菊芋(キクイモ)
『菊芋(キクイモ)』は、「イモ」と名前が付いていますがキク科の植物です。 アメリカや日本では健康のために昔から食べられてきた食品で、近年、菊芋(キクイモ)には、優れた血糖降下作用があることがわかり、 高血糖対策に有効な食品としてその効能が注目を浴びています。 欧州では薬に使う、類まれな血糖減らし根菜で、弱った膵臓の働きも高めると注目の的になっています。 高血糖に対する菊芋(キクイモ)の血糖降下作用は、その中に含まれる栄養成分の働きによるものです。 その主な成分は、「イヌリン」という 水溶性食物繊維によって発揮されます。 イヌリンは、腸内でオリゴ糖に分解され、 ビフィズス菌など、乳酸菌の増殖を促す働きがあります。 キクイモエキスを摂った試験では、血糖値が続々下がり、最大220ミリも低下したという結果が出ています。 毎日の食事だけでは不足しがちな栄養素を効率よく摂取できる食品として、健康維持を心がけている方、食事が不規則な方、 食物繊維の不足を感じている方、などにお勧めします。 その他、キクイモには、 βカロテンや ビタミンB群、 ビタミンC、 各種ミネラル、 抗酸化成分などが含まれ、 こうした栄養成分の相乗効果で、血糖値を下げる働きが発揮されると考えられます。
■菊芋(キクイモ)とは?
日本には江戸時代に伝来
「菊芋(キクイモ)」は、イモという名前が付いていますが、正しくはキク科の植物で、 その植物の根茎がイモに似ているため、そう呼ばれるようになったといいます。 菊芋(キクイモ)は、もともとはアメリカインディアンが食べていた北米原産の植物で、17世紀初頭にヨーロッパへ伝えられました。 日本へは幕末から明治時代初期に飼料用作物として導入されて以来、国内では長野県を中心に各地で栽培され、イモに似た根茎が漬物などの食用として使われています。 第二次世界大戦後の食糧難の時代には 菊芋(キクイモ)は作付け統制野菜になり、代用食として配給されたり、家庭でも多く栽培されました。
■高血糖対策に「菊芋(キクイモ)」
高血糖対策に有効な食品として注目されている
日本では、江戸時代に菊芋(キクイモ)が伝来してきましたが、食品として利用されていたものの、科学的な研究は遅れていました。
しかし、近年、菊芋(キクイモ)を摂って糖尿病を克服した人たちが続出し、大学や病院で菊芋(キクイモ)の研究が盛んに行われるようになっています。
例えば、東京女子医科大学の出村博名誉教授は、次のような試験を行っています。
肥満傾向にある38人(平均年齢59歳)に、菊芋(キクイモ)の成分を抽出した食品を約7ヶ月にわたり摂ってもらいました。
その結果、約9割(34人)の血糖値が平均して38.5ミリも下がり、中には200ミリ近く下がった人もいたと報告されています。
また、HbA1cの数値も、もとの数値が高かった人ほど大きく下がり基準値内かそれに近い数値に改善されていたそうです。
■菊芋(キクイモ)の血糖降下作用
ヨーロッパでは薬に使われるほど
高血糖に対する菊芋(キクイモ)の血糖降下作用は、その中に含まれる栄養成分の働きによるものです。 その主な成分は、「イヌリン」という水溶性の食物繊維によって発揮されます。 イヌリンは、果糖が約30個ほどつながった多糖類の一種ですが、一般には水溶性の食物繊維といったほうがわかりやすいかもしれません。 ちなみに、ジャガイモやサツマイモの糖質はでんぷんが主体でイヌリンは含まれていません。 一方、菊芋(キクイモ)にはでんぷんが含まれていない代わりにイヌリンを豊富に含んでいるのが特徴です。 生のキクイモには、イヌリンが約15~20%含まれています(乾燥粉末なら約60%)。 イヌリンが胃腸を通過すると、水分を吸収してゼリー状になり、体内の余分な糖や脂肪をからめ取ります。 イヌリン自体は、水分を吸収してゼリー状になり、人間が消化することはできない成分で、 からめ取られた糖や脂肪は体内に吸収されにくいため、血糖値の上昇を抑えることができるのです。 私たちが食事をすると、その直後から血糖値が上昇し始めます。 この食後血糖値の急上昇は、血管を傷つけ、糖尿病を悪化させる原因になります。 そのため、糖尿病の人にとって、糖をからめ取るイヌリンの働きは重要なのです。
また、菊芋(キクイモ)のイヌリンには、インスリンの分泌を促す働きがあることも突き止められました。 糖尿病の人は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの分泌量が少なかったり、インスリンの働きが悪くなったりしています。 イヌリンが腸内に入ると、腸内の細胞が刺激され、「インクレチン」というホルモンが分泌されます。 このインクレチンは、腸から肝臓につながる門脈と呼ばれる血管を通り、肝臓を経由して膵臓に達します。 そして、膵臓のβ細胞を刺激し、インスリンの分泌を促して血糖値の急上昇を抑えるのです。 インクレチンは、糖尿病の薬にも使われています。菊芋(キクイモ)という自然食品を摂ることによって、インクレチンが体内に増えることは注目に値します。
世界的にみても、「菊芋(キクイモ)」は、糖尿病に対して優れた働きを発揮すると高い評価を得ています。 米国では、20世紀初めに登場したエドガー・ケイシーという人物が、菊芋(キクイモ)の働きについて言及しています。 エドガー・ケイシーは、本業は写真家ですが、難病を抱える患者さんに具体的な回復法を教えていました。 彼の活動は40年以上にわたり、そうした数々の教えは本に記録されています。 その教えには「菊芋(キクイモ)は天然のインスリンである」と記されており、実際に糖尿病の患者さんに菊芋(キクイモ)の摂取を勧めているのです。 ヨーロッパにも、17世紀頃菊芋(キクイモ)が伝わり、20世紀に入ると菊芋(キクイモ)の本格的な研究が始まりました。 ハンガリー市民病院のアンゲリ博士らの研究グループは、糖尿病の患者さんに2年間、 菊芋(キクイモ)を摂ってもらう試験を行ったところ、糖尿病の患者数が約半分に減ったと報告しています。 ハンガリーやドイツなどでは、医薬品として菊芋(キクイモ)が使われているほど、菊芋(キクイモ)の働きは高く評価されているのです。
イヌリンは糖の仲間ですが、体内にはほとんど吸収されません。 代わりに菊芋(キクイモ)に含まれる「イヌラーゼ」という酵素によって、 フラクオリゴ糖に分解されます。 フラクオリゴ糖は、カロリーが低い上に、腸内ではビフィズス菌などの善玉菌のエサになって腸内環境を整えます。 しかも、イヌリンは、別の糖の体内への吸収を抑える役割も持っています。 水溶性のイヌリンは、胃腸を通過するときに水分を吸収してゲル状になり、腸内の糖を絡め取って体外へ排出してくれるのです。 こうしたイヌリンの作用は、食後の血糖値の急上昇を防ぎ、結果的にインスリンの過剰分泌を防ぐことに繋がります。 糖尿病になると、膵臓は絶えずインスリンの分泌を強いられているため、膵臓が疲弊し、インスリンの分泌能力が衰えてしまいます。 その点、イヌリンの働きで糖の吸収が抑えられれば、膵臓の働きも復活し、インスリンの分泌能力も回復します。
また、菊芋(キクイモ)には、 β-カロテン、 ビタミンB1・B2・B6、 ビオチン、ビタミンCなどのビタミン類や 亜鉛、ナトリウム、 カリウム、 カルシウム、 鉄などのミネラル類、 各種の酵素やアミノ酸、抗酸化成分も含まれています。 こうしたさまざまな成分が相乗的に働いて、膵臓の働きを保護していると考えられます。 最近では、菊芋(キクイモ)についての科学的な研究も進んでいます。 欧米での試験によると、菊芋(キクイモ)の摂取は 高血糖ばかりか、 高血圧や 動脈硬化、 肥満、 脳の老化にも効果を発揮するとの報告もあり、 特にヨーロッパでは薬にも使われるほどその効力は高く評価されています。
●菊芋(キクイモ)の効果試験
HbA1cは、最高で6%減った
糖尿病や高血糖に対する菊芋(キクイモ)の効果は、いくつかの試験で確かめられています。
肥満傾向にある38人を対象に菊芋(キクイモ)を約7ヶ月にわたって摂ってもらった試験では、かなり良好な改善効果が得られ、
体重、腹囲、太ももの周囲、血圧、血糖値、HbA1c、血中コレステロール、中性脂肪とも
メタボリックシンドロームの予防や治療に役立つことがわかりました。
この試験のうち、血糖値についてみると、測定者数は34人で、菊芋(キクイモ)を摂った後は、摂る前と比べて血糖値が平均38.5ミリ低下しており、
最も顕著な効果が見られた人は224ミリも激減していました。
また、非常に下がりにくいといわれるHbA1cも、33人を調べた結果、キクイモを摂った後は、
摂る前に比べて平均0.5%低下し、最も顕著な効果が見られた人は6%減っていました。
32歳の糖尿病の患者さんを対象にした試験では、薬物治療と併せて毎日菊芋(キクイモ)を摂ってもらい、1ヵ月後にブドウ糖負荷試験が行われました。 ブドウ糖負荷試験とは、空腹時にブドウ糖を与え、血糖値の変化を調べる検査法のことです。 健康な人は、ブドウ糖を投与してから約30分から1時間で血糖値が最高になり、ほぼ2時間で元に戻ります。 しかし、この患者さんの場合、菊芋(キクイモ)を摂る前は、食後約2時間が経過するまで血糖値は上昇する一方でした。 ところが、菊芋(キクイモ)を摂った1ヵ月半後には血糖値は正常になったうえ、食後1時間後は下がり始めていました。 そして、薬物治療を中止し、菊芋(キクイモ)を摂ることだけを治療の基本とした後も、血糖値及びHbA1cは正常値を保っていたといいます。
【イヌリンの働き】
●水溶性の食物繊維で難消化性、低カロリーで血中のブドウ糖の細胞エネルギー転換を促し血糖値の上昇を抑制。
血液がきれいになり全身の細胞を元気にします。
●ヒト消化管での分解吸収を受けない為(難消化性)直接大腸に到達し、腸内ビフィズス菌のエサとなり増殖を盛んにし、悪玉菌を抑制します。
●食物の低脂肪化を促進しイヌリンが脂肪を包み込み脂肪吸収を防ぎ、血中脂肪を抑制します。
◆ハンガリーでは、糖尿病患者が減少
欧州のハンガリーでは、かつて国民の半数以上が糖尿病を抱えているといわれていました。 そこで菊芋(キクイモ)の効能を探る研究が行われると共に、国をあげて菊芋(キクイモ)の栽培を励行したといいます。 そして、家庭でも菊芋(キクイモ)を毎日出すように奨励され、スープやサラダなどに調理されたものを食べて、糖尿病の治療に役立てたそうです。 例えば、ハンガリー市民病院で行われたアンゲリ博士らの試験では、菊芋(キクイモ)を治療に用いたⅡ型糖尿病 (生活習慣が原因で起こる糖尿病)の患者さんは、患者数が1/2から1/3まで減り、完治した例も見られたと報告されています。 しかも、これらの患者さんは血糖値だけでなく、中性脂肪値の低下、善玉コレステロールの増加、体脂肪の減少、尿酸濃度の低下といった、 健康体の維持に望ましい効果が多く確認されました。
■最後に
菊芋(キクイモ)は、12月から3月頃まで、一部の地域で生の根菜が手に入ります、新鮮なものなら、生でも食べられます。 皮をむいて薄く切り、サラダや酢の物にするといいでしょう。もちろん加熱調理もできます。 みそ汁や煮物の具にしたり、衣をつけて油で揚げたりすることもできます。 水溶性のイヌリンを余すところなく摂るには、キクイモを汁物に利用した時は汁も飲むようにしましょう。 菊芋(キクイモ)の血糖降下作用を最大限に生かすためには、食事の最初に食べるのが効果的です。 そうすれば、食後の血糖値の急上昇を抑えることができるでしょう。
わが国では、糖尿病の患者数が激増し、医療費の負担が国の保険制度を破綻させかねないほど膨れ上がっています。 糖尿病対策は、日本人にとって最も切迫した健康問題の一つです。 菊芋(キクイモ)は、日本人の健康を維持する上で欠かせない食品になるのではないでしょうか。 菊芋(キクイモ)は自然の食品なので副作用もなく、安心して摂ることができます。 糖尿病の人も 糖尿病予備軍の人も、ぜひ利用してみてください。 ただし、生の菊芋(キクイモ)は、長期の保存が難しく、夏の季節に入手することはできません。 また、最近では、菊芋(キクイモ)の人気が高まり、長野県や北関東、九州地方など、菊芋(キクイモ)を栽培している地域以外では、 生の菊芋(キクイモ)を入手するのが困難になっています。 そこで、糖尿病や高血糖の予防・改善のために年間を通して菊芋(キクイモ)を摂りたい場合には、 菊芋(キクイモ)のイヌリンやビタミン類といった有効成分を抽出した粒状のエキスが市販されているのでそれらを利用するのもいいでしょう。 当然のことですが、菊芋(キクイモ)を摂ったすべての人の血糖値が下がるわけではありません。 野菜を中心とした栄養バランスの良い食事を心がけ、適度に運動をすることも忘れないでください。