耳鳴り・難聴と認知症
②味付けの変化

女性は子供の独立後、記憶力が低下しやすく料理の味付けが変化したら認知症を警戒。


■女性ホルモンの減少

女性ホルモンが減少すると、男性も女性もアルツハイマー病の原因物質の蓄積が進む

高齢者の認知症のうち最も多いのはアルツハイマー病で、全体の約70%を占めています。 性別で見てみると、男性に比べて女性の方が2倍もアルツハイマー病になりやすいことがわかっています。 女性にアルツハイマー病が多い理由の一つとして、男性よりも平均寿命が長いことが挙げられます。 それだけではなく、女性ホルモンの減少もアルツハイマー病の発症に関係があると考えられています。 女性は閉経後、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンが急激に減少し、やがてまったく分泌されなくなってしまいます。 男性も女性ホルモンを持っていて、年を取ると男性ホルモンと一緒に減少しますが、その変化が緩やかなので女性よりは 影響が少ないといわれています。


エストロゲンは、排卵や乳腺のコントロールといった働きのほかに、アルツハイマー病の重大原因とされるアミロイドβという たんぱく質の蓄積を抑える重要な作用があります。アミロイドβは固まりやすい悪玉タンパク質で、私たちの体内で絶えず 作られています。年を取ってアミロイドβの分解処理や脳の外へ運び出す働きが衰えると、脳に蓄積して老人斑と呼ばれる黒点を形成。 脳の神経細胞を傷つけます。その結果アルツハイマー病が引き起こされると考えられているのです。 アミロイドβがたまりやすい場所は、脳の中の「海馬」と呼ばれる部分です。海馬は脳に入ってきた新しい情報を記憶する ”記憶の入り口”ともいえる場所。非常に重要な器官なのですが、実は脳の中で最も衰えやすい場所でもあるのです。 年を取ったりストレスや睡眠不足が重なったりすると、海馬の働きは低下し、新しいことが覚えられない、物忘れを頻発する、 論理的な考え方ができない、といった症状が現れてきます。 海馬がさらに衰えると、物忘れは激しくなり、ついには認知症を発症します。認知症の6~7割を占めるアルツハイマー病では、 脳の神経細胞が海馬の周辺から衰えていくことがわかっています。

最近の研究でアルツハイマー病の人は、ホルモンの一種のゴナドトロピンが多すぎることもわかりました。 ゴナドトロピンは、脳下垂体から分泌される性腺(卵巣や精巣)刺激ホルモンで、女性ホルモンや男性ホルモンの分泌を調整しています。 年を取って性腺が衰えて性ホルモンが減少すると、もっと分泌させようとしてゴナドトロピンがたくさんでます。 過剰となったゴナドトロピンは脳の認知機能に悪影響を及ぼすことや、アルツハイマー病の発症を促すことがわかってきたのです。 女性ホルモンが激減する時期は、女性の生活環境が急変する時期でもあります。子供の独立、夫や自身の定年退職、両親との死別、 夫との死別やそれに伴う転居など。緊張の糸が一気に切れて目標や生きがいを失ったときに、記憶力や判断力が低下しやすいのです。 喪失感が引き金となって認知症が起こることも少なくありません。


■実行機能の低下

認知症になると一度に多くの作業を同時にできなくなり、料理が下手になったら赤信号

認知症の代表的な症状といえば物忘れですが、誰でも年を取れば生理的な物忘れが起こります。 生理的な物忘れは、忘れたことが断片的で、ヒントを与えると思いだす場合が多く、忘れたことに対する自覚があります。 例えば二階に洗濯物を取に上がって何を取りに来たかを忘れ、しばらくして思い出すのが生理的な物忘れです。 これに対し、認知症の物忘れでは二階に洗濯物を取りに上がったこと自体をすっかり忘れて、全く別の作業を始めてしまいます。 認知症による物忘れが進むと、日付・時間・自分のいる場所がわからなくなったり、食事を済ませたことを覚えていなかったり、 買い物をしたことを忘れて同じ商品を買い込んだり、病院で処方された薬を飲み忘れて大量に余らせたりします。

一度に多くのことが処理できなくなるのも認知症の特徴です。代表的な例が、料理の段取りが悪くなり作れなくなることです。 料理は、いろいろなことを同時に処理する複雑な作業です。ご飯を炊いておき、その間に食材を洗う・切る・加熱するなどの 手順を踏んでおかずを作り、並行して別の食材も処理しなければなりません。 料理を段取りよく行うには、脳の高度な実行機能が必要です。ところが実行機能がうまく働かないと、次のような変化が現れます。 いつも同じ料理しか作れない、砂糖や塩を入れたことを忘れて何度も入れてしまう。 料理の手順や段取りに迷い、やがて料理そのものをしなくなってしまうのです。

料理に代表される実行機能の低下は、認知症の早期に現れる症状の一つです。 もしも自分や家族に実行機能の低下が見られたなら、アルツハイマー病を警戒してください。 アルツハイマー病がいったん始まると、進行を止める確実な方法がありません。 現時点で最も重要なのは、認知症が疑わるような行動が見られたら、できるだけ早く専門医を受診することです。