ドケルバン病
親指を動かしたときに、親指の付け根や手首がピリッと痛む場合は、『ドケルバン病』かもしれません。 親指を酷使することで起こりやすく、そのままにしておくと日常生活に大きな支障を来します。 スマートフォンをよく使う人は要注意です。早めに受診してください。
■ドケルバン病の特徴
親指の使い過ぎで手首の親指側に痛みが現れる
親指を動かしたときなどに、手首が傷む場合は、ドケルバン病の可能性があります。 ドケルバン病は、親指を使い過ぎることによって、手首が痛くなる病気で、痛みは、手首の親指側の骨が出っ張っている辺りに現れます。 腱鞘炎の一種で、親指を長時間使うことで、親指を動かす腱と、 その腱を包んでいる腱鞘がこすれて、炎症が起こります(下図参照)。 最近(2020年/4月)は、「スマートフォン・サム(親指)」なども話題になっており、 スマートフォンを片手で持ち、親指だけで操作する動作もドケルバン病の原因になると推測されています。 海外の複数の研究では、ドケルバン病を含めた腱鞘炎を患う人は、25~64歳で1%前後と報告されていますが、手をよく使う人では、さらに多いと推測されています。 これを日本人の人口に当てはめると、100万~200万人いることになります。 ドケルバン病は、その中でも一定数を占めると考えられており、多くの人が悩んでいると推測されています。 しかし、実際に受診して治療を受ける人は少なく、痛みを我慢している人が多いと考えられています。 初めは軽い痛みなので、少し手を休めていれば自然に治っていくこともあります。 しかし、痛みを我慢しながら親指を使い続けていると炎症が悪化して痛みが強くなっていき、親指を動かすのが難しくなります。 すると、手を休めてもなかなか痛みが引かなくなり、日常生活に支障を来してしまうので、整形外科を受診して適切な治療を受けることが大切です。
<<スマートフォン・サム>>
スマートフォンの使い過ぎで手首に痛みがあることを「スマートフォン・サム(親指)」といい、正式にはドケルバン病といいます。 スマートフォンの操作による影響について、詳しいことはまだよくわかっていませんが、 スマートフォンを片方の手の親指だけで操作することは、確実に腱鞘への負担となるため、注意が必要です。
■ドケルバン病が起こる仕組み
手首にある腱と腱鞘がこすれて炎症が起こる
手首の親指側にはひも状の「腱」が2本あります。これが腕の筋肉と連動することで、親指を伸ばしたり、広げたりすることができます。 腱が通っているトンネル状の「腱鞘」もあります。 腱鞘炎は、手指や手首を繰り返し使うことにより、腱と腱鞘がこすれて、炎症が起こった状態のことです。 痛みや腫れ、熱っぽさなどが現れます。この炎症が手首の親指側に起こるのが、ドケルバン病です。
●痛みが現れる特徴的な動作
ドケルバン病の痛みは、手の痛みの中でも強いといわれています。 初めは軽い痛みでも、親指を使わずに生活することは難しいため炎症は治まらず、次第に痛みが強くなっていきます。 腱鞘付近を押すだけで痛みがある場合は、ドケルバン病の疑いがあります。 また、ドケルバン病かどうかを調べるには、「アイヒホフ・テスト」というチェック法があります。 診断にも使われている方法で、親指を中に入れ手を握り、そのまま手を小指の方に倒します。 痛みのためにこの動作ができない場合は、ドケルバン病の可能性があります。
■年齢に関わらず、女性は要注意
出産前後、更年期の女性、糖尿病のある人は要注意
ドケルバン病が起こりやすいのは、親指をよく使う人です。手首を酷使すると余計に腱に負担がかかります。 スマートフォンをよく使う人のほか、パソコンの操作、ギターやピアノなどの楽器演奏、 ゴルフや、テニスなどのラケットを使うスポーツをする人も、起こりやすい傾向があります。 またそれ以外にも、次のような人は注意が必要です。
- ▼更年期の女性
- 更年期の女性では、親指や手首を酷使していなくても起こることがあります。 原因ははっきりとはわかっていませんが、女性ホルモンのバランスが乱れることで、手がむくみやすくなることが、炎症と関係すると考えられています。
- ▼出産前後の女性
- 意外に多いのが、出産前後の女性です。 出産前後にむくみやすくなるのが原因です。また、出産後の数ヵ月間は、首の座っていない赤ちゃんを抱くときに頭を支える必要があり、 その時の親指を大きく広げるなどの手の形が、腱鞘に負担をかけるために、ドケルバン病が起こりやすくなると考えられています。
- ▼腱の通り道が構造上狭い人
- 腱鞘を通る2種類の腱の間に「隔壁」がある人は、腱の通り道が狭く、腱が圧迫されやすいため、ドケルバン病を発症しやすい傾向があります。 この隔壁は、約6割の人にあると報告されています。
- ▼糖尿病のある人
- 糖尿病がある人も、手足の血流が悪くなっているためにむくみやすくなります。
更年期の女性や糖尿病がある人は、ドケルバン病だけでなく、他の腱鞘炎や手の痛みも起こりやすいので、手の使い過ぎには注意しましょう。 そのほか、40%くらいの人が、2本の腱の間に壁があり腱の通り道が狭くなっているために、腱が圧迫されやすく、ドケルバン病を発症しやすい傾向があります。 ドケルバン病が起こりやすいと考えられる人や、痛みが気になる人は、自分でチェックしてみましょう(下図参照)。 このチェック方法は、実際の診断にも使われている方法です。
■ドケルバン病の治療
安静と薬物療法が基本。改善しなければ手術も検討。
●治療①薬物療法
薬物療法で炎症を鎮め、痛みを抑える
治療の基本は、手首と親指の安静、薬物療法です。 軽度の場合は、消炎鎮痛薬の湿布薬や塗り薬を使います。炎症を鎮めることで、痛みを抑えることができます。 消炎鎮痛薬で症状が改善しないなどの重度の場合は、患部の腱鞘内に炎症を抑えるためのステロイド薬を腱鞘の中に注射します。 重度のドケルバン病の場合でも、注射の効果は高く、1回の注射で注射で約8割の人に効果が現れ、 半年から1年程度、症状が抑えられる場合も多く、結果的にそのまま治まる人もいます。 ただし、注射には注意が必要です。ステロイド薬の副作用としては、注射した部分が痩せたり、皮膚の色が白く抜けることがあります。 また、炎症を抑える効果の高い薬を短期間に繰り返し注射したり、一度に使用するステロイドの量を多く注射したりすると、 腱が弱くなって切れてしまう危険性があります。 また、注射によって感染症が起こる恐れもあります。特に、糖尿病のある人は感染症の危険性が高くなるので、医師に相談しましょう。
●治療②手術
薬物療法の効果や希望によっては手術を検討する
手術を検討するのは、消炎鎮痛薬やステロイド薬などの薬物療法では改善しない場合や、いったん治ったものの症状が再発して繰り返す場合、 糖尿病があり注射による感染症が心配される場合などです。そのほか、患者さんが注射よりも手術を希望する場合などにも検討されます。 手術では、手首の皮膚を2~3cmほど切開し、腱への圧迫を取り除きます。合併症として、腱が脱臼する(本来の位置からずれる)ことがあります。 そのため、手術後もしばらくは親指を大きく動かさないなどの注意が必要です。 しばらくすると腱鞘は新しい組織で覆われるため、脱臼は起こらなくなります。 手術をすると、腱が圧迫から解放され、痛みなどの症状がなくなります。 腱鞘を切り開いても、手全体の動きには影響しません。手術時間は5~30分程度です。 手術で切開した腱鞘は、しばらくすると再生しますが、再発することはほとんどありません。
■親指の使い方に気を付けて発症や再発を防ぐ
ドケルバン病の発症や再発を防ぐためには、日頃から親指や手首に負担をかけない生活を心がけるようにしましょう。 具体的には、パソコンのキーボード操作などでは手首をまっすぐに保ち、親指を大きく開く動作をしないように注意しましょう。 また、少なくとも1時間につき10分程度は親指や手首を休ませるなど、休憩することを習慣づけるようにしましょう。 手首を反らした状態で操作していると、腱鞘に負担がかかるため、手首の下に小さめのクッションを置いてもよいでしょう。 そのほか、スマートフォンを操作するときは両手を使うようにします。 時々、親指や手首を休ませるなど、休憩をとることも大切です。 「痛みが強い」「長引く」「繰り返す」といった症状が繰り返し起こる場合は、整形外科(手外科)を受診してください。