRP)、白血球などを調べます。 薬物療法は安静もかねて入院して行われます。最初に行われるのが、抗菌薬の点滴です。 有効な抗菌薬を1週間ほど点滴すると、熱が下がってきて痛みも和らぎ、楽になってきます。 点滴を1~3週間ほど続けて、症状がある程度コントロールできた段階で、飲み薬に切り替え、CRPが陰性化し、炎症が治まるまで飲み続けます。 化膿性脊椎炎を完全に鎮静化するためには、1~2ヵ月間の入院が必要です。 時に、退院後しばらく経ってから再発することがあります。体調の変化に気を付け、疑わしい場合は早目に医療機関を受診しましょう。


●手術

抗菌薬による治療を行っても症状を抑えられない場合や、すでに膿が溜まり麻痺がある場合には、手術が行われます。 手術では、脊椎の化膿している骨の組織や破壊された組織などをすべて取り除きます。 膿が溜まっている場合は、膿も掻き出し、患部をきれいにして、細菌を除去します。 感染した範囲が広く、神経への圧迫があったり、抗菌薬を使っても炎症が治まらない、背骨がぐらついて不安定になる場合などは、 スクリューなどを入れて固定する手術が行われます。

骨髄炎の治療は手術も含め比較的長期間にわたって行われますが、根気よく治療を続け、原因となった細菌を完全に取り除くことが大切です。


化膿性脊椎炎の治療