耳鳴り・難聴と認知症
④高い音が聞きづらい
高い音が聞きづらいのは難聴の初期症状で、脳が活力を失って記憶力も低下。
■老人性難聴
難聴は高音を感じる細胞から劣化が進み、言葉遊びが増えたら聴力低下の可能性大
社会の高齢化が進むにつれ、加齢に伴って聴力を落とす人が非常に増えています。 加齢とともに起こる難聴は、「老人性難聴」と呼ばれています。 65歳を過ぎると多くの人が発症しますが、早い人では40代から聴力の衰えを感じるようになります。 さらに、65歳以上になると25~40%、75歳以上は40~66%、85歳以上では80%もの人が難聴になると報告されています。 老人性難聴の特徴として、初めのうちは、ささやき声のような小さな音が聞き取りにくくなります。 通常は自覚症状がないまま、徐々に進行していきます。初期段階では、高い音ほど聞き取りにくく、電話の呼び出し音や ドアのチャイムなどが聞こえにくくなる傾向があります。
老人性難聴になると、音が聞こえにくくなるばかりではありません。高い音が若いときに比べてうるさく感じるようになったり、 音が響いて聞き分けるのが難しくなったりします。 少し変わった例ですが、実は中高年男性に言葉遊び(駄洒落)が多いのも、難聴のせいかもしれないと指摘する専門家もいます。 私たちの脳は、聞き取れない音があると、記憶の中枢から似ている言葉を探して推理しようとします。 例えば「電話」と「出んわ」、「カレー」と「辛え」などの同音異義語や、「蝶々」と「包丁」といった母音が同じ言葉など、 聞き取れなかった言葉の候補が次から次へと頭に浮かびます。その影響で、「家に電話しても、誰もでんわ」 「このカレーは辛え」などと、言葉遊びをしてごまかすことが増えるというのです。
老人性難聴になると高い音から聞き取りにくくなる理由は、耳の構造が大きく関わっています。 外界から耳に入った音は、空気の振動となって鼓膜に伝わり、内耳で元の音の20倍にも増幅されて、かたつむりの形に似た蝸牛 という器官に伝えられます。空気の振動によって、蝸牛内部を満たしているリンパ液が揺れ、蝸牛の中にある無数の有毛細胞が 音の高低に反応し、信号を電気信号に変換します。その後電気信号は、聴神経を通じて大脳皮質(大脳を覆う外側の襞。 運動・知覚・言語などの中枢のある部分)の側頭葉にある聴覚野へ送られます。このような複雑な過程を経て、 私たちは音を認識しているのです。 蝸牛の中にある無数の有毛細胞は、ピアノ線の鍵盤のように並んでいます。手前にある有毛細胞が高周波音(高い音)を感知し、 奥にある有毛細胞ほど低周波音(低い音)を感知します。有毛細胞は1秒間に最高2万回も振動しながら、集まってきた音を 電気信号に変えて脳へ送る役割を果たしています。特に、手前にある高周波数音を感知する有毛細胞は常に音にさらされているため、 劣化が進みやすいのです。有毛細胞は、一度劣化すると元通りに再生することはありません。 そのため、高い音から聞こえにくくなるのです。
■認知症
難聴で音の情報が脳に伝わらなくなると、脳への刺激が減って認知症を引き起こす
老人性難聴の問題は、音が聞こえにくくなることだけではありません。高齢社会の最重要課題の一つである「認知症」 を引き起こす危険もあるのです。私たちが外から受け取る情報は脳に送られ、脳での情報処理を経て理解(認知)されます。 通常耳からの情報は24時間休むことなく、絶えず脳へ送られています。しかし、難聴などで耳が聞こえにくくなれば、 耳からの情報が減って、脳への刺激も減ります。「聴く」という認知能力の使用回数量が激減するわけです。 人間の脳は使えば使うほど活性化しますが、逆に使わなけれぼ衰えを防ぐことができません。 聴覚による刺激は脳を活性化させるうえで重要なものです。後天的に難聴になるということは、脳への刺激が減って結果的に 認知症を引き起こし、進行させてしまう恐れがあるのです。認知症の危険を増大させないためにも、年を取ったら難聴の予防に取り組むようにしましょう。