眼瞼下垂
上瞼が下がってくると、視界が狭くなり、見た目が気になります。 『眼瞼下垂』と診断され、症状が強い場合には、手術が検討されます。
■眼瞼下垂とは?
上瞼が下がってきて視界が狭くなる
「眼瞼下垂」とは、上のまぶた(眼瞼)が下がってくる病気です。 瞼の縁が瞳孔(黒目の部分)にかかるため、視界が狭くなり、瞼の見た目が変わってしまうなどの不都合が生じます。 上瞼が瞳孔の大部分を覆うようになると、物を見ることが困難になります。 眼瞼下垂はゆっくりと進行するため、自分では気づきにくい病気です。 「瞼が下がってきたようだ」と訴える患者さんは少なく、「目が重い」「見えにくい」「うっとうしい」「目が開きにくい」などの訴えが多くなります。 自分では気づきにくいのですが、「おでこのしわが深くなった」「眉毛の位置が上がった」といった外見上の変化に気付くこともあります。 無意識におでこの筋肉に力を入れて瞼を引き上げようとするため、おでこにシワが寄り、眉毛の位置が上がってくるのです。 このほか、二重の幅が広がったり、三重になることもあります。
●主な原因は加齢
眼瞼下垂には先天性と後天性があります。後天性眼瞼下垂の原因で最も多いのは加齢(加齢性眼瞼下垂)です。 正確な統計は出ていませんが、60歳以降に増加し、男女差はないと考えられています。 加齢のほかに、ハードコンタクトレンズの長期使用で生じることもあります。 この場合は30歳代や40歳代にも見られ、片方の瞼だけに生じることが多いようです。 他には白内障などの目の手術の影響で生じることもあります。 稀ではありますが、脳梗塞などによる神経の異常が原因の場合もあります。 もし、ある日突然に眼瞼下垂の症状が現れた場合は、直ちに脳神経外科や神経内科を受診してください。
■加齢性眼瞼下垂の仕組み
上瞼の腱膜が伸びたり、腱膜と瞼板の結合が緩んで起こる
上瞼には、眼瞼挙筋という筋肉と瞼の構造を支えている瞼板、そして眼瞼挙筋と瞼板を接合する挙筋腱膜などの組織があります。 健康な人では、眼瞼挙筋が収縮することで挙筋腱膜を介して瞼板が上に引っ張られ、上瞼が上がります。 しかし、加齢によって、挙筋腱膜が薄く伸びたり、眼瞼挙筋と挙筋腱膜や瞼板の結合が緩むと、瞼を持ち上げられなくなります。 こうなると、上瞼の縁が瞳孔にかかるようになり、「見えにくい」などの症状が現れるのです。
■眼瞼下垂の検査
まずは眼科を受診。他の病気が原因の場合もある
見えにくさの程度や他の病気の有無を調べる必要があるので、まずは眼科を受診してください。 眼科では、視力検査、眼圧検査、眼底検査、視野検査といった検査が、必要に応じて行われます。 これらに加えて、眼瞼下垂の検査として、「上瞼の縁が瞳孔にかかっていないか」「おでこに力が入ってシワが寄っていないか」 「眉毛の位置が上がっていないか」を確認します。さらに、他の病気との鑑別に必要な検査が行われることもあります。
●間違われやすい病気
眼瞼下垂と間違われやすい病気には次のようなものがあります。
- ▼重症筋無力症
- 自己免疫疾患の一つで、末梢神経と筋肉のつなぎ目に障害が生じる病気です。 眼瞼下垂とともに目の動きが障害され、左右の目が異なる方向を向くようになることがあります。 このため、物が二重に見えたりします。この病気が疑われる場合は、神経内科の受診が勧められます。
- ▼眼瞼皮膚弛緩症
- 上瞼の皮膚がたるむ病気です。加齢性眼瞼下垂との見分け方は、瞼の下がり方の違いです。 加齢性眼瞼下垂の場合は、上瞼の縁が下がります。 一方、眼瞼皮膚弛緩症の場合は、瞼の縁の位置はほぼ正常ですが、たるんだ皮膚が瞼の縁を越えて垂れ下がってきます。
■眼瞼下垂の治療
症状が強い場合に手術が検討される
眼瞼下垂の症状が強く、日常生活を送るうえで不都合を感じる場合には、治療が勧められます。治療法は手術のみです。 「高齢だから手術はしたくない」と治療を見送る患者さんもいますが、手術を決心する判断材料の一つとして、 例えば、患者さんの瞼にテープを貼って持ち上げてみます。 多くの患者さんが瞼が上がることで視界が広くなり、おでこに力を入れないで済むことを実感できるようです。 手術には、主に2つの方法があります。
- ▼挙筋短縮術
- 眼瞼挙筋が正常に収縮できる場合に行う手術です。上瞼の皮膚を切開し、挙筋腱膜の丈夫な部分を選んで、瞼板に糸で縫い付けます。
- ▼前頭筋吊り上げ術
- 眼瞼挙筋が正常に収縮しない場合に行う手術です。おでこの筋肉(前頭筋)の力を利用して、上瞼を上げます。 眉毛の上の2ヵ所を切開し、人口硬膜や自家組織を使って、前頭筋と瞼板を繋ぎます。
どちらの手術も局所麻酔で行われ、片方の目につき1時間程度で終わります。 通常は片方ずつ手術をしますが、医療機関によっては両方の目を同時に行うこともあります。 外来で手術できますが、入院する場合もあります。手術後は、瞼が一時的に腫れます。 腫れは1~3ヵ月ほどで治まりますが、個人差があります。 おでこのシワや眉毛を上げる癖はすぐには治りませんが、時間が経てば改善していきます。 高齢の患者さんで眼瞼皮膚弛緩症を合併している場合は、その手術も併せて行われることもあります。 眼瞼皮膚弛緩症の手術では、眉毛の下の弛んでいる皮膚を紡錘形に切り取り、縫合します。
●眼瞼下垂の手術を受ける際の注意
抗凝固薬や抗血小板薬を使っている場合は、必ず医師に伝えてください。 これらの薬の影響により手術中の出血が多くなるため、手術前に薬の使用を一時中断する場合があります。 また、これらの薬を服用していると、手術後に瞼の皮下出血や腫れが目立ちやすくなることも知っておきましょう。 手術後は瞼の形や目の印象が変わるため、患者さんによっては慣れるまでに時間がかかることがあります。 もともとドライアイがある人では、手術後は目をしっかりと開くことができるようになるため、ドライアイが悪化することもあります。 その場合は点眼薬などで治療します。 また、手術直後は良い状態でも、挙筋腱膜が薄くなりやすい体質の人は、時間の経過とともに眼瞼下垂が再発することがあります。 再手術が必要になることもあるので、担当医に相談してください。
●体全体の老化予防が大切
加齢による眼瞼下垂の主な原因である挙筋腱膜の緩みは、体の組織を結合させる細胞(線維芽細胞)の働きに影響されます。 したがって、その細胞を健康に保つこと、すなわち体全体の老化を防ぐことが眼瞼下垂の予防にも繋がります。 規則正しい生活、十分な睡眠、栄養バランスのよい食事、心身共に健康に過ごすことなどを心がけて、体の老化予防に努めましょう。