コバルト

コバルトは今後の研究によっては必須元素となるかもしれないミネラルです。


■「コバルト」とは?

空の色のことをコバルトブルー呼びますが、コバルトの化合物は青の色を出すため、紀元前2000年のエジプトやイランで陶器の着色に用いられていました。 コバルトは、このように古くから知られていたミネラルですが、なかなか元素として発見されなかったので、 1935年の発見時にギリシア語の「鉱山の下に住む妖魔Kbolt」に因んで『コバルト』と名づけられました。

1930年代、アメリカ、オーストラリア、カナダなどで牛や羊などの反芻動物に貧血、筋肉萎縮などの症状を呈する原因不明の病気が多発し、 「消耗病」と呼ばれました。最初は鉄欠乏症ではないかと疑われていましたが、 1934年アンダーウッドらは、病気になった反芻動物の肝臓には鉄分が十分に含まれており、 鉄欠乏ではなくコバルト欠乏であることを証明しました。消耗病の発生した地域は土壌中のコバルトも低濃度だったのです。

一方、昔から悪性貧血と呼ばれる鉄剤の効かない貧血が知られていましたが、1949年、リッケスらはこの病気が ビタミンB12欠乏であることを発見しました。 その後、牛や羊の消耗病もビタミンB12を与えると、速やかに症状の改善が確認され、これも悪性貧血であることがわかりました。 しかし、コバルトでも消耗病が治癒することから、研究が行われました。 消耗病の牛にビタミンB12と等量のコバルトを与えても治癒せず、もっと大量のコバルトが必要であることが判明しました。 そして反芻動物では、コバルトから腸内細菌によりビタミンB12が合成され、それが利用されることが解明されました。

ヒトの体内には、およそ1mgのコバルトと5mgのビタミンB12が含まれています。 このビタミンに含まれるコバルトは、0.181mgに過ぎません。 一方、コバルト摂取量は1日に300μg、ビタミンB12摂取量は7μg程度であり、ビタミンB12に含まれるコバルト量は0.25μgという超微量になります。 そして、ビタミンB12以外のコバルトがヒトにとってどのような役割を果たしているのかは全くわかっていないため、 日本人の食事摂取基準でもビタミンB12の推定平均必要量は策定されていますが、コバルトは策定されていません。 ヒトの腸内細菌は反芻動物と異なり、コバルトからビタミンB12を合成することができないとされていましたが、 ヒトの腸内細菌もコバルトからビタミンB12を合成し、利用されるはずであるという意見もあります。 今後の研究の進展によっては、コバルトを必須元素として必要量を策定する必要が出てくるかもしれません。