漢方薬で症状改善

変形性膝関節症関節リウマチなどの原因となる病気がある腰痛、 ストレスが原因の慢性腰痛などの「膝・腰のトラブル」、 胃癌胃潰瘍機能性ディスペプシア過敏性腸症候群や 原因がはっきりしない胃もたれ、胃痛、便秘、下痢などの 「胃腸のトラブル」、 湿疹・高齢者の皮膚の乾燥・かゆみ・炎症・にきびなどの「皮膚のトラブル」に漢方薬が効果を発揮する場合があります。


■漢方薬で症状改善『膝・腰のトラブル』

原因はさまざまですが、多くの人が膝や腰の痛みに悩んでいます。 こうした痛みの改善に漢方薬が役立ちます。


●膝のトラブル『変形性膝関節症』

膝や腰に痛みがある場合、まずは整形外科を受診して原因を調べます。原因がわかったら、運動療法や薬物療法、手術など西洋医学による治療を受けましょう。 しかし、治療を受けても痛みが残ったり、薬の副作用で治療を続けるのが困難になったりすることがあります。 また、手術を受けたくない、あるいは症状はつらいものの手術の適応がないということもあるでしょう。 そのような場合に、漢方薬が助けになることがあります。 膝の痛みの原因で最も多いのは変形性膝関節症です。 西洋医学による治療法には、運動療法、非ステロイド性消炎鎮痛薬などによる薬物療法、装具療法、温熱療法などがあります。 関節の変形が進んでいる場合には、手術が検討されることもあります。 これらの治療を行っても膝の痛みが改善しない場合、体質なども診ながら、一人一人の患者さんに合う漢方薬を使っていきます。


●膝のトラブル『関節リウマチ』

変形性膝関節症以外では関節リウマチによる膝の痛みに漢方薬がよく使われます。 関節リウマチは、早期から抗リウマチ薬などを使って炎症を抑える治療を行います。 しかし、治療の開始が遅れたり、薬を指示通りに使わなかったりすると、痛みが残ることがあります。 そのような場合に、漢方薬が使われることがあります。


●腰のトラブル『原因となる病気がある腰痛』

腰痛で、特に症状が重くなりがちなのが、椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症です。 これらの病気による腰痛で、漢方薬が役立つケースは主に3つあります。 1つ目は、手術は必要ないと判断されたものの痛みや痺れがつらい場合です。 2つ目は、手術をしない判断をして西洋薬を使っているものの、痛みや痺れが残っている場合です。 3つ目は、非ステロイド性消炎鎮痛薬の副作用で胃腸障害などが起こり、薬を飲み続けられなくなるケースです。 いずれの病気の場合も、腰痛などの症状と体質、体の状態などから、合う漢方薬が選ばれます。


●腰のトラブル『ストレスが原因の慢性腰痛』

画像検査を行っても異常が見つからないのに、腰に痛みが続く状態を慢性腰痛といいます。 慢性腰痛は、ストレスによって脳が影響を受け、脳に備わっている痛みを和らげる仕組みがうまく機能しなくなることで起こります。 漢方薬を使うことで、腰痛も、原因となるストレスも改善するケースが多くあります。


■漢方薬で症状改善『胃腸のトラブル』

胃腸のトラブルに対しても、漢方薬はよく使われています。 最近、漢方薬がなぜ効くのかが、科学的にわかってきました。


●胃腸のトラブル①胃もたれ、胃痛

胃もたれや胃痛などの胃の症状があるときに、まず注意しなければならないのは、 「胃癌」「胃潰瘍」などの病気で起こっている可能性があることです。 まずは、医療機関で内視鏡検査などを受けて、こうした病気がないかどうかを調べてもらいましょう。 原因となる病気が見つからないのに、胃もたれや胃痛などの症状が続くのであれば、 「機能性ディスペプシア」が疑われます。 これは、以前なら慢性胃炎や神経性胃炎といわれていた状態のことですが、その原因はよくわかっていません。 このように、原因がはっきりしない症状の改善には、漢方薬が向いています。 実際に、機能性ディスペプシアの治療において、漢方薬は治療の柱の一つになっています。 患者さんの症状や体質などによって向いている漢方薬の種類はさまざまですが、特によく使われているのが「六君子湯(りっくんしとう)」です。 近年、六君子湯が胃の症状に対して効果を現す仕組みが、科学的に証明されつつあります。 六君子湯を飲むと、胃壁の筋肉がリラックスして広がりやすくなることがわかってきたのです。 胃が広がると、胃の中の食べ物が腸へと移動しやすくなり、胃もたれなどの症状が改善されます。 このほか、食欲を増進するグレリンというホルモンの分泌量を促して食欲不振を改善する効果や、 胃粘膜の血流を促し胃痛を和らげる効果もあることがわかってきています。

◆自分に合った漢方薬を見つけるために

漢方薬は、一つの症状に対して、他の症状や全身の状態、体質などを考慮して、さまざまな種類の物から、最も合う薬が選ばれます。 例えば、「とにかく胃が痛い」という場合でも、他に食欲不振や胃もたれなどの症状もあるかによって、合う漢方薬は異なります。 自分に合った漢方薬の処方を受けるためには、医師に自分の症状を詳しく伝えることが大切です。


機能性ディスペプシアに対する処方例


●胃腸のトラブル②便秘や下痢

器質的な病気はなくても、体質的に「便秘」下痢が起こりやすい人がいます。 市販薬を使っても、やめるとまた便秘や下痢になってしまうという人も少なくありません。それは、体質が関係しているからです。 このような体質の改善にも、漢方薬は役立ちます。 ただし、同じ「便秘」あるいは「下痢」という症状でもどのような体質が原因で起こっているかによって、合う漢方薬は異なります。

便秘や下痢に対する処方例


◆過敏性腸症候群の場合も

検査をしても腸に炎症や潰瘍などの異常が見つからないのに、腹痛や腹部膨満感を伴う便通異常(便秘や下痢)を繰り返す場合、 「過敏性腸症候群」の可能性があります。 過敏性腸症候群は、主に便秘が起こる「便秘型」、主に下痢が起こる「下痢型」、便秘と下痢のどちらも起こる「交代(混合)型」などのタイプに分けられます。 いずれのタイプも、ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、腹痛が起こると考えられています。 漢方薬は、過敏性腸症候群のようなストレスが大きく関係する症状の改善にも役立ちます。 心と体は一つであり、心の状態が体の症状として現れると考えます。そのため、心身両面が治療の対象になります。

過敏性腸症候群に対する処方例


◆漢方薬を使う際の注意点

漢方薬を飲んでいても、おなかを冷やすような生活をしていては胃腸の症状はなかなか改善しません。 漢方医学では、腸の働きを整えるためには、おなかを温めることが大切だと考えます。 できるだけ温かい飲み物や食べ物を摂ったり、おなかを冷やさない服装を心がけたりするようにしてください。


■漢方薬で症状改善『皮膚のトラブル』

皮膚のかゆみや炎症漢方薬が効果を発揮することがあります。


●長引いたり、再発を繰り返す場合に有効

湿疹など、皮膚の症状が長引いている場合、漢方医学(以下、漢方)による治療が役立つことがあります。 西洋医学による治療では通常、炎症やかゆみなどの症状を抑える薬が使われます。 こうした薬で治ることもありますが、中には再発を繰り返してしまうケースもあります。 それは、皮膚症状を起こしやすい体質が改善していないためです。 漢方では、皮膚の症状は、体の中で起きた異変が皮膚に反映された結果だと考えます。 そのため、患者さんの皮膚症状だけでなく、体質や体力、全身の状態や症状などを総合的に診て、漢方薬が処方されます。 体質が改善すると、皮膚症状は起こりにくくなります。 ただし、治療にはある程度の期間が必要です。皮膚症状が治まっても、自己判断で薬を飲むのをやめてしまうと、再発することがあります。 体質や全身の状態が改善するまでは、漢方薬を飲み続けましょう。


◆皮膚のトラブル①湿疹

アトピー性皮膚炎を始め、「湿疹」を伴う皮膚トラブルは多いものです。 湿疹とは、何らかの刺激によって皮膚に炎症が起こり、ブツブツやカサカサ、腫れなどの症状が現れる皮膚症状のことです。 多くの場合、かゆみを伴います。西洋医学による治療では一般的に、炎症を抑えるステロイド薬の塗り薬と保湿剤が使われます。 強いかゆみには抗アレルギー薬などの飲み薬が併用されます。 こうした治療で治ることもありますが、季節の変わり目やストレスを感じた時に再発を繰り返すことが多くあります。 長引く湿疹に対して漢方では、「カサカサして乾燥している」「分泌物が多くジクジクした状態」「化膿している」など皮膚の症状を見極め、 さらに体質や全身の状態も診て、患者さんに合う漢方薬を処方します。 漢方薬を使い始める際の注意点として、ステロイド薬を使っている場合は、急にその使用を中止すると炎症が再発したり、一気に悪化することがあります。 最初はステロイド薬と漢方薬を併用し、皮膚の状態がよくなってきたら、医師と相談の上、ステロイド薬を作用の弱いものに切り替えたり、 塗る量を減らしたりしていきます。

湿疹


◆皮膚のトラブル②高齢者の皮膚の乾燥・かゆみ

高齢者の皮膚のかゆみの原因として多いのが、「老人性皮膚そうよう症」です。 加齢とともに皮脂の分泌量が減ると、皮膚が乾燥しやすくなり、皮膚のバリア機能が低下します。 すると、空気の乾燥など様々な要因が皮膚を刺激し、かゆみを引き起こします。 特に冬は乾燥しやすく、脛や腰回り、腕などでかゆみが強く現れます。 西洋医学では、かゆみを抑える抗アレルギー薬などの飲み薬や保湿剤で治療します。 漢方では、症状に加えて、皮膚の分泌量が多いか少ないか、体力はあるかないかなどの点も考慮しながら漢方薬を処方します(下図参照)。 老人性皮膚そうよう症の場合、どの薬を使うかに関わらず、基本的なケアとして、保湿剤を塗って皮膚を乾燥から守ることが大切です。 また、皮膚が刺激されるとかゆみが増すので、汗をこまめに拭く、熱い時期はなるべく汗をかかないようにするなどの工夫をしましょう。

皮膚の乾燥・かゆみ


◆皮膚のトラブル③にきび

思春期にできやすい「にきび」は、皮脂の分泌量が増えることが一因で起こり、下図のような状態に分けられます。 にきびの治療では、多くの皮膚科医が西洋薬と漢方薬を併用しています。 患部には西洋薬の塗り薬を使い、原因となる体質や全身の状態を改善するために漢方薬を使っています。

にきび