加齢黄斑変性

網膜の中心部には、黄色味を帯びた「黄斑部」と呼ばれる部分があります。 この黄斑部が加齢などによって障害され、視力低下を引き起こす病気が『加齢黄斑変性』です。 アメリカでは、中途失明の原因の第2位を占めるほど、患者数の多い病気です。 日本でも高齢化が進むにつれて、患者数が増えてきています。 加齢黄斑変性は50歳代から始まることが多く、高齢になるほどその頻度は増してきます。 また、福岡県の久山町で行われた疫学調査によると、発症率の比は男性が1.7なのに対し、女性は0.3と、男性に多いのも特徴です。


■加齢黄斑変性とは?

加齢などによって、網膜の黄斑部が障害される病気

『加齢黄斑変性』とは、加齢などによって、網膜の中心部に当たる「黄斑変性部」に障害が起こる病気です。 視野の中心部、つまり見たいところが見えにくくなるため、日々の生活にも支障を来します。


●黄斑部は視機能が最も鋭敏な部位

黄斑部には、物の形や大きさ、色、明暗などを識別する「視細胞」がたくさん集まっています。 黄斑部は、網膜の中でも、物を見るための「視機能」が最も鋭敏な部位です。 その黄斑部の中央にある「中心窩」という小さなくぼみは、視細胞が集中しているひときわ感度の高いところです。 一般に言う”視力”は、この中心窩の視力を指します。


●加齢黄斑変性の起こる仕組み

加齢黄斑変性には、「滲出型」「萎縮型」の2つのタイプがあり、それぞれ起こり方が異なります。

▼滲出型
「新生血管」と呼ばれる異常な血管によって起こるタイプです。 新生血管は、網膜の外側に位置する「脈絡膜」から発生し、網膜に向かって伸びてきます。 新生血管は非常にもろいため、血管壁から血液成分や水分が滲みだして、むくみや出血を起こします。 それによって黄斑部の視細胞が障害され、視機能に異常が起こります。 また、新生血管が網膜の下まで伸びていき、網膜を浮き上がらせて、網膜剥離を起こすこともあります。

▼萎縮型
網膜の最も外側にある「網膜色素上皮細胞」と、脈絡膜の中の「毛細管板」という部分が委縮するタイプです。 網膜色素上皮細胞や毛細管板の委縮が進むと、徐々に黄斑部の視細胞が障害され、視機能に異常が現れます。 日本では、萎縮型より滲出型の方が多く見られます。福岡県の久山町で行われた調査でも、 50歳以上の住民の加齢黄斑変性全体の発症率は0.87%で、そのうち滲出型の発症率は0.67%でした。


■加齢黄斑変性の危険因子

加齢のほか、「喫煙」や「太陽光」も関わっている


●加齢黄斑変性は”目の生活習慣病”

加齢黄斑変性の原因に一つに、遺伝的な体質があります。しかし、それだけで起こるというよりは、遺伝的な体質のある人が、 年と共に環境の中でさまざまな影響を受けることによって、病気が誘発されると考えられます。 加齢黄斑変性を誘発する危険因子には、次のようなものがあります。

▼喫煙
日本はもとより、アメリカやヨーロッパの多くの研究で、加齢黄斑変性の有力な危険因子であることが明らかになっています。

▼太陽光
太陽光の中の青い光によって、網膜色素上皮細胞が酸化されるために、加齢黄斑変性が誘発されると考えられています。

▼食生活
野菜や果物などに多く含まれるカロテンやビタミンA、C、Eなどには、酸化を抑える働きがあります。 逆に言えば、「野菜や果物が嫌いで、ほとんど食べない」というような偏った食事は好ましくありません。

このように加齢黄斑変性には、生活習慣や環境が深く関わっています。


■加齢黄斑変性の病状と進行

中心部が見えにくくなったり、暗く歪んで見えたりする



●主な症状

加齢黄斑変性は、視機能に様々な障害を引き起こします。主な症状は、次の3つです。

▼中心部が暗く、見えにくい(中心暗点)
視野の中央が見えにくくなります。そのため、見ようとするものの中心部がぼやけたり、黒ずんで見えたりします。 例えば、人の顔を真正面から見ると、顔の中央付近にある、鼻や目の辺りが判別しにくくなります。

▼歪んで見える(変視症)
人の顔や景色、あるいはテレビの画面などを見つめると、中心部が歪んで見えます。 壁のタイルや障子の桟のように、格子状になったものを見つめると、歪んでいるのがよりはっきり自覚できます。

▼視力低下
病状の進行に伴って、視力が低下していきます。初期の段階ではそれほどひどくはありませんが、病気が中心窩に及ぶと、 視力は急激に低下します。「見たいところが見えない」「読みたいものが読めない」「値札の数字がわからない」 というように、日常生活に支障を来すようになります。

多くの場合、加齢黄斑変性は、最初は片方の目だけに起こります。ふだん物を見るときは、左右の目で補い合っていますから、 片方の目だけに異常があっても、初期の段階では気付かないことも少なくありません。 ただし、患者さんの3人に1人は、やがては正常な方の目にも、加齢黄斑変性が起こると言われています。


●タイプによって病気の進行は異なる

滲出型の場合は、新生血管から滲みだす水分や出血の量が増えて、黄斑部の障害が大きくなるほど、症状はひどくなります。 一般に進行は早く、新生血管が中心窩まで伸びてくると、急激に視力の低下が起こってきます。
一方、萎縮型では、いきなり中心窩に萎縮が起こることは少なく、大半は、中心窩から外れたところに起こります。 そして、10~20年という長い年月をかけて、萎縮が広がっていきます。 滲出型に比べて進行は緩やかで、中心窩まで萎縮が及ばなければ、視力低下もそれほどひどくはなりません。


■加齢黄斑変性の検査と診断

「視野検査」や眼底の様子を調べる検査が行われる

加齢黄斑変性の診断では、最初に「問診」で症状や経過などを聴いたうえで、次のような検査が行われます。


●視野検査

「アムスラーチャート」という碁盤の目のような図を使った、簡単な検査が行われます。 アムスラーチャートの中心の丸い点を片方の目で見て、ぼんやりしたり、黒ずんで見える部分がないか、 あるいは縦と横の線が歪んで見えないかをチェックします。




●眼底検査

「眼底検査」では、網膜のさまざまな異常を調べることができます。新生血管や萎縮はもちろん、 網膜の剥離した部分や出血、むくみの有無などもわかります。 また、血管から漏れた成分でできる「硬性白斑」や、網膜内にできる「水疱」なども確認できます。 ただし、眼底検査だけでは似たような病気との鑑別はできません。 そのため、「蛍光眼底造影」が必要になります。

●蛍光眼底造影

「蛍光眼底造影」は、蛍光色素を含んだ造影剤を使って眼底を観察する検査で、確定診断のために行われます。 造影剤は腕の静脈から注射します。新生血管があれば、そこに造影剤が流れていきます。 また、網膜に萎縮があれば、萎縮部分が薄くなっているので、他の部位より明るく見えます。 こうして、新生血管の広がりや萎縮の範囲を確認できます。 通常、「フルオレセイン」という造影剤が使われますが、フルオレセインで見えるのは、主に網膜色素上皮細胞までです。 網膜色素上皮細胞の外側に位置する、脈絡膜にある新生血管を調べる場合には、「インドシアニングリーン」 という造影剤を使った検査を追加して行います。


●光干渉断層計(OCT)

「光干渉断層計」は、眼底に赤外線を当て、反射して戻ってきた波を解析して、網膜の断面を描き出す装置です。 眼底の断面の様子を見ることができるので、新生血管の有無はもちろん、その大きさや形、深さなどもわかります。 また、新生血管と中心窩の位置関係を調べるのにも役立ちます。 数分で検査ができるうえに、造影剤も使わないので、患者さんの体にかかる負担はほとんどありません。 なお、硝子体に出血があり、硝子体が濁って眼底がよく見えない場合は、眼底検査や蛍光眼底造影の代わりに、 「超音波検査」が行われます。

●50歳を過ぎたら自己チェックを

加齢黄斑変性は、将棋盤や障子の桟などの格子状のものを使えば、自分でも簡単にチェックできます。 片方の目を閉じて、腺が歪んだり、中心部が暗くぼやけていないかを確認します。 老眼鏡を付けたまま行います。加齢黄斑変性は、50歳を過ぎると増えてきます。 自分で定期的にチェックし、異常を早く見つけることが大切です。