認知症の画像検査

認知症」の診断の際に、SPECTやMRIなどの「画像検査」を併せて行なうことで、 より詳しく、正確に判断することができます。 現在、「アルツハイマー病」を根本から治すさまざまな薬の開発が進められており、 画像検査を取り入れた早期診断が注目されています。


■認知症の画像検査

認知症のタイプを診断することが可能に

認知症かどうかを判定するためには、問診や認知機能検査などの「臨床診断」が行なわれます。 ここに「画像検査」を加えると、診断がより正確になることがわかっています。 例えば、アルツハイマー病の場合、臨床診断のみでは正しく診断できる確率が約65%だったのが、 画像検査を加えた場合、約84%に上がったというデータもあります。
認知症には、「アルツハイマー病」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」などのタイプがあり、異常の現れる脳の部位が異なります。 問診などの臨床診断に加えて、画像検査を行なうことで、認知症のタイプをより正確に診断し、的確な治療をすることができます。

【関連項目】:『認知症の種類』


●画像検査の種類と特徴

脳の形態や血流、糖の代謝などを調べる

認知症の診断で行なわれる画像検査には、次のようなものがあります。

▼CT(コンピュータ断層撮影)
エックス線で撮影し、脳の断面図を描き出します。脳が萎縮していないかどうかなど、形態を調べるのに使われます。 「脳血管障害」や「脳腫瘍」がないことを確認するのにも有効です。 広く普及しており、多くの施設で受けることができます。

▼MRI(磁気共鳴画像)
磁気を使って、断面図を描き出します。解像度が高く、脳の細かい形態を確認するのに適しています。 現在、日本全国の約3000の施設に設置されています。

▼SPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)
放射性医薬品を注射し、γ線を利用して脳の血流を調べます。血流が低下している部位は、 脳の機能が低下していると判断できます。脳の萎縮が現れていない、早期のアルツハイマー病の診断に役立ちます。も SPECTは、全国の約900施設に設置されています。

▼PET(陽電子放出断層撮影)
脳の神経細胞は、糖をエネルギー源としています。脳の機能が落ちていると、糖の代謝も悪くなります。 PETは、放射性医薬品を注射し、γ線を利用して糖の代謝の状態を調べ、画像化する検査です。 SPECTと同じく、早期のアルツハイマー病を発見するのに有効です。 PETを設置している施設はまだ少なく、全国で200程度です。

●画像検査のポイント

認知症のタイプにより重点的にチェックする脳の部位が異なる

▼アルツハイマー病
記憶にかかわる「海馬」や、海馬と関係の深い「帯状回後部」、頭頂葉の内側にある「楔前部」をチェックする。

▼レビー小体型認知症
アルツハイマー病と同様、帯状回後部、楔前部をチェックする。 さらに、「後頭葉」も重点的に調べる。

▼脳血管性認知症
「前頭葉」には、脳梗塞や脳出血が起こりやすい「中大脳動脈」があるため、前頭葉を中心に調べる。

●コンピュータを利用した「画像統計解析」

MRIやSPECTの画像から、アルツハイマー病かどうかを肉眼だけで診断するには時間がかかります。 最近は、コンピュータでこれらの検査画像を自動的に調べて、アルツハイマー病による異常の有無をチェックする ソフトウェアが開発されています。これにより、アルツハイマー病の画像診断が迅速に行なえるようになってきています。

●1MIBG心筋グラフィー

レビー小体型認知症では、交感神経の機能が低下し、交感神経の支配下にある心臓の筋肉(心筋)の働きにも影響が現れます。 心筋の状態を調べ、レビー小体型認知症なのかどうかを判断するのがこの検査です。 交感神経の機能が低下していると、「MIGB」という放射性医薬品が心臓の交感神経に取り込まれないため、 画像に心臓が写りません。このような場合、レビー小体型認知症と診断することができます。


■アルツハイマー病の早期診断のために

アルツハイマー病になる前の段階を画像検査で見つける

アルツハイマー病は、画像診断の進歩によって、認知症の前段階ともいえる「軽度認知障害」の段階で 発見できるようになってきています。 ただし、その人たちすべてがアルツハイマー病に進むわけではありません。 進む可能性を検討するためには、SPECTやPETで脳の「頭頂葉」を調べることが有効です。 頭頂葉やその周辺には、楔前部や帯状回後部など、早期から異常の現れやすい部位があります。 ここに血流や糖の代謝の低下があると、アルツハイマー病を発症しやすいことがわかっています。 現在、「セレクターゼ阻害薬」をはじめとする、アルツハイマー病を根本から治す薬の開発が進められています。 こうした薬を効果的に用いるためにも、より早期の診断法の確立が期待されています。

●新しい検査法も研究されている

PETを使った「アミロイドイメージング」という新しい検査法の研究も進められています。 「アミロイド」とは、アルツハイマー病の原因と考えられている物質で、認知症が現れる約20年前から 脳にたまり始めていることが知られています。 そこで、脳にアミロイドがたまっているかどうかを調べる検査法の研究が進められてきたのです。 静脈注射で「PIB」という放射性医薬品を体内に入れ、しばらくしてからPETで脳を撮影します。 アミロイドの多い部分がはっきりと写し出されるのです。国内では、まだ数ヶ所の施設で研究されているのみですが、 将来は有用な検査になると期待されています。
アメリカでは現在、アルツハイマー病の早期診断法を確立するために、MRI、PET、 アミロイドイメージングなどを比較・検討する、大がかりな研究が始められています。 日本でも将来、同じような研究が開始される予定です。