めまい対策に『抗血小板薬』
■抗血小板薬にめまいの特効作用を見出した
以下は、某病院医師の治療談です。
めまいと一口に言っても、その原因や症状はさまざまです。めまいの治療は薬物療法が中心になり、抗めまい薬のほか、 抗不安薬や利尿薬、漢方薬などを組み合わせて処方します。これらの薬を服用することで、めまいの多くは改善します。 しかし、めまいの症状がすでに慢性化している高齢者の場合、あれこれ手を尽くしても総じて治りが悪く、 診療に当たる私も頭を悩ませていました。
そんなある日のこと、私は神経外科医の藤田稠清先生が書かれた「血小板凝集能亢進症と疾患」という論文を読み、 衝撃を受けました。その論文では、めまいの72%に血小板凝集能亢進症が認められ、抗血小板薬を投与したら、 92%の割合でめまいの症状が改善したと書かれてあったのです。 血小板凝集能亢進症とは、血管が傷ついたときに凝集して傷口を塞ぐ血液成分の血小板の働きが過剰になる病態のこと。 この病態の人は、血液がドロドロになって血流が滞りがちだといえます。 抗血小板薬(正式にはシロスタゾール)とは、血液中の血小板の凝集を抑える薬のこと。 通常は動脈硬化の原因ともなる血栓を防ぐために用いられ、主に脳梗塞の治療に活用します。 実は、耳鼻科医の間でも血小板凝集能亢進症とめまいの関係については薄々知られていました。 しかし、抗めまい薬でもそれなりの効果があったため、抗血小板薬を試すことはなかったのです。 そこで私は、抗血小板薬によるめまいの改善効果を詳しく調べることにしました。
●脳幹や小脳の機能も改善した
まず、めまいを訴えて当院を受診した高齢(平均年齢69.3歳)の患者さん20人(男性6人、女性14人)を対象にしました。 この20人に、最初の一週間、シロスタゾールが50mg含まれる錠剤を毎日2錠ずつ摂ってもらい、そのあと3週間、 シロスタゾール100mgが含まれる錠剤を毎日2錠ずつ服用してもらいました。 そして、開始前と終了後でめまいの発作や他覚症状の有無などを調べ比較したところ、85%の人のめまいが完治したのです。 また、他覚症状としては、異常な眼球運動(時発眼振、頭位眼振)の有無を調べる検査で、全員に明らかな減少、 消失を認めました。また、別の眼球運動の検査(ETT、OKF)にて、めまいとかかわりの深い脳幹・小脳の機能が改善したことも 確認しました。脳幹・小脳というめまいに関係する後部脳は、年を取るほど老化が進むので、抗血小板薬は高齢者ほど 効果を発揮するといえます。ただし、脳出血を起こした人や、脳に外傷を負っている人は、出血が止まらなくなる危険があるため、 この治療は受けられません。