メニエール病対策①
耳の病気の中でも特に治療が厄介なものの一つに『メニエール病』があります。 メニエール病とは、自分や周囲の景色がグルグルと激しく回転しているように感じる回転性めまいが繰り返し起こり、 その発作に難聴や耳鳴り、耳閉感、吐き気などを伴う病気です。 19世紀のフランスの医師であるメニエールが初めて報告したことから、その名が付けられました。 メニエール病は近年、増加する傾向にあります。以前は30代後半から40代前半の働き盛りの男性に多かったのですが、 最近では女性にも増えているためです。 めまいに難聴・耳鳴りも伴う難治のメニエール病は、リンパ液が滞る内耳のむくみが主原因とされています。
■発作を繰り返すうちに、難聴や耳鳴りも慢性化
『メニエール病』の主な症状であるめまいの発作の起こり方は、患者さんによってさまざまです。 数十分で治まる人もいれば、数時間にわたって続く人もいます。発作が起こる間隔も週1回から年に数回と人によって違います。 ただ、メニエール病でめまいばかりに気を取られてはいけません。めまいの発作に気を付けるのはもちろんですが、 発作とともに起こる難聴や耳鳴りにも注意を払う必要があります。 というのも、発作を繰り返すうちに一時的に起こる難聴や耳鳴りも回復しづらくなっていき、病状が進行していくと、 めまいの有無にかかわらず日常的に難聴や耳鳴りが起こるようになるためです。 メニエール病は、耳の病気の中でも特に慢性化しやすい病気で、実際に厚生労働省からも難病に指定されています。 また、重症化すると症状が両耳に出たり、外科手術が選択されたりすることも珍しくありません。 そうならないためにも、メニエール病を発症したら、できるだけ早く適切な治療を始める必要があります。
●内耳の膜が破れてリンパ液が混じる
メニエール病は、耳の最も深い部分にある内耳という器官に余分なリンパ液が滞り、内耳がむくむために起こるとわかっています。 この状態は専門的には「内リンパ浮腫」といいます。 内耳は、主に平衡感覚に関わる「三半規管」と、音を感知する「蝸牛」から成り立っています。 このうち、蝸牛の内部は膜によって三つの部位(前庭階・鼓室階・蝸牛管)に仕切られ、それぞれ外リンパ液と内リンパ液で 満たされています(左図参照)。
ところが、何らかの原因によって蝸牛管を満たす内リンパ液が過剰になると、前庭階と蝸牛管を仕切る膜(ライスネル膜) が圧迫されて押し上げられ、破れてしまいます。すると、外リンパ液と内リンパ液が混ざり合い、 内耳の神経に異常な刺激が伝わります。その結果、蝸牛や三半規管など内耳全体の働きが乱れ、めまいや耳鳴り、 難聴をはじめとするメニエール病の症状が起こる、というわけです。 破れたライスネル膜はしばらくすると癒着して塞がりますが、再び内リンパ液が過剰になると同じ事が起こります。 こうして、メニエール病の発作が繰り返されるわけです。
●利尿薬の服用で内耳のむくみを正す
残念ながら、内リンパ水腫が起こる理由はまだはっきりとわかっていません。 ただ、内リンパ水種がメニエール病を起こす原因となることはわかっているので、耳鼻科などでは、一般的に内耳の過剰なリンパ液の 排出を促す薬物療法が行われます。薬物療法の中心となるのは利尿薬です。 利尿薬は、尿の生成を促して体内の水分を体外に排出する薬ですから、内耳のむくみとも表現される内リンパ水腫を改善させる 効果も期待できるというわけです。 また、これに加えて、不安感を鎮める精神安定薬や内耳の血流の循環を促す血流促進薬なども用います。
メニエール病の発作は、ストレスや疲れがたまっているときに起こりやすくなる傾向にあります。 治療では、仕事などでのストレスをなるべく避けるとともに、疲れを溜めないようにふだんから十分な休息を取るなどの 生活改善も重要となります。