帯状疱疹

帯状疱疹は、体の片側に帯状の発疹が現れることからついた病名です。 原因は、過去に感染した水疱瘡(水痘)のウィルス(水痘・帯状疱疹ウィルス)です。 高齢者の多くが、まだ予防接種がなかった子供時代に水疱瘡を経験しています。 その際に水疱瘡が治っても、ウィルスのすべてが死滅したわけではなく、生き残った一部のウィルスは、感覚神経の根元の神経節に潜伏し続けています。 このウィルスが何らかの要因で再活性化すると、神経を攻撃しながら、神経に沿って皮膚に到達し、帯状疱疹を引き起こします。 つまり、水疱瘡と帯状疱疹のウィルスは同じもので、水疱瘡にかかったことがある人なら、誰でも帯状疱疹を発症する可能性があるといえます。


■再活性化するとき

潜伏していたウィルスが再活性化するのは、体の免疫の働きが低下したときです。 その要因として、過労やストレス、加齢などのほか、 白血病などの血液の癌やさまざまな臓器の糖尿病慢性腎臓病などの病気、 ステロイド薬や抗癌剤などの薬の使用、手術や放射線治療などが挙げられます。
発疹が出る前に、ピリピリした痛みや違和感を体の内部に感じることがあります(前駆痛)。 痛みが徐々に強くなり、数日から1週間ほどして、痛みを感じた部位の皮膚に赤い発疹が帯状に現れます。 治療を続けないと、発疹は、水泡(水膨れ)になって大きくなり、膿が溜まったり潰瘍になることもあります。 帯状疱疹の典型的な症状の一つに激しい痛みがありますが、これは神経と皮膚の両方に炎症が起こるために生じます。 皮膚の症状は、かさぶたができて剥がれ落ち、3週間ほどで治りますが、高齢者では治まるまでに時間がかかったり、 痛みが治まらず後遺症(帯状疱疹後神経痛)が残りやすくなったりすることがあります。 発疹に気付いた時点で、抗ウィルス薬の服用など適切な治療を始めれば、およそ10日間ほどで症状が治まります。 合併症や後遺症を起こりにくくするためにも、早めに治療を開始することが大切です。


■帯状疱疹の治療

●抗ウィルス薬と鎮痛薬を同時に使う

帯状疱疹と診断されたら、ウィルスの炎症を抑える作用のある抗ウィルス薬の服用をすぐに開始します。 以前から使われている飲み薬に、アシクロビル、パラシクロビル、ファムシクロビルがあります。 2017年から使われるようになったアメナメビルは、それまでのアシクロビルなどの薬とは違った作用でウィルスの増殖を抑える薬です。 それまでの薬は腎臓から尿中に排泄されるため、加齢や病気で腎機能が低下している場合には量を減らす必要がありましたが、 アメナメビルは主に便中に排泄されるので、腎機能が低下していても量を減らす必要がないというメリットがあります。 抗ウィルス薬による治療と同時に、痛みに対する治療も行います。 鎮痛薬としては、胃腸や腎臓への影響が少ないアセトアミノフェンを使います。 非ステロイド鎮痛薬も市販され、よく使われていますが、血流量を減少させるために消化管潰瘍、腎障害や 脳梗塞心筋梗塞を誘発しやすくなるため注意が必要になります。 なお、持病があったり、体力が衰えたりして免疫の働きが著しく低下していると、帯状疱疹が重症化することがあります。 症状が全身に広がったり、痛みが非常に強かったりする場合は、入院して抗ウィルス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴を行います。


●症状に合わせて使われるさまざまな薬

抗ウィルス薬と鎮痛薬を使っても痛みが取れない時は、非ステロイド鎮痛薬、ステロイド薬、オピオイド(麻薬性の鎮痛薬)、抗鬱薬、 神経障害性疼痛緩和薬(ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液など)、局所麻酔の塗り薬など、 症状に合わせて様々な薬が使われます。


■帯状疱疹後神経痛とは?

帯状疱疹の経過では、通常、発疹が治れば痛みも和らぎますが、発疹が治まっても痛みが治まらない場合があります。 発症から3ヵ月たっても痛みが治まらないものを、「帯状疱疹後神経痛」と呼びます。 痛みの程度や種類は人によって異なりますが、うずくような痛み、違和感や痺れなどを感じる人が多いようです。 痛みは長引くことも多く、数年間続くこともあります。 時には手や衣服が触れたり、風邪が当たるなど、ほんの少しの刺激で痛みを感じることもあります。 これは「アロディニア」と呼ばれ、損傷した神経が修復時に伸びすぎ、過敏な状態になって起こるものです。
帯状疱疹後神経痛が起こりやすいのは、高齢者や癌の患者さん、糖尿病などの持病がある人などです。 また、発疹が出ているときに痛みが強かったり、皮膚症状が重症になった場合にも、帯状疱疹後神経痛に移行しやすい傾向があります。 痛みがなかなか取れない場合は、帯状疱疹の治療を受けた皮膚科やペインクリニックを受診してください。 今度は、痛みを和らげるための治療が行われます。下図のような治療法があり、選択肢の中から自分に合った治療法を見つけることが大切です。 なお、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を防ぐため、2016年3月より50歳以上の人はワクチン接種を受けられるようになりました。


帯状疱疹の治療