アルミニウム

飲食物から摂取されたアルミニウムの99%は、腸管から吸収されずにそのまま排泄され、 吸収されるのは残りの1%だけですが、アルミニウム過剰摂取に起因すると考えられるいくつかの疾患があります。


■「アルミニウム」とは?

古代のギリシア人やローマ人は明礬(硫酸アルミニウムを主成分として含む複塩化合物)の収斂製(皮膚や粘膜のたんぱく質と結合して皮膚を作る性質) を利用して医薬品、染色等に用いていたようです。 フランスの天才科学者ラボアシジエは、明礬にアルミニウムが含まれていることを知らずにアルミン(almine)と名付けました。 1827年ヴェーラーはアルミニウムを単離し、明礬にちなんでアルミニウム(aluminium)と名付けました。 アルミニウムは地殻中で珪素についで2番目に多いミネラルで、軽金属として調理器具、缶詰、 貨幣などに広く用いられています。 このように生活環境の中に広く存在しており、ガラス器具などからもアルミニウムだけを正確に測定することは、ごく最近まで困難でした。 そのような原因もあって、アルミニウムが必須元素であるという証明も遅れ、1993年に山羊がアルミニウム欠乏により 発育不良が発生したという学会報告が1例あるだけです。


●アルミニウムの過剰摂取による疾患

飲食物から摂取されたアルミニウムの99%は、腸管から吸収されずにそのまま排泄され、吸収されるのは残りの1%だけですが、 アルミニウム過剰摂取に起因すると考えられるいくつかの疾患があります。 重症の腎臓病で血液透析を受けていた人に構音障害(口ごもったり、どもったりする)、歩行障害、意識障害、 認知症などの症状が多発し、透析性脳症と名付けられました。 これは透析液に水道水を利用したのが原因で、アルミニウムが直接血液中に流入し、脳に沈着したためと考えられています。 先進国では水道水の浄水過程で硫酸アルミニウムを用いるため、水道水中にアルミニウムが検出されます (日本の某浄水場では原水120μg/l、浄水10μg/lと、アルミニウムは浄水過程でかなり除去される)。 このほかに、血液透析により骨折などを起こす透析性骨障害という病気の報告もあり、この原因もアルミニウムによる骨石灰化障害と考えられています。 現在では透析液中のアルミニウム濃度の調整が行われており、このような病気は発生しなくなっています。

◆アルツハイマー病とアルミニウム

アルツハイマー病は 初老期及び高齢期に発症する認知症で、記憶障害、意欲の喪失、失語、人格障害などの症状を呈します。 1989年マーチンらは、飲料水中のアルミニウム濃度とアルツハイマー病患者発生数に相関があると報告して大きな問題となりました。 その後、この仮説を確かめるためにいくつかの疫学的な調査が実施されましたが、有意さがあったという報告となかったという報告があります。 しかし、有意さがあったとする報告でも相対的危険度(摂取量の通常の人が認知症になる率を1としたとき、摂取量の高い人が何倍になるかを示した数値)は 1.3~1.7の間で低い数値でした。その上、アルミニウム総摂取量のうち飲料水の寄与は非常に低い比率であること、 アルミニウムの腸管吸収率が低いこと、また、アルミニウムによる透析脳症とアルツハイマー病は、 臨床的にも病理学的にも異なっていることなどから考えると、飲料水中のアルミニウムがアルツハイマー病の原因になる心配はないように思います。 実際に1997年WHOは、アルミニウムとアルツハイマー病を関係付ける証拠はないと結論を出しています。