『自閉スペクトラム症(ASD)』
『自閉スペクトラム症(ASD』は、その特性(症状)を理解し、適切な治療を受け、 支援を活用することが大切です。
■『大人の「自閉スペクトラム症(ASD)」』の特徴
発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)では、コミュニケーションや対人関係に困難が生じたり、 強いこだわりを持ったりする特性が現れます。ASDには、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」などが含まれます。 自閉症は、知的障害を伴うことが多く、人とのコミュニケーションに支障を来し、言葉の遅れや特定の対象への強いこだわりがみられます。 高機能自閉症は、知的障害はなく、自閉症と似た特性が現れます。アスペルガー症候群は、言葉の遅れや知的障害はなく、人とのコミュニケーションに障害を来します。 注意欠如・多動症(ADHD)と同様に、ASDでは、子供のころから特性が現れます。 しかし、学校などで著しい不適応が生じない場合や、知的能力が平均より高い場合などは、見過ごされることがあります。 そのため、社会人になって、ASDの特性により、職場などでの社会生活や人間関係に支障を来し、生きづらさを感じるようになることがあるのです。 そうしたことが原因で、大人になってからASDと診断されるケースが増えています。
●ASDのある人の特性
- ▼コミュニケーションや対人関係での困難
- 相手の表情や気持ちを読み取って、相手の立場に立って考えたり、その場の雰囲気を察したりすることが苦手です。 そのため、相手との距離感が掴めず、不用意な発言などをして、相手に不快な思いをさせることがあります。 また、人の言ったことを文字通りに受け取ってしまったり、想像力が乏しかったりするために、社交辞令や冗談が通じないことがあります。 その他、日常生活や仕事上でよく使われる「適当に」「もう少し」「多めに」などの幅のある表現や、あいまいな指示にうまく対応できない場合があります。
- ▼強いこだわり
- 興味の対象が限定的で、仕事を忘れてゲームにのめりこむなど、好きなことに没頭してしまうことがあります。 また、特定の行動などへの強いこだわりから、いつもと違う状況に対応できない場合があります。
ASDのある人は、これらの特性によって周囲から「配慮がない」「空気が読めない」などと思われることが多くあります。 その結果として、職場などで孤立してしまい、それが原因で二次的な症状を伴うことがあります。 その他にも、ASDのある人は、聴覚や視覚などに感覚過敏が現れることがあります。
ASDのある人は、ADHDを併せ持つケースが多く見られます。 ADHDとASDの特性には、感情のコントロールが苦手なことや衝動的であることなど、似ているところが少なくありません。 アメリカの研究では、ASDのある成人の約59%がADHDの診断基準を満たしていたという報告もあります。 ADHDとASDの見極めが難しいケースもあり、それぞれの特性によって生じする支障に適切に対応するためには、慎重な判断が重要です。
■大人のASDの治療
ASDに対して有効な薬は、現在のところありません。大人のASDの治療では、本人の思考や行動パターンを変えていくなど、心理社会的治療が中心になります。 特に、仕事など社会生活に適応するための能力を身に付けることが重要です。 ASDのある人の中で、就職を目指していたり、すでに働いていたりする人を対象に、それぞれの目標に合った「グループ・プログラム」(下図参照)などが 一部の医療機関で行われています。こうした活動を通して、ASDのある人が自分の特性を深く理解すると、 強いこだわりや興味のあることに打ち込むという面が強みになる場合もあります。 このことが、社会で活躍できる場を見つけることになります。
- ▼ASDのある人に向いている職種
- しっかりしたルールやマニュアルに沿って仕事を進めていく経理や法務などの職種や、数学的・論理的思考が求められるプログラマーなどは、 ASDのある人の特性に合う可能性が高いと考えられます。 自分の得意なことと、苦手なことを見極めたうえで、就きたい職種を具体的に検討してみるとよいでしょう。
- ▼周囲のサポート
- 周囲の人は、ASDのある人の特性をよく理解し、その特性に応じた配慮をすることが大切です。 ASDのある人は、あいまいな表現を理解することが苦手なため、指示を出すときは「あと30分以内に終わらせてください」「15部コピーしてください」など、 具体的な数字を示しましょう。また、一度に複数の作業を頼まず、1つずつ、順番に頼むようにするとよいでしょう。 さらに、感覚過敏がある場合には、音や光の刺激を避けるなど、職場の環境に配慮する必要があります。 日本の社会では、みな同じように行動することが求められがちですが、周囲の人がASDのある人の特性を認め、配慮していくことが大切です。