年齢(歳) | 男性 | 女性 | ||
目安量 | 上限量 | 目安量 | 上限量 | |
1~2 | 1.5 | 1.5 | ||
3~5 | 1.7 | 1.7 | ||
6~7 | 2.0 | 2.0 | ||
8~9 | 3.0 | 2.5 | ||
10~11 | 4.0 | 3.0 | ||
12~14 | 4.0 | 3.5 | ||
15~17 | 4.0 | 3.5 | ||
18~29 | 4.0 | 11 | 3.5 | 11 |
30~49 | 4.0 | 11 | 3.5 | 11 |
50~69 | 4.0 | 11 | 3.5 | 11 |
70以上 | 4.0 | 11 | 3.5 | 11 |
妊婦付加量 | 0.0 | |||
授乳婦付加量 | 0.0 |
マンガン
『マンガン』は、 カルシウム・リンと共に骨の生成、石灰化を促す重要なミネラルです。 脳のエネルギー源となる糖分の供給をスムーズにし、適切に使われるようにサポートしてくれます。 また、マグネシウムと共に コレステロール・タンパク質・糖質の代謝、エネルギー生成にも関わります。 人体ではミトコンドリアに多く分布しており、欠乏するとさまざまな症状を呈するミネラルです。
■マンガンの歴史
元素の周期表で、『マンガン』はⅦ族の遷移元素に属します。 マンガンの隣に同じく遷移元素Ⅷ族の鉄が並んでおり、マンガンは、鉄とは科学的な性質が類似した金属です。 ローマ帝国で使用されていたガラス製品はローマガラスと呼ばれていますが、 この時代からガラスや陶器に褐色の鉱石であるマンガンナスが使用されていました。これは現在の軟マンガン鉱です。 この鉱石の元素成分については多くの学者が分析を試みてきたのですが、なかなか成功しませんでした。 1774年スウェーデンのシャーレは、この鉱石中に新しい元素であるマンガンを発見し、同年ガーンが単離に成功しました。 当初、この元素は鉱石マンガネスにちなみマンガネシウムあるいは黒色マグネシア等と呼ばれたようです。 1808年ディビーがマグネシウムを発見し、古来からマグネシウム薬効が認められていた物質の産地であるギリシャのマグネシア地方にちなんで、 マグネシウムと名付けられ、名前が類似しており紛らわしいので、マンガンと呼ぶことになりました。 マンガンは成人体内に約12mg存在し、組織や臓器にほぼ一様に分布していますが、特にミトコンドリア中の濃度が高いことが知られています。
●マンガンの作用
マンガンは初期の時代にはマグネシウムと混同されていたようで、生理機能の解明が遅れました。 発見から150年経過した1931年アメリカのケンメルらは、雌のマウスをマンガン濃度の低いミルクで飼育すると発育が遅れ正常な排卵も起こらなくなるが、 マンガンを与えると成長がよくなり正常な性周期を示すようになることを見出しました。 同年、同じくアメリカのマッカラムらはラットをマンガン欠乏の餌で飼育すると雌では授乳が不能になり、 雄では睾丸の退化が起こることを報告しています。 1942年ボイヤーらは、尿素の生成に関与している酵素アルギナーゼ活性がマンガン欠乏ラットで低下し、 さらにアルギナーゼにマンガンが強固に結合していることを見出し、 マンガンが必須元素であることが確定されました。表1に主なマンガン結合たんぱく質を示します。 アルギナーゼは前述のように尿素サイクルにおいて尿素を生成する反応を触媒します。 肝臓ミトコンドリアに存在するピルビン酸カルボキシラーゼは、ピルビン酸から炭水化物を合成する最初の反応を触媒する作用があります。 次に活性酸素を除去するスカベンジャーである酵素群スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)のうち、 マンガンを含んでいるものがありMn-SODと呼ばれています。 酵素中には含まれていなくても、マンガンが存在することにより活性が上昇する種々な酵素があります。 たとえばグリコシルトランスフェラーゼは、ムコポリサッカライド(ムコ多糖)の合成に必要な酵素で、骨の基質の生成に関与しています。 また血液の凝固に関係するプロトロンビンもこの酵素により活性化されます。
たんぱく質 | 分子量 | 作用 |
アルギナーゼ | 115,000 | 尿素サイクル系酵素 |
ポルビン酸カルボキシラーゼ | 655,000 | 炭酸ガス固定 |
スーパーオキシドジスムターゼ | 80,000 | 活性酸素ラジカル消去 |
マンガニン(落花生種子) | 57,000 | 不明 |
●マンガン欠乏症
動物をマンガン欠乏症にすると種々な症状が発生するので、人でも類似した症状が起こることが推測できます。 マンガン欠乏ラットでは、軟骨や骨の形成不全による骨の変形などや、耳小骨の異常による平衡感覚の異常なども発生します。 いずれもグリコシルトランスフェラーゼ活性の低下によるものと考えられます。 また、マンガン欠乏マウスではミトコンドリアの微細構造に異常が発生し、機能的にも酸素の取り込みの減少などの障害が認められます。 これはマンガン欠乏によりMn-SOD活性が低下し、スーパーオキシドフリーラジカルが発生し、 その影響でミトコンドリアに障害が発生したと推測されます。マンガン欠乏動物においては、糖代謝の異常も発生します。 これはピルビン酸カルボキシラーゼ活性の低下に関連していると思われます。
マンガン欠乏動物では神経の異常も発生します。ある研究グループはマンガン欠乏ラットから生まれた仔ラットにマンガン欠乏食を与えて飼育し、 2代にわたるマンガン欠乏により組織、臓器のマンガン濃度が極めて低い欠乏ラットを作成することに成功しました。 一部のラットについて運動機能を検査を実施したところ、オープンフィールド法、アニメックス法で運動量の減少が認められました。 懸垂法(針金をつかんでぶら下がらせる)では対象の全ラットが成功しましたが、マンガン欠乏ラット7匹中4匹はこの行動ができませんでした。 ロータロット法(ラット用回転棒上に10秒間とどまれる能力)でこの行動ができなかったのは、マンガン欠乏ラットは7匹中5匹、対象では7匹中2匹でした。 この運動異常は、前述の骨格の異常や耳小骨の発育不全による平衡感覚異常に基づくと考えられます。 このような症状が出ているのに血液中のマンガン濃度にはほとんど変化が見られません。 このことは、血液マンガン濃度を測定してもマンガンの栄養状態は十分に推測できないことを示唆しています。
ヒトにおいてマンガン欠乏が発生したという報告はほとんどありません。 フリードマンらは、19~22歳の青年男子にマンガン欠乏の食事を食べさせて種々な症状や臨床検査を行っています。 すなわち1日のマンガン摂取量が0.01~0.11mg(ちなみにわが国の食事摂取基準の目安量18~29歳男子:4mg/日)になるような食事を39日間与え、 その後食事中のマンガン量を正常値1.52~2.5mg/日に戻して研究を行っています。 その結果は、マンガン欠乏食を摂るようになると尿中及び大便中のマンガン量は低下します。 そして、正常食を与えると尿と大便のマンガン量はすぐに上昇します。 しかし、食事中のマンガン量を変えても血清や全血中のマンガン濃度には余り大きな影響は認められませんし、毛髪中のマンガン濃度にも有意差はみられません。 マンガン欠乏食により血清コレステロール濃度、HDLコレステロール濃度が有意に低下し、赤血球数、ヘモグロビン濃度、 ヘマトクリットも有意に低下し貧血症状を示しました。 このほかに血清カルシウム濃度、血清リン濃度、アルカリフォスファターゼ活性は有意に上昇しました。 また、マンガン欠乏食を摂取した大部分のヒトが足、くるぶし、胸にかゆみを訴え、上腹部、鼠径部、下肢部に小さな鱗屑、 紅班性皮疹が出現し、水晶様汗疹と診断されました。この皮疹はやがてうろこ状となり自然に治癒しています。
●マンガン過剰症
マンガン中毒はマンガンを取り扱う現場で時々発生しています。 マンガン粉塵やマンガンフューム(金属などを高熱で加熱すると蒸気が発生し、それが濃縮して微細な多数の粒子となったもの)を、 気道を通じて吸入した労働者にマンガン肺炎や中枢神経障害(パーキンソン病に類似した振るえなどの症状を示す)がみられます。 経口的にマンガン中毒が発生したという報告はまれですが、1939年神奈川県平塚市で井戸水を飲んだ人に発生したマンガン集団中毒があります。 当時の報告によると、井戸水中には14mg/リットルの濃度のマンガンが検出されました。 16名が中毒になり、2名が死亡しています。中毒者の主な症状は神経障害で、死亡者の臓器からはマンガンが高濃度に検出されています。
●マンガンの必要量
マンガンの食事摂取基準は2000年に始めて設定されました。 このときは、マンガンの必要量を定めるデータが乏しいのでマンガン欠乏者がいない日本人の平均的摂取量を所要量とするという記載があります。 そして2005年の食事摂取基準では、マンガンの出納試験の結果を参考にしながら、日本人の摂取量の平均値を用いて目安量としたと記載されています。 2000年と比較すると、若年層(11歳までの年齢)で数値が引き下げられていますが、他の年齢層ではあまり変更はありません。
●マンガンの摂取量
白石久二雄氏は、日本人成人のマンガン摂取量は平均3.6~3.8mg/日程度であると報告し、この値が2000年、2005年の食事摂取基準でも利用されています。 他の最近の種々な調査でもこの数値と大きな変化はなく、この程度が日本人の摂取量と思われます。 マンガンは食品成分表にまだ記載されていないため、国民健康・栄養調査の対象にはなっていません。
●マンガンと食事
マンガンは食品成分表に記載がないので、寺岡・武氏らが報告した成績から抜粋して表2に食品中マンガン量を示します。 抹茶、煎茶などの茶類の葉に多く含まれていますが、浸出液にはあまり出てきません。 米、麦などの穀類に多く、海藻類、貝類にも豊富です。貝類を除く肉類、魚類、卵類、乳類などの動物性食品にはあまり含まれていません。 いくつかの研究機関から食品群別摂取量の報告がありますが、いずれも動物性食品からは5%以下となっています。 マンガンは食品の精製・加工あるいは調理による損耗も見られます。
食品 | mg/100g | 食品 | mg/100g |
抹茶 | 145.00 | 白米 | 0.48 |
煎茶(葉) | 49.80 | 煎茶(浸出液) | 0.40 |
コーヒー豆 | 13.20 | ほうれん草 | 0.24 |
ごま | 3.70 | はまぐり | 0.23 |
小麦 | 2.20 | 食パン | 0.16 |
玄米 | 1.80 | いわし | 0.11 |
昆布 | 0.96 | 鶏卵 | 0.03 |
かき | 0.51 | 牛肉 | 0.01 |
●マグネシウム欠乏とマンガン
動物実験では、2世代にわたってマンガン欠乏食を与えなければマンガン欠乏にはなりません。 しかし、マグネシウム欠乏にすると比較的短期間にマンガン欠乏になることが明らかになっています。 すなわちマグネシウム欠乏食でラットを飼育すると2週間で著しい体重の遅延が起こりますが、 そのとき血液や組織中のマンガン濃度が低下することがわかりました。 さらに、肝ミトコンドリアに存在するマンガン酵素であるピルビン酸カルボキシラーゼ活性は肝臓中マンガン濃度との相関を示しますが、 マグネシウム欠乏の影響でこの酵素活性も低下することが解明されました。