網膜静脈閉鎖症

網膜静脈閉塞症』は、網膜を走っている静脈が突然詰まることで、網膜にむくみや出血が生じる病気です。 網膜静脈閉塞症になると、視野全体、あるいは視野の一部が急激に見えづらくなります。 中高年から上の世代では、加齢や高血圧、動脈硬化などが発症の一因とされています。 静脈の詰まる部位によって、「網膜中心静脈閉塞症」と「網膜静脈分枝閉塞症の」2種類に分けられます。


■網膜静脈閉鎖症とは?

網膜を走る静脈が詰まり、出血やむくみなどが起こる

●網膜中心静脈閉塞症の起こる仕組み

網膜には、動脈と静脈が枝のように広がっています。 その幹となる「網膜中心動脈」「網膜中心静脈」は、 「視神経乳頭」の辺りでは、共有の外膜に包まれています。 中心動脈に動脈硬化が起こると、動脈の血管壁が厚くなり、一方の中心静脈を圧迫します。 2本の血管は同じ外膜に包まれているため、逃げ場はほとんどありません。 その結果、中心静脈の血流が乱れて「血栓」ができやすくなります。 その血栓が、中心静脈の内部を詰まらせると、詰まった部位より手前の静脈の内圧が上ります。 すると、血管壁の隙間から水や血液成分が網膜全体に漏れ出し、むくみや出血が起こります。

●網膜静脈分枝閉塞症の起こる仕組み

中心静脈と中心静脈からそれぞれ枝分かれした動脈と静脈は、網膜のあちこちで交差しています。 交差部の動脈と静脈も、やはり共有の外膜に包まれています。そのため、交差部で動脈硬化が起こると、静脈が圧迫され、 静脈内の血液が流れて、血栓ができやすくなります。その血栓が静脈の内部を詰まらせると、その手前の静脈の内圧が高まり、 網膜にむくみや出血を来します。


■症状

片方の目の視野全体、または一部が突然暗くなる

網膜静脈閉塞症の大半は、片方の目だけに起こります。両目同時の発症は非常にまれです。 発症すると次のような症状が現れます。

▼網膜中心静脈閉塞症
網膜全体に出血が広がり、急激に視力が下がって視野全体が暗くなります。

▼網膜静脈分枝閉塞症
黄斑部に出血やむくみが及ぶと、「視野の一部が暗く、見えにくくなる」などの視力低下が起こります。


■検査と治療

合併症を抑えるための治療が中心

●検査

「眼底検査」で、網膜の出血やむくみの有無、静脈の様子などを観察します。 さらに、静脈の詰まった部位や閉塞の程度、網膜のむくみ具合を調べるため、「蛍光眼底造影」も行われます。

●網膜中心静脈閉塞症

現在のところ、網膜中心静脈閉塞症で失われた視力を回復させる治療法は、残念ながら確立されていません。 治療は、主に視力の低下が進んで、失明に至るのを防ぐために行われます。 静脈の詰まった部位を放置しておくと、新生血管という異常な血管が生えてきます。 新生血管はもろくて破れやすいため、「硝子体出血」「血管新生緑内障」 などの合併症を引き起こすことがあります。 そこで新生血管を防ぐために、詰まった部位の網膜をレーザーで焼き固めます。 一部では、黄斑部のむくみを取って視力を改善させるために、「硝子体手術」が行われています。 そのほか、「t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)」や、 徐放性のステロイド薬などの薬を使った方法も試みられています。 これらの治療法は、むくみを取るにはある程度効果がありますが、必ずしも視力が回復するわけではありません。

●網膜静脈分枝閉塞症の治療

網膜中心静脈閉塞症と同じように、レーザー治療が行われます。その他、硝子体手術や、徐放性のステロイド薬を使った 治療が行われることもあります。むくみの多いところや出血部位にレーザーを当てて、漏れ出した水や血液を脈絡膜側に 吸収させる方法もあります。ただし、網膜静脈分枝閉塞症では、自然治癒する例もあります。 そのため、発症から3ヵ月間は経過観察することが多くなっています。