骨粗鬆症治療の薬①
『骨の破壊を抑える薬』
骨の破壊を抑える薬には、ビスフォスフォネート製剤、塩酸ラロキシフェン(SERM=選択的エストロゲン受容体調節薬)、 カルシトニン製剤、エストロゲン製剤(女性ホルモン製剤)などがあります。
■骨の破壊を抑える薬
骨の破壊を抑える作用の薬には以下のようなものがあります。
●ビスフォスフォネート製剤【総合評価「A」】
最も確実に骨を強くする効果があるとして、骨粗鬆症の薬物療法の中心になってきた薬です。
骨折を抑制する作用があり、骨密度が低い人に用いられることが多い薬です。
この薬は、体内に入ると骨に吸着されて、破骨細胞に取り込まれ、その働きを抑えることで骨吸収を抑制します。
骨密度を上昇させ、骨折も、背骨で4~5割、大腿骨の付け根などの手足の骨で2~3割減らせることがわかっています。
ビスフォスフォネート製剤には、毎日服用する薬のほか、最近は週1回、月1回服用する薬や、注射薬も出てきました。
この場合、同じ種類の薬なら1日1回飲むものも週1回、月1回飲むものも、効果は同等とされています。
注射薬も、基本的に効果は同等ですが、内服薬の作用が腸での吸収効率に影響されるのに比べ、確実性が高いといえます。
月1回医療機関で注射を受けるだけ、という利便性もメリットといえるでしょう。
「ビスフォスフォネート」製剤のうち、特に「アレンドロネート」「リセドロネート」の2種類に、骨量増加と骨折防止の高い効果が認められています。
骨粗鬆症による腰の痛みを軽減する効果があるという報告もあります。
1日1回、朝食前の空腹時に服用します。総合評価は「A」です。
【副作用】
副作用では、頻度が高いのは内服薬の場合の消化管障害です。
空腹時に使用するため、消化管の粘膜を刺激しやすく、胸焼け、胃もたれ、むかつきなどを訴える人もいますが、
これらの副作用は、コップ1杯程度の水と一緒に服用し、服用後30府は横にならないようにすると防ぐことができます。
また、食道炎、食道・胃の消化性潰瘍などが起こることもあるので、消化性潰瘍のある人は、この薬の使用は避けます。
他に極めてまれながら、ビスフォスフォネート薬を服用している人が抜歯などの歯の治療を受けると顎骨壊死を起こす場合があります。
明確な原因はわかっていませんが、「骨髄炎」が悪化するのではないかと考えられています。
歯の治療を受ける場合は、骨粗鬆症の担当医に伝えるとともに、歯科医にビスフォスネート薬を服用していることを伝えましょう。
場合によっては、服用を中断することもあります。
また、大腿骨の中ほどが折れるという、骨粗鬆症で起こる骨折としては特殊なタイプの骨折が起きた例があります。
【服用上の注意】
ビスフォスフォネート製剤は、消化管からの吸収が悪く、食物により吸収が阻害されるので、 空腹時の服用が決まりになっています。特にカルシウムやマグネシウムなどとくっつきやすい性質があり、 これらとくっつくと吸収率が低下するので、一緒になるのを避ける必要があるからです。 カルシウム製剤を併用する場合は時間をずらして飲みます。 牛乳はもちろん、ジュースやコーヒー、お茶で飲むのも吸収を悪くするといわれいるので、必ず水や白湯で飲んでください。
●塩酸ラロキシフェン(SERM=選択的エストロゲン受容体調節薬)【総合評価「A」】
エストロゲン製剤には、骨量を増やす効果は高いものの、長期に使うと副作用で乳がんの発生率を上げてしまうという問題があり、 それを解決した新しい薬が、「SERM(選択的エストロゲン受容体調節薬)」です。 SERMは、乳がんの発症はむしろ減らす効果があり、付加的なメリットも期待できることから、乳がんの既往がある人に勧められることもあります。 そのため、現在、骨粗鬆症治療には、エストロゲン製剤に代わってSERMが用いられるようになっています。 女性ホルモンのエストロゲンには骨吸収を抑制する働きがあり、女性の閉経期にはその激減が骨粗鬆症の大きな原因となります。 SERMは、骨に対してはエストロゲン製剤と同様に働いて骨吸収を抑え、骨量増加効果と骨折防止効果が認められています。
SERMは、閉経から年の浅い、比較的若い年代の患者さんに適しています。 閉経後の女性はコレステロール値が高くなりがちですが、この薬はコレステロール代謝にもよい影響を与えます。 ただし、エストロゲン製剤のように、更年期障害の改善を期待することはできません。 一方、副作用で稀に静脈血栓塞栓症が起こる恐れがあるため、この病気がある人や以前にかかったことのある人は使えません。 総合評価は「A」。
【服用上の注意】
エストロゲンが十分に分泌されなくなった閉経後の女性に適する薬で、月経のある女性や、男性には使われません。 血液を固まりやすくする作用があり、日本ではあまり見られませんが、 欧米では「深部静脈血栓症」のリスクがあるとも言われています。
●カルシトニン製剤【総合評価「B」】
「カルシトニン」は、甲状腺から分泌されるホルモンの一種です。
「カルシトニン製剤」は、それを人工的に合成したもので、注射薬が古くから使われています。
骨吸収を抑制して背骨の骨折などを予防する効果も少しありますが、痛みを軽減する効果が高いことから、
現在は、骨粗鬆症で腰や背中が痛む人などに対して使われています。
骨の破壊を抑制する作用がありますが、骨量増加の効果は、ビスフォスフォネート製剤や塩酸ラロキシフェンほど高くありません。
カルシトニン製剤は注射薬しかないので週に1~2回通院し、筋肉注射を受けます。
総合評価は「B」。
【副作用】
重い副作用はまずないのですが、アレルギー反応のような副作用が現れることがあります。 主な症状は「顔がほてる・赤くなる・悪心・動悸」などです。 また、長期に渡って使うと、薬の効きが悪くなることがあります。
●エストロゲン製剤(女性ホルモン製剤)【総合評価「C」】
更年期障害の治療(ホルモン補充療法)に使われるものと同様の薬です。
女性ホルモンの「エストロゲン」は、骨代謝のコントロールにも関わっています。
エストロゲンの分泌が激減する閉経後は、骨代謝に影響が出て、骨の破壊が進みます。
そのため、閉経後に著しく骨量が減少した女性を中心に、薬でエストロゲンを補う治療が行われることがあります。
それが「ホルモン補充療法」です。
主に婦人科で行われ、内服薬のほか、皮膚にはって用いるパッチ薬もあります。
閉経後に著しく骨量が減少した場合や、更年期障害の諸症状の改善を主目的に、骨粗鬆症への効果も得たい場合に
使われます。海外では骨量増加や骨折防止効果が確かめられていますが、現在日本で健康保険が適用されている
女性ホルモン製剤については、まだ十分なデータはありません。
総合評価は「C」。
【副作用】
顔のほてり、性器出血、おりもの、乳房痛のほか、静脈に血栓ができやすくなるなどの 副作用が起こることがあります。また、乳がんや子宮がんの発生率が高くなることが知られています。 「プロゲステロン(黄体ホルモン)製剤」を併用すれば、 子宮がんの発生率は抑えられるため、現在では、子宮を摘出した人を除き、 併用が一般的になっています。ただし、乳がんの発生率を抑える効果はありません。 そのため、ホルモン補充療法を行う人は、婦人科での定期健診が必要です。 また、エストロゲン製剤は、血液を固まりやすくする作用があるため、血栓静脈炎、 肺塞栓の既往のある人は使えません。