ひきこもり

■「6ヶ月以上、外出しない状態が続いている」ことが目安

学校や仕事に行けず、家に閉じこもってしまう「ひきこもり」。現在(2020年)、引きこもりの状態にある人は全国で約115万人にも上ると考えられています。 厚生労働省は、引きこもりの定義を「就学、就労、交遊などの社会的参加を回避し、原則的には6ヶ月以上にわたって、おおむね家庭にとどまり続けている状態」 としています。九州大学病院を始めとする研究グループでは、対策をより早く開始するために、前述の状態が3ヶ月以上続くものを引きこもりの ”前段階”と考えています。また、どの程度深刻な状態であるかを知るための基準となるように、ひきこもりを3つの段階に分けることを提案しています。

引きこもりの3つの段階と病的引きこもり

●生活の支障と”つらさ”を抱えている

引きこもりによって、不眠や食欲不振、日常生活における支障があり、さらに本人や周りの人が苦悩を抱えている場合を、特に「病的引きこもり」と捉えます。 引きこもっている人たちが抱える苦悩としては、「社会に居場所がなくてつらい」「自分はダメな人間だと感じる」 「外に出たいこともあるが、人の目が気になって出られない」「怠けていると思われるのが嫌だ」などがあります。 一方で、「することがないから家にいるだけ」「苦しい現実から逃れられたのでつらくない」など、 本人がつらさを感じていないというケースもあります。 しかし、引きこもりの状態が長く続くと、辛さや寂しさを感じて苦しむ人も多いので、注意して見守る必要があります。


■対人関係や心の病気などが関連している

引きこもりのきっかけには、さまざまな要因や背景があると考えられます。 一つは対人関係です。一般に学校や職場の対人関係での挫折や不信感が、引きこもりに繋がりやすいといわれています。 引きこもりの人の中には、中学校や高校で不登校を経験している人が少なくありません。 また、退職あるいは解雇の経験などをきっかけに引きこもることもあります。 家族との関係については、なかなか一概にいうことはできません。 ただ、「幼少期から母親との結びつきが強い一方で、父親の存在感が薄い」「長男で周りからの期待が非常に大きくて、その期待に十分に応えられなかったと感じている」 という傾向が多くみられ、自立していく時期の家族関係の影響が考えられます。
また、日本社会でよく見られる「〇〇でないと恥ずかしい」のような「恥」という意識の影響も考えられます。 その背景には、「みんなと合わせなくてはならない」という社会からの圧力があります(同調圧力)。 圧力に逆らえない一方で、合わせる場合も難しい場合に、引きこもりに繋がってしまうのかもしれません。 一方で、心の病気や不調が引きこもりのきっかけになることがあります。 引きこもり自体は病気ではありませんが、さまざまな心の病気や不調が関係していることもあるのです。

うつ病
意欲が低下して、以前は楽しめたことが楽しめなくなります。また、「自分はダメだ」「申し訳ない」という過剰な罪悪感をもちやすく、 外に出たいと思わなくなります。「眠れない」「眠り過ぎる」などの症状があると、昼夜が逆転して通学や通勤が難しくなります。

社交不安障害
「嫌われているのではないか」「恥ずかしい思いをするのではないか」などの不安に襲われます。 それが原因で、引きこもりになることがあります。

発達障害
子供のころからコミュニケーションが苦手だったり、落ち着きがないという傾向があります。 そのため、学校で孤立したり、いじめにあったりして不登校になったり、成人後も対人関係が苦手で、引きこもることがあります。

統合失調症
妄想や幻視・幻聴、意欲の低下などの症状があるため、引きこもりと似た状態になりやすいといえます。

このように、きっかけや背景はさまざまですが、引きこもっていると、自分を肯定できず、生きづらさを強く感じるものです。 前述した心の病気や不調の有無にかかわらず、多くのケースで心理的・社会的な支援が必要となります。


■まずは、ひきこもり地域支援センターに相談しよう

ひきこもりの状態にある人やその家族の相談窓口として、ひきこもり地域支援センターが各都道府県や政令指定都市に設置されています。 センターでは、専門のコーディネーターが医療、雇用、福祉などの機関や家族会などと連携して支援を行っています。 電話相談を行っていたり、センター内に引きこもりの人たちが交流できる”場”を設置しているところもあります。 医療機関に相談する場合は、精神科や心療内科などを受診するのが一般的ですが、引きこもりの問題に十分対応できる医療機関は、まだ一部に限られています。 まずは引きこもり地域支援センターで情報を得るようにしましょう。