【質問】ワルファリンを飲んでいるので膝の手術が心配です
65歳の時に「大動脈弁置換術」を受け、以後ずっとワルファリンを飲んでいます。
現在、変形性膝関節症の手術を考えていますが、
ワルファリンを飲んでいるので心配です。
「ヘパリン置換」ということも聞きましたが、どのような方法ですか。
●80歳代・女性
【答】
「大動脈弁置換術」に使われる人工弁は、ヒトや動物の生体材料を主体とした生体弁と、人工的な素材を原料とした機械弁に大別されますが、
特に機械弁では血栓の形成によって血流が遮断されやすくなること(塞栓症)が問題となります。
このため、弁置換後は血栓の形成を予防する抗凝固療法が必須となります。
ワルファリンは抗凝固薬の1つです。ワルファリンの効果は、薬や食材などで弱まったり強まったりすることがよく知られています。
ビタミンKは
ワルファリンの効果を弱める作用があるため、ビタミンKを多く含む納豆や
クロレラなどの摂取は禁じられます。
また、抗凝固薬を服用すると血栓の形成を予防しますが、逆に止血は難しくなります。
このため、外傷や胃潰瘍などによる出血時には重症化しやすくなるので注意が必要です。
手術を行う場合は、手術に伴う出血のリスクに応じて抗凝固薬の投薬が決定されます。
抜歯や皮膚の手術など出血リスクが低い(あるいは止血が容易に行える)手術を受ける場合には、抗凝固薬の中断は必要ありません。
一方、ご質問者が今回予定されている膝の人工関節手術は、整形外科手術の中でも出血リスクが高い手術なので、
手術中の出血リスクを低減するための方策が必要になります。
具体的には手術の3~5日前にワルファリンの服用中止が考慮されます。
ワルファリンは投薬を中止した後も効果が残存するからです。
従来は、ワルファリンを中止している間に血栓が作られるのを防ぐために、血液が固まるのを防ぐ作用のあるヘパリンによる橋渡し治療(代替療法)
が行われるのが一般的でした。しかし、その即効性が臨床試験で否定され、現在ではヘパリンによる代替療法は、
周術期(手術やその前後の期間)に確実な抗凝固療法の継続が必要とされる場合に限定されています。
大動脈弁置換術を受けられたご質問者の場合は、持続的かつ確実な抗凝固療法の継続が必要な状況ですので、
膝の手術の4~6時間前までヘパリンを投与することが必要だと考えられます。
(この答えは、2021年4月現在のものです。医療は日々進歩しているため、後日変わることもあるのでご了承ください。)