■脳卒中の後遺症『痙縮』の治療

痙縮の範囲や治療の効果により、方法が選択される

痙縮の治療はいくつかあり、治療の効果が体の広範囲に及ぶものもあれば、手足だけの特定の部分にのみ効果があるものもあります。 また、効果が現れている時間が一時的なものもあれば、持続的なものもあります。


●痙縮の主な4つの治療法

▼内服薬
筋肉の緊張を緩める薬を用います。効果は広範囲かつ一時的であり、痙縮が起きていない部位にも作用し、 「脱力」を起こす場合があります。

▼フェノールブロック
筋肉を緊張させている神経に、神経細胞を破壊する作用のある「フェノール」という薬を注射して、神経を遮断します。 神経細胞は再生するため、効果は局所的かつ一時的ですが、効果の高い治療法です。

▼ボツリヌス療法
「ボツリヌス毒素」を筋肉に注射して、筋肉の緊張を緩和する治療法です。2010年に痙縮に対する治療において 健康保険が適用された、比較的新しい治療法で、効果は局所的かつ一時的です。

▼手術
筋肉を緊張させている神経を部分的に切断したり、神経を細くしたりする手術です。 痙縮が広範囲に見られる場合は脊髄の神経根に対して、部分的な痙縮であれば末梢神経に対して行います。 その他、痙縮によって短縮した腱に対する手術などが行われることもあります。

治療を受けながら効果が持続する方法を選択したいと考える人は多くいます。しかし、痙縮の治療は脳卒中による麻痺そのものを 治すわけではありません。手術の場合、一度手術を受ければ痙縮はよくなりますが、痙縮が改善しすぎたために 逆に動作が困難になるなど、新たな影響が生じて元に戻せないというデメリットもあります。 そのため、一般的には一時的な治療法を繰り返し行うことが選択されます。

◆どの治療法でもリハビリの継続が大切

治療により痙縮が軽くなったら、筋力増強やストレッチ、正しい姿勢や歩行パターン、日常生活動作の習得といった リハビリテーションを行い、痙縮がある部位の柔軟性を維持することが大切です。 それにより、再び痙縮が生じるのを防ぐ効果があります。


●ボツリヌス療法

ボツリヌス毒素の作用により、筋肉の緊張を緩和させる

ボツリヌス療法は、筋肉の緊張を引き起こす運動神経の働きを抑えるボツリヌス毒素を注射する治療法です。 ”毒素”といっても全身への悪影響はなく、治療では少量しか使わないため、安全性が高いとされています。 治療の効果は注射の2~3日後から現れますが、患者さん自身が効果を実感するのは、2週間程度たってからのことが多いようです。 また、通常、効果は2~4ヶ月で弱まってくるので、多くの場合、再び治療が必要になります。 注射後の副作用としては、注射部位が赤く腫れたり、体のだるさを感じることなどがあります。 また、まれに呼吸が苦しい、物が飲み込み難いといった症状が現れることもあります。 副作用が現れた場合はすぐに担当医に伝えてください。ボツリヌス療法を両足に行った場合、痙縮の改善によって歩き方が 変化するため、慣れるまでは転倒に注意が必要です。

◆年数が経過していても治療が可能

痙縮が生じてから年数が経過している患者さんも、ボツリヌス療法で治療することが可能です。 実際に、発症後30年経っている患者さんがボツリヌス療法によって改善した例もあります。 痙縮で困っていたり、内服薬で十分な効果が得られなかったりする患者さんは、ボツリヌス療法について、 一度担当医に相談してみるとよいでしょう。