認知症予備軍

物忘れをはじめ、さまざまな症状が現れる認知症。 この認知症と診断される前の段階を、認知症の「予備軍」といいます。 予備軍とはどのような状態なのか、詳しくお伝えします。


■増加する認知症患者

社会の高齢化や生活スタイルの変化が背景に

日本の認知症の患者さんは、2012年の時点で約462万人。65歳以上の人の約15%と推計されています。 認知症の患者数は増え続けており、2015年には約700万人になると予測されています。 認知症が増えている最も大きな理由が社会の高齢化です。 しかし、それだけでは説明がつかないほどの増加傾向がみられます。 背景には生活スタイルの変化もあるといわれ、特にアルツハイマー型認知症 の増加に関係していると考えられています。生活スタイルの変化には、食生活の欧米化、自動車の普及に伴う運動量の減少、 核家族化による家族との会話の減少などがあります。今や、だれもが認知症になる可能性があるのです。


■認知症の症状

物忘れなどの中核症状と徘徊などの周辺症状がある

●中核症状

脳の障害が原因で起こり、認知症になると誰にでも現れる症状です。 代表的な中核症状が、物忘れ(記憶障害)です。老化による物忘れは、会った人の名前や朝食べたものを思い出せないというように、 体験したことの一部を忘れます。ところが認知症の物忘れは、会った人と自分の関係や朝ご飯を食べたこと自体を忘れるというように、 体験したことのすべてを忘れてしまいます。そのため日常生活に支障が生じます。 中核症状はほかにも、料理や買い物ができなくなる実行機能障害、日時や場所が悪くなる見当識障害もあります。 着替えられない・道具が使えないといった失行も中核症状です。 相手の話の内容がわからなくなる言語障害、判断力障害、視力に問題はないのに見ているものを認識できない失認も 中核症状に含まれます。


●周辺症状

脳の障害が直接の原因ではなく、誰にでも必ず起こる症状ではありません。 周辺症状には、暴言・暴力、徘徊、幻覚、妄想、睡眠障害、不安・焦燥、うつ状態、せん妄、異食・過食、不潔行為、介護への抵抗、多弁・多動 などがあります。周辺症状は、中核症状に対する不安や、周囲に理解してもらえないつらさ、環境や患者さんの性格などが影響して現れます。


■認知症のタイプ

最も多いのはアルツハイマー型認知症

認知症は大きく4つのタイプに分けられます。

アルツハイマー型認知症
最も多く、認知症の約70%を占めます。アルツハイマー型認知症では、脳にアミロイドβたんぱくという物質が蓄積して、 茶色いシミのような老人班ができます。その影響で脳の神経細胞が障害されます。 また、アミロイドβたんぱくが蓄積する過程で、脳内の正常なタウたんぱくが変化し、神経細胞が死滅します。 こうした変化が起こると、まず記憶をつかさどる海馬が委縮し、記憶障害が起こります。 やがて、脳全体に委縮が広がって、さまざまな症状が現れてきます。

脳血管性認知症
脳卒中に伴って起こります。多くの場合、突然発症したり、急激に悪化したりします。 本人が気づいていない小さな脳梗塞や脳出血で起こることもあります。

レビー小体型認知症
レビー小体という異常なたんぱく質の塊が、脳に溜まるために起こります。 物忘れの程度は比較的軽く、はっきりした幻覚が現れることがよくあります。

▼前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉が障害されて起こります。人のものを取る、順番が守れないなど常識から外れた行動が目立つようになります。


■認知症の進行

軽度より前の「予備軍」を見逃さない

最も多いアルツハイマー型認知症の場合は、認知機能が軽度、中等度、高度とゆっくり低下していきます。 軽度では、物忘れが起こり、日常生活に支障が生じてきます。中等度になると、物忘れの他にも、季節に合った服を選べなくなったり、 入浴を嫌がるようになります。入浴しても、体を洗うことができなくなります。 高度に進むと料理や掃除ができなくなったり、近所でも迷子になったりします。

●認知症の予備軍「軽度認知障害」

認知症の一歩手前の段階で、軽度認知障害(MCI)という状態があります。 軽度認知障害は、物忘れなどはあるものの、日常生活に支障はありません。 日常生活の支障の有無が、認知症と軽度認知症の境界線です。 アルツハイマー型認知症の場合、軽度認知障害の段階でも、すでに脳にはかなりのアミロイドβたんぱくが溜まっています。 アミロイドβたんぱくは、認知症を発症する20年ほど前からゆっくり溜まり始めることがわかっています。 日本には、軽度認知障害の人が約400万人いるといわれています。 それぞれの研究によって数値にばらつきはありますが、軽度認知障害の5~15%が、1年で認知症に進むと報告されており、 3~5年で約50%が認知症に進むと考えられています。しかし、軽度認知障害の段階で気付いて、頭を使ったり、運動をしたりという対策を行えば、 認知症の発症を妨げる可能性があります。 認知症では、脳の神経細胞の多くが死滅していますが、軽度認知障害の場合は、大部分は死滅しておらず、弱っている状態です。 この時点で適切な予防対策を行えば、それ以上神経細胞が弱るのを妨げる可能性があると考えられています。


●特に認知症に注意すべき人

糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のある人は、認知症になる可能性があり、注意が必要です。 高齢者の心臓病も認知症に影響すると考えられています。喫煙も認知症の危険因子です。 これら以外でも、体をあまり動かさない、知的活動を積極的に行わない、会話が少ないといった生活パターンの人は、 認知症になる傾向があるため、生活パターンを見直しましょう。